もし一日前にタイムスリップすることができたら
「俺さあ、実は、一日だけだったら、タイムスリップできる能力があるんだよね」
「何をいきなり寝言を言い出してるんだ、このイトコ殿は」
奈那と久弥は同じ年のイトコであり幼馴染である。男女で高校生ともなると昔ほどべったり仲良くはないが、それでもたまにこうやって一緒に帰るほどには友好を保っている。恋愛関係ではない。
二人とも、信号が赤になったので、横断歩道の前で止まる。
毎日通っている通学路の十字路。交通量は多くもなく少なくもなく。
「というわけで、達者で暮らせよ、奈那」
「久弥――?」
何が起こったのか、わからなかった。
後で思い出したのは、けたたましいクラクションの音と、車線を逆走して自分達に向かって勢いよく暴走する白い乗用車と、とてつもない身体の痛みだけ。
その白い乗用車の運転手が突然死し、コントロールを失った車が、奈那と久弥をはねたということがわかったのは、次の日、病院で意識を取り戻した後だった。
久弥に突き飛ばされた奈那は、頭をうって気を失っただけで、他は擦り傷程度で済んだ。
しかし、久弥は、即死だった。
「バカな奴だなあ、久弥」
念のためと入院させられている病室で、奈那は鏡に左右対称に映る自分の顔を見ながら、目を閉じた。
「さすがはイトコ殿、同じ能力を持っているなんてね」
何度も繰り返したのだろう、という確信があった。事故を防ぐためならば、その現場に行かないのが一番だ。でも、久弥はそれを選ばなかった。理由はわからないが、それではダメだったのだろう。
事故は起きる。久弥か奈那か、どちらかが、死ぬ。そのどちらかだけが変えられる状態……なんだろうか?
「でも、このままだと、私と久弥の入れ替わりが続くだけだよね。どうしよう?」
奈那が一日前に戻った場合、そこにいるのは、何も知らない久弥だ。同じことが起きれば、同じように行動するだろう。
それを変えるには……嫌われるように努力する? 恋人ができたと言ってみる? お互い、両思いなのは、本当は知っていた。
それとも、ストレートに説明して、久弥に諦めるよう説得した方がいい?
「ま、なんでもやってみよっか」
今度は、奈那の番だ。久弥が奈那を助けるのを諦めさせるまで、奈那の一日タイムスリップは、続く。




