遂に来ました、いざ進軍
眞との戦は、刻一刻と近付いていた。いや、最早いつ起こってもおかしくない。江喜国との国境に展開していた十万の軍勢は、依然として陣を払う気配がない。加えて、苑儒国との国境にも十万の眞軍が出現。玲祈達も、いつ援軍要請が来てもいいよう、万全の構えで待機していた。
雄黄城の本丸では、床几(折り畳み式の椅子)や陣幕が張られている。部屋には玲祈と影奏の二人だけがおり、玲祈は周りを見回している。
「姫様、もう少し落ち着いてください。」
影奏は苑儒蓮介から届いた書状を読みながら、玲祈を注意する。ちなみに、連介からの書状には“援軍は無用”と書かれている。なんとも武闘派の蓮介らしい内容だ。
「ごめん。でも、どうしてもそわそわしちゃって。」
「戦となれば、常に一緒にはいられないのですよ。今の内に気を静めておいてください。」
「うん。」
そうして玲祈は、深く息を吸う。そして吐こうとした瞬間、伝令が飛び込んできた。
「御報告いたします! 江喜家よりの使者が参られました!」
「す、すぐ通して!」
突然のことに驚きつつも、玲祈は背筋を伸ばし、ぐっと歯を食い縛る。
少しすると、江喜国の使者がやって来た。
「お目通り叶い、恐悦至極に存じます。 主君より書状を預かって参りました。 できますれば、この場にてお返事を賜りたく。」
書状は、使者から影奏へ、影奏から玲祈へと渡される。玲祈が書状を開くと、そこには援軍として参戦してほしい、との内容が記されていた。勿論、玲祈の返事は決まっている。
「直ちに出陣しますと、江喜殿に伝えて。」
「かたじけのうございます! では、某はこれにて!」
一刻も早く、主君へ報せに戻ろうとする使者。それを、影奏が止めた。
「待たれよ。」
「どうかなさいましたか?」
何事かと思っているらしく、使者は首をかしげた。
「金統様にもこの事は伝えてあるのか?」
「はい。既に別の者が向かっております。」
「承知した。 呼び止めてすまなかったな。」
「いえ。 それでは、これにて。」
使者は急ぎ、城を後にした。一方、影奏は玲祈に、金統流玄に宛てた書状を書いてもらっていた。内容は、軍勢の合流場所についてだ。
「国境の卦裸湖東岸で合流。 これでいい?」
「はい、完璧です。直ちに金統様に送り届けさせます。」
だが、玲祈には心配事があった。
「でも、大丈夫かな? 金統殿って、あまり戦とか感心無さそうだけど。」
以前の会合の際、流玄は常にどっち付かずの言動を取り続けていた。今回もどっち付かずの動きをする可能性は十分にあり得る。だがそんな心配を、影奏は一蹴した。
「ご安心を。 金統様は必ず戦います。」
「なんで?」
「眞の狙いは、我ら連合国の併呑。となれば、金統様も動くしかありません。それにあの眞が、今さら従属を許すこともないでしょうしね。」
「言われてみれば確かに。」
一つ心配事が減り、玲祈はほっと胸を撫で下ろす。
「納得が行ったようなら、すぐに出陣しましょう。 今日中には江喜国に入らねばなりません。」
「うん、行こう。」
決意を固めた玲祈は、二万の軍勢を率い江喜国へと向かった。
眞との決戦まで、あと十六日。




