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異世界戦記は何気にハード  作者: ポン害山城
雄黄編
11/174

戦始まる五秒前

 眞との国交を開くという当初の目的は、半ば強引に打ち切られた。眞の大軍が、江喜国との国境にて大規模な軍事調練を開始したのが最大の原因である。最早、眞と連合国との戦は、避けられないところまで持ち込まれてしまったのだ。




 影奏からの報せを受けた玲祈は、武器兵糧を調達していた。慣れない兵站(へいたん)の仕事ではあったが、文官達の協力もあり、なんとかやり遂げることができたようだ。


「んん……」


 やることが全て終わってしまうと、玲祈は小さく唸りながらそわそわし始める。一度も経験したことのない戦が目の前まで迫ってきているのだ、無理もない。


「姫様、お茶です。」


 文官がお茶を差し出した。


「ありがとう。」


 お茶を受け取り、玲祈はふーふーっと息を吹き掛け、それからゆっくりとお茶を飲む。やっと落ち着いてくれたか、と、文官は安堵する。それもつかの間、文官はあることに気付いた。震えているのだ、玲祈の手が。


「もうすぐ影奏様がお帰りになります。ご案じめさるな。」


 優しい言葉に、玲祈は笑みを見せる。


「うん、そうだよね。 ごめんね、心配かけちゃって。」


「いえ。 主君を助けるのは、臣下の務めにございますれば。 では、某はこれにて。」


 文官が去り、部屋には玲祈一人が残った。すると笑みは消え、玲祈はじっと茶碗を見つめる。


(どうしよう……戦なんて初めてなのに……)


 茶碗を握る手に、少しずつ力が入っていく。


(もし、負けちゃったら……)


 不安が不安を呼び寄せ、玲祈の思考はよくない方向へと向かっていく。息づかいは荒くなり、わしゃわしゃと頭をかきむしる。そこへ、先程の文官が戻ってきた。


「姫様。」


「……」


 回りが見えなくなっているのか、玲祈は返事をしない。事情を知っている文官は、もう一度、呼び掛けてみた。


「姫様?」


「あ、ごめん。 どうしたの?」


 やっと気付いた玲祈に、嬉しい報せがもたらされた。


「先程、影奏様がお戻りになられました。」


「本当!」


 先程の不安はどこへやら。玲祈は急いで玄関へ向かった。



 玲祈が玄関に駆けつけると、ちょうど影奏が玄関に入ってきた。これまでの不安を振りほどくかのように、玲祈は駆け出す。それに気付き、影奏は両手を大きく広げ、受け止める準備をする。


「ただいま帰りました。」


「お帰り!」


 影奏の胸に顔を埋め、玲祈は心底満足そうにしている。対する影奏も、久々に元気な玲祈を拝めて微笑んでいた。だが、いつまでもこうしてはいられない。影奏は気を引き締め直した。そして玲祈の右手を掴み、真剣な眼差しを向ける。それを見た玲祈も、はしゃぎたい気持ちを抑え、影奏を見つめ返した。


「姫様、申し訳ありません。 交渉は失敗に終わりました。」


「……、仕方ないよ。 何でも上手く行くわけないもの。」


「最早、戦は避けられません。 ですがご安心下さい。 この影奏、必ずや姫様に勝鬨を挙げさせてみせます。」


 これ以上ない心強い言葉だろう。だが、玲祈にはまだ心配事があるらしい。


「うん、期待してるよ。 でも、あたし実戦なんて初めで、どうしたらいいか……」


 兵法書は読んでいるものの、玲祈は実戦経験がない。本の中の知識だけでは上手くいかないことは、玲祈は政治等の面で既に経験している。


「ご安心を。姫様は総大将なのですから、本陣でどんと構えていてください。」


 確かに、総大将が前線に出ることなどそう滅多にない。しかも国力差が歴然としている戦となれば、玲祈は前に出るわけにはいかないだろう。だが、若さ故の血の気の多さなのか、それとも向上心からなのか、玲祈は自らも力になりたいと申し出た。


「でも、あたしも力になりたい! 当主なのに、守られてばかりなんて嫌だ! 」


 自ら戦い、民を守ろうとする姿勢は素晴らしい。全体の士気も上がるかもしれない。だが、今の玲祈にはそんな力はない。率直に言えば、実績も実力もないもない総大将が前に出て来ては、それは足手まといにしかならないのだ。その事を、影奏はそのまま伝える。


「それはなりません。今の姫様では、前線に出たとしても、足手まといになってしまいます。」


「うっ……」


 玲祈は拳を強く握った。


「率直に申しすぎました、ご容赦ください。 」


「謝らないで。全部、影奏の言うとおりだよ。 なら、変わりに色々教えて。完全な足手まといにはなりたくないから。」


「承知しました。」


 自身の力不足を痛感させられながらも、玲祈は前だけを向いている。


 遂に、若き領主の初陣が始まろうとしていた。

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