玲祈の剣は今は筆
前の戦で死者一万、負傷者八万を出したものの、まだ十二万の兵が残っている。雄黄軍の不利は、まだまだ続いていた。そんな中で、影奏はゲリラ戦を決行した。
深夜三時、無数の篝火が灯る眞軍の夜営地。その付近の崖の上から、影奏率いる騎兵が見下ろしていた。
「間者より報せが参りました。 東口の守りが手薄とのことです。」
「分かった。」
影奏が手を上げると、弓兵が騎兵と合い組し、騎兵は強く手綱を握りしめる。
「架かれぃ!」
一気に崖を下り、弓騎馬隊が夜営地に雪崩れ込む。奇襲を受けた眞軍は混乱し、この場に蓄えられていた兵糧は全て奪われたのだった。
奇襲は見事に成功し、影奏は燃え盛る夜営地を見つめていた。
(このままいけば、敵は兵糧不足で退くだろう。 ……さて、姫様はどうしておられるだろうか?)
影奏が奮戦しているその時、玲祈は筆を持って戦っていた。文官が代わる代わるやって来ては、山のような書簡を持ってくる。前線にいる負傷兵と、後方にいる兵の入れ換え。兵糧の搬入。武器の調達。全て玲祈自ら取り仕切っている。
(ちょっと兵糧が足りないな……)
勝ち戦が続いているとは言え、図らずも損失は大きく、兵糧は飛ぶように消費されていく。そんな時に、嬉しい報せがやって来た。
「お喜びください! 金統様より、三万石の兵糧が送られて参りました!加えて、苑儒様からも、馬三百頭が送られて参りました!」
どちらも苦しい中、できうる限りの支援をしてきてくれていることに、玲祈は涙を浮かべて喜んだ。
「すぐにお礼の書状をしたためるから、お二人に届けて。」
「御意っ!」
万事上手く行っているかに思われた戦だったが、この後、戦の様相は大きく変化していく。




