隣の隣は超大国
雄黄国にて、江喜、苑儒、金統、そして雄黄の四家が一同に介した。この四か国は十年前、玲祈の母の手動の元、連合国家となった。盟主は数年おきの交代制である。この年は玲祈が盟主の年であるため、会合の進行は全て玲祈が執り行うこととなっている。
「それでは、始めさせていただきます。」
今回の議題は、西大陸の北西部を中心に勢力を拡大する大国、眞への対応についてだ。予め、各国の家老の間で話はついている。結論から言えば、眞に対しては友好的であるべきだということになっている。だが、苑儒蓮介や江喜の一部の臣下は徹底抗戦を訴えており、完全にまとまっているわけではない。
会合が始まるや否や、蓮介が切り出す。
「家老衆の会合では、戦を避けるべきと決まったと聞くが、やはり考え直すべきだ。 眞はいずれ我らの敵となる。今の内に叩くべきだ。」
ここで、双歩が玲祈に目配せする。玲祈は小さく頷き、蓮介に物申す。
「あの、よろしいですか?」
「なんなりと。」
「眞の総兵力は五十万あると聞きます。対する我らは三十万、勝てたとしても辛勝は確実。犠牲を減らすためにも、穏便にいくのがよいかと。」
「青いっ!」
「うっ……」
蓮介の大声に玲祈は気後れする。
「玲祈殿、そなたは若い故分からんだろうが、口だけで分かり会える者はごく一部。 加えて、眞帝の孟秀は中央集権国家を目指しておる。連合制の我らとは相容れぬ存在なのだ。」
「そ、それでも、眞も損害はできるだけ避けたいはずです!」
玲祈は拳を強く握り、必死に食らいついていく。このままいっては話が進まない。そこで蓮介は、流玄に意見を求める。
「金統殿の意見をお聞きしたい。」
意見を求められた流玄であったが、この議題自体には興味は薄いらしく、口髭をいじっているだけである。
「手前はどちらでも。」
「金統殿! これは我らの存亡についての会合! 何を呑気な!」
怒鳴り声を上げる蓮介に対し、流玄は淡々と話を続ける。
「戦となれば、眞と隣接していない当家は後方支援に回ることとなります。さすれば武器兵糧が売れ、儲かる。和睦となれば、眞という新たな市場に進出して儲かる。故に、手前はどちらでもよいと申したまで。」
「金統殿……(怒)」
蓮介の顔に血管が浮かび上がってきた。明らかに空気が重くなってきている。これは流石に不味いと思ったのか、双歩が二人の間に割っている。
「お二人とも、感情的になってはならん。」
だがこの仲裁が、双歩自身を追い詰めることとなった。
「そう言う江喜殿は、どちらなのだ? 戦か?和睦か?」
蓮介の矛先が双歩に向けられる。
「それは……」
またしても双歩は、目で玲祈に助けを求める。 だが、玲祈が助ける前に蓮介の怒鳴り声が響く。
「玲祈殿に頼ってばかりいないで、己が意見をはっきり申さぬか!」
「あ……何と言うか……」
~六時間後~
玲祈の頑張りにより、何とか会合は終わった。三人の大名は各々の国へ引き上げ、残された玲祈は、座布団を枕にしながら大きなため息をついた。
「お疲れ様でした。」
影奏がお茶を持ってやってきた。何とか起き上がると、玲祈はお茶を一口飲み、またしても深いため息をつく。
「はぁ、」
「結果はどうなりました?」
「同盟を結ぶってことで決まったよ。 苑儒殿には、“青い”とかボロクソ言われちゃったけど……。」
やはり、経験豊富な大名の集まるなかで、十八歳の玲祈が気丈に振る舞い続けるのは楽なものではないだろう。顔から疲れが滲み出ている。
「それでも、姫様はよく頑張りました。ご立派です。」
そう言うと影奏は、玲祈を優しく抱き締める。影奏の豊かな乳房に顔を埋める玲祈の顔は、実に安らいでいる。
「そう言ってくれると嬉しい……、スゥー」
玲祈は影奏の胸に顔を埋めた状態で、思い切り匂いを嗅ぎ始めた。
「またですか?」
これは毎度のことのようで、影奏も特に抵抗することなく受け入れている。
「だって、影奏の匂い嗅いでると落ち着くんだもん。 」
そして、また匂いを嗅ぎ始める。
「くすぐったいんですから、あと二、三回で終わりですよ?」
「うん、スゥー」