十八歳の領主様
城から程近い場所に田園地帯がある。その中の田んぼにて、農民に混じり、慣れた手つきで稲を植える少女がいた。彼女の名は雄黄玲祈。この国の領主だ。
「終わった~」
玲祈はぐーっと体を伸ばすと、近くの石に腰を下ろした。
「姫様、お疲れ様でした。一杯どうぞ。」
畑の主がやって来て、玲祈にお茶を進める。
「ありがと。 それで、息子さんの具合は?」
「はい。養生所でいい薬を煎じてもらったお掛けで、随分よくなりました。 なんと礼を言っていいか。」
「お礼なんていいよ。お大事にって伝えておいて。」
「はい。それより、いいんですか? 今日は何かがあるって門番が言ってましたけど?」
「大丈夫、大丈夫。まだ余裕。」
「姫様ーっ!」
のんびりとした空気は一瞬で消しばされた。一角獣に股がった鬼、もとい鬼のような形相を浮かべた影奏が駆けてきたのだ。これを見るなり、畑の主は顔面蒼白。汗を垂らしてその場に硬直してしまう。
「え、影奏……。これはその……」
何とか取り繕うとする玲祈。だが、そんなものが通じるわけがない。影奏は眉を釣り上げ、腕を組み、玲祈の前に仁王立ちする。
「呑気に茶など飲んでいる暇はありません! 早く城に帰りますよ!」
「まだ時間じゃないし……」
「口答えは結構! 当主が会合に遅刻するなどとあっては、大名衆の笑い者になります!」
「あうぅ、ごめんなさい。」
影奏の剣幕に圧され、玲祈は頭を抱えて小さくなってしまう。それを見かねた畑の主は、二人の間に割って入った。
「まぁまぁ、悪気があったわけじゃないでs……」
「あぁん?」
「ひっ! な、何でも無いです!」
暫く沈黙が続くと、影奏は小さく息をつき、玲祈に馬に乗るよう促す。
「それじゃ、またね。」
「は、はい。姫様も頑張ってください。」
畑の主は、冷や汗をかきながら二人を見送る。何とか笑顔を作って影奏を刺激しないようにしているが、影奏はじっと畑の主を睨み続ける。
「おい。」
突然、影奏から声をかけられ、畑の主は小さく飛び上がった。
「はいっ!?」
「人手が足りないなら、次からは城に申し出ろ。いいな?」
「は、はい。」
てっきり雷の一つも落とされるのかと思っていたのだろうが、まったくそんなことはなかった。むしろ優しくされたことで、畑の主は口を開け、またしても硬直する。
「では姫様、参りますよ。 はっ!」
一角獣が、二人を乗せて駆け出す。
「ひゃ! ちょっと影奏、もうちょっとゆっくり走って!」
「なりません! 早く泥を落としていただかないと!」
「ひぃぃぃぃっ!」
ここから、影奏の小言が続く。
「まったく姫様は。 いつもふらふらと(怒)」
「これからは気を付けるから!気を付けるから!だからもう少しゆっくり走ってぇぇぇぇっ!」