馬鹿を廃していざ出陣
国境での大勝利は、すぐに本城の玲祈の元へと届けられた。不安で胸膨らませていた玲祈は、報せを受けるなり飛び上がって喜んでいる。
「やったーっ!」
「姫様、もう少し落ち着かれませ。」
いさめる文官達も、態度では押さえているが、確かな喜びを感じている様子だ。
そんな時、帝都では、別の思惑が蠢いていた。
帝都の一角に、質素ながら存在感のある建物がある。人々は、そこを丞相府と呼ぶ。その丞相府にて、暁権と冥興が密談をしていた。
「なぁ、なんであんな馬鹿を大都督にしたんだ?」
不服そうに問いかける冥興。実は、今回の出征の直前、帝に大都督にして欲しいと嘆願したものの、それをはね除けられたのが相当悔しいらしい。
「あの男にしかできないからですよ。」
「へぇ。 大敗して討ち取られる奴が適任だってのか?」
皮肉る冥興だったが、暁権は首を横に振る。
「いいえ、適任とは言っていません。端的に言うと、厄介払いです。」
「どう言うことだ?」
「あの男は、先帝に媚びへつらい、今の地位を手にしました。現帝は聡明ゆえ、あの男を重用しませんでしたが、それでも無視できない存在です。」
「だから、失敗させて処罰しようと?」
「はい。 お陰で、邪魔な派閥を一掃できました。」
不服を申し立てていた冥興だったが、真相を聞くと、満面の笑みを見せる。
「そう言うことだったか。けど、もう一つ気になることがある。」
「なんですか?」
「なんで帝は、あんな山ばっかで、ちっぽけな半島が欲しいんだ? むこうは従うって言ってたんだから、受け入れりゃ良かっただろ?」
この問いを、暁権ははぐらかした。
「さて、どうしてでしょうね。」
「知らねぇ訳ないだろ。 帝の懐刀のお前がよ。」
「さて、どうしてでしょうね。」
二度連続で同じ回答をされ、冥興は眉間にしわを寄せる。
「てめぇ、ふざけんのも大概にしろよ?」
咥えていた煙草を摘まむなり、冥興はそれを暁権に押し付けようと手を突き出す。一方の暁権は、押し当てられまいとその手を止めた。
「止めてください。 」
「じゃあ答えろ。」
押し付けようとする冥興、それはさせまいとする暁権。とは言え、力では冥興に勝てるはずもない暁権は、遂に観念する。
「それは、いずれ帝が自ら語られるはずです。」
「てめぇが答えろ。」
「帝から口止めされているのです、お察し下さい。。」
帝の名を出されては、冥興もそれ以上追及することはできない。舌打ちして、黙りこんでしまった。
「ちっ」
「そんなに不機嫌にならないで下さい。 これから、あなたには存分に戦っていただきますから。雄黄国でね。」
雄黄国で戦える、そう聞いた途端、冥興は暁権の方へ勢いよく振り返った。
「……あの女、影奏だったか。 あれと戦わせろ。」
「はい、どうぞご自由に。 では、参りましょうか。」




