表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界戦記は何気にハード  作者: ポン害山城
雄黄編
24/174

常勝丞相動き出す

「栃瀬山城には一万石。胡久原城には五千石搬入して。」


「御意!」


 雄黄城の広間から、玲祈の軽快な指示が飛ばされる。戦が始まってから半月、戦況は雄黄軍有利に進んでいた。半月も経っていると、玲祈も仕事に慣れ、スムーズに指示を飛ばせるようになってきている。そして、余裕が出てくるにつれ、玲祈にはある心配事ができてしまう。


「……」


「どうかなさいましたか?」


 無言で筆を見つめる、と言うより、何もないところを見詰めて呆けたようになっている玲祈に、文官が声をかける。


「ちょっと心配事があって。」


「よろしければ、お聞かせ下さい。」


 少し言いずらそうにしていた玲祈であったが、胸のつかえを取っておこうと思ったらしく、全てを話した。


「実は、江喜殿のことが心配で……」


 玲祈の心配の種は、江喜双歩であった。国を追われ、挽回の機会を望んでいるにも関わらず、未だにその機会は巡ってこない。加えて玲祈は、最初は双歩が無茶をしないようにと、主戦場から離れた琅尹(ろうゆん)城に据え置いた。だが、時間が経過するにつれ、双歩の焦りは募っていくばかり。それを玲祈は心配しているのだ。


「確かに。では、江喜様の臣下に探りを入れてみましょう。」


「それはさっき聞いたよ。」


 先回りして聞いていたことを知り、文官は玲祈の成長ぶりを実感したかのように、小さくうなずいた。


「そうでしたか。 それで、何と申しておりましたか?」


 次の瞬間、玲祈の表情が曇る。どうやら、良いとは言い難いらしい。


「あんまり元気ないって言ってた。」


「なんと、それは問題ですな。 では、他の文官達に声をかけておきます。さすれば、何かいい案が出るやもしれません。」


 良かれと思ってした進言したのだろうが、玲祈はそれをすぐに止めた。


「待って、それは駄目。」


「何故でしょう?」


「敵の間者がいたら、すぐに知られちゃうかもだから。 あたし達二人だけの秘密にして。」


「承知しました。 考えが至らず、申し訳ありません。」


「謝らないで、悪気は無いんだもん。」


 著しい成長を見せる玲祈。もう数年早く戦を経験していれば、この戦でもより素晴らしい功績を挙げたことだろう。間違いなく、名君の片鱗が見える。だが、それ故の不幸が起こりつつあった。玲祈が危惧している双歩のことだ。





 雄黄城の北西、琅尹(ろうゆん)城。ここに、双歩率いる二千の軍勢が駐留していた。その琅尹城の本丸から、小さな物音が鳴り響いている。


 金槌で軽く板を叩いたようなその音に、臣下達も苛立ちを覚えている。この物音の正体は、双歩の貧乏揺すりであった。鼻息を荒くし、目の下には隈ができ、目は充血している。恐らく、ろくに眠っていないようだ。


「出陣はまだなのか?」


「はい。」


「おのれっ!」


 怒りに身を任せ、双歩は机をひっくり返し、逆さに倒れた机に追い討ちをかけるように、何度も踏みつける。


「我が君、落ち着いて下され!」


「これが落ち着いていられるか! 未だに出陣の指示が来ぬ!

 こうなればっ!」


 自らの刀を取りだし、外へ飛び出そうとする。臣下達は血相を変えて、双歩を取り押さえた。


「お待ちくだされ!」


「離せっ! このっ!」


 このまま押さえ付けるのは不可能と判断した将軍が、双歩の腹にきつい一発を食らわせた。


「御免っ!」


「むっ!?」


 双歩は力なく倒れ、寝所へ連れていかれた。だが、起きればまた暴れだすかもしれない。それを心配した臣下達は、玲祈に使者を送り、何とか出陣できるようにしてもらおうとした。だが、その試みはあまりにも遅すぎた。あの女の策謀が、今まさに、この琅尹城を呑み込もうとしていたからだ。




「」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ