前触れ
「ねえ、このごろ高崎君って変じゃない?」
坪井まどかは、友達に言われて高崎徹のほうを見つめた。
「………そう?」
そう言ったものの、まどかも内心徹の様子が変だとは思っていた。
「無口なのは前からだけどさ、このごろすごい目で私たちの方見てるのよ。なんかすっごい怖い目で」
「そうだよねー、それになんか一人でぶつぶつ言ってるの。変じゃない?」
「受験ノイローゼとか。………この時期みんな大変だもん」
「えー、高崎君ってそんなキャラじゃないよ。………もうまどかは、小学校からずっと一緒だからあれかもしんないけど」
まどかは友達の言うとおり、小学校からずっと一緒だった。
だから、優しくまじめでお母さん思いの徹を知っているから、友達にどうしても同意できずにいた。
「見てるだけならかっこいいし、よかったけど、もう幻滅よね」
「………いい加減にしてよ!」
まどかが大きな声を出したので、教室中がしんとした。話しかけてた友人も同様に驚いてる。集まる視線の中、ふと徹のほうを見ると睨まれたような気がして、まどかはあわてて教室を飛び出した。
数人の友達が追いかけてくる。
「ごめん、まどか。………言い過ぎた」
「ううん。わたしこそ………」
「………でも発見!!まどかって………高崎君のこと好きだったんだ!?」
「え、違うよ」
「またまたー」
はやし立てるみんなと一緒に笑いながらまどかはぼんやりと考えていた。
好き………なのかな。
小学校の時から、みんなより賢くて、優しくて、かっこいいから気にはなってたけど。中学に入ってからの方が、妙に気になるのは確か。
学校だと………みんなにからかわれるから、今度電話してみよう。
どうしたの?って。………相談に乗ってあげられたらいいんだけど。
何かをしてあげられるかもしれない、そう思うとまどかは少し嬉しくなった。
夏休みに入って、まどかは徹のことが気になってしょうがなかった。一学期の終わりが近くなるにつれて、周りに人を寄せ付けなくなるほど、無愛想で冷たくなっていたのも関係していた。
どうにかして、彼の力になってあげなくては、思うようになっていった。
そしてある日、いつもよりも少しおめかしして、徹の家の近くの公園から電話をかけた。
「………留守か………」
留守だとわかっても、すぐには帰る気が起こらずぶらぶらと公園を歩く。
「きゃーっ!!」
不意に近くで悲鳴が上がり、まどかは足を止めた。声のしたほうを振り向くと一人の少年がこっちに走ってくるのが見えた。
それが誰なのか、すぐに気付き、胸が高鳴る。
まどかは嬉しくなって、声を上げて手招きした。
「高崎くーんっ!」
徹はまどかに気づくと、そのまま走って来た。
まどかは、その瞬間まで、徹が何を手にしてたか気づかないままだった。
そして、その一瞬でも自分が何をされたのか、分からないままだった。




