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花嫁という名の厄介払い

「何故こんなにも雨が降らないんだ!!」

 誰かが嘆く声が今日もする。

「もうとっくに梅雨の時期というのに作物が育たない、この前は干ばつのせいで叔父がつまづいてしまったんだ」

「雨が降らないせいで水道代が凄いのよ……うちの庭が散々な事になっていてね?」

 日常会話の噂はひどく、雨が降らない事に統一されていた。私が今来てる村は田畑で生活を賄う家もあるので結構深刻な問題なのだ。

「地球環境のせいだ」

「いや、神が降らせないようにしているのだ」

「呪いではないだろうか?」

 あれこれと憶測が飛び交う日々に、私に白羽の矢がたったのはほんの些細な噂からだった。




「最近引っ越してきた、あの若い女の子のせいではないだろうか」




 そんなあり得ない、現代では無いような思考さえも危機におちいった人間はそう思い込んでしまう。


「いいかい? 君はこの村のはるか奥へある露神社の神様に嫁入りするんだ。露神社は雨や霧の神様がまつられていてね、君が選ばれたんだ。光栄な事だよ」


 知らない親戚の叔父さんが私にそう言った。

 助けを求めようにも近くの交番は他の人の通報によって食い止められている。

 そもそも私が都会から祖父母の家へ越してきたのも理由がある。東京の会社で散々女社員にいじめられ仕事が回されなくなり、あげくミスを押し付けられクビになって、あの頃は本当に見た目もメンタルも終わっていた。疲れをとるために叔母の所へ来たが、それはそれでこんな目にあってしまっている。……人生詰んだとは、こういう事だろうか?

 私は回りからの野次、根も葉もない噂、悪口で疲弊してしまって、神様のお嫁になるという死に方なんて現代ではそうそう出来ないからある意味ラッキーなのかもと思ってしまうくらいには疲れていた。


 ……気がつく頃には、叔母たちに白無垢のお嫁さんに仕立てられていた。


 真っ白の和服の花嫁衣裳。襟元や裾、アクセサリーに赤や水色があり、祝われているのが分かる。

 肩までの髪を綺麗に結い上げた祖母はほうっと息を吐いて「露神様もきっと喜ぶわ」と言った。

 確かに、鏡に写る私はとても綺麗で。今は海外に仕事へ行ってる両親がこの事を知ってもきっと興味無いだろうが……この白無垢姿は褒めてくれる気がした。日本人特有の童顔を生かしたメイク、白無垢に映える赤いリップ(叔母は紅と言っていた、昔の化粧道具らしい)、頬にほんのりかけられたチーク(こちらは名前が聞き取れなかったが昔の化粧道具を使ったみたいだ)が血色の良さと華やかさを飾っている。

「……ありがとう、叔母さん……」

 久々に本音で何かを話せた瞬間だった。だって、こんなに綺麗な私は見たことがなかったから。最後にこんなに綺麗な私で逝けるなら人生捨てたものではないと思える。

「ほら、供物を持って……あぁ、嫁入り道具は村から集めたから、それを持っていきなさい」

 叔母にすすめられるまま嫁入り道具が入ってるらしい風呂敷を持たされ、皆に祝われながら神社まで数人と一緒に歩く。色んな人が祝福し、見とれている人もいて……なんだか、本当に神様に嫁ぐようで、誇らしくて、気恥ずかしくて。


 ……露神様とは、どんな人なのだろう? 例え村人にとってこれが嫁入りという名の厄介払いであっても、私にとっては本当に神様への嫁入りのような感覚だ。あり得ない想像くらいしたって、別にいい。


 ……露神様。名前からして水を操りそうではあるが……容姿はどんな感じだろう? 人? それとも異形? たしか神様は動物に例えられていたり、動物モチーフだったりする。水の生き物とか? でも、そうなると……夜は……? と考え、ぽっと顔が熱くなる。

 だめよ、今からそんな……なんて、あり得ない事をふわふわと夢心地で考えながら歩いていく。神様が本当に居るか居ないかなんて、今の私には関係ないのだ。こんな綺麗な姿で、祝福され、こうして歩いている時点で私の人生が報われた気がしたから。


「……ほら、ついたわよ」

 叔母に声をかけられ、ハッと目の前を見ると苔や蔦で茂った鳥居と、鳥居に飾られた「露神社」の文字が葉っぱの隙間からチラリと見えた。何だか辺りは少しじめっとしていて、その名の通り水分がありそうな雰囲気が漂っている。



 ……これは、本当に居らっしゃるかもしれない。



 自然とそんな気持ちになるくらい、不思議な力を感じる神社。……私は、ここへお嫁に…と思えば思うほど責任感と緊張感、不安などが押し寄せる。いくら綺麗になったとはいえ、私は露神様の好みなのだろうか? 好みじゃないなら、露神様にとって私はただの押し掛けな上に自分の家に勝手に入ってきた人だ……怒らせてしまうかも……とだんだん不安になる。

「ほら、行ってらっしゃい。きっと露神様に気に入られるわ」

 うつ向いて歩こうとしない私を見かね、祖母がそう言って背中を押してくれた。彼らにとっては厄介払いと気晴らしの最後の一押しだろうが、私にとってはとても励ましの言葉に聞こえた。


「……はい! 私……いえ、(わたくし)、精一杯露神様の嫁をつとめます。」

 深々と叔母にお辞儀し少し緊張しながら鳥居をくぐったその瞬間、ふわりと湿った温かくも冷ややかな風が吹き、葉っぱが落ちてくる。

「わぁ…」

 なんだか幻想的で、私は導かれるように社に歩いていく。神様は、いらっしゃるだろうか。居たとして私は見えるのだろうか、触れるのだろうか。何一つ分からないが、ただひとつ分かるのは私は本来人間で、社には入ってはいけないということ。

「……」

 私は社に入る前に立ち止まり、丁寧に頭を垂れる。土下座とも似てるが、これは前の会社でしてたような粗末な土下座じゃない。神様への、挨拶のためのものだ。心持ちが全く違う。

「お初にお目にかかります、本日、露神様へ嫁入りに参った小林(こばやし) (みどり)と言います。言葉遣いが拙く申し訳ございませんが、何卒宜しくお願いいたします」

 なるたけ丁寧に、好かれるように。自分が知るできる限りの敬語で、話してみる。



 ……。



 …………。



 ………………何も起きない。それもそうか、と仕方なく頭をあげようとした瞬間……視界に入ったのは、誰も何にもされていないのに勝手に開いた社の戸だった。





「……へ……?」





 正直、半信半疑だった。だって、私はここで神様の花嫁という名目で生け贄として、この姿のまま、この社の中で死んでいくのだとおもったから。







 ……引かれた戸の、結露が付いたガラスに「初めまして、いらっしゃい」ととても綺麗な字が書かれるまでは、本当に信じられなかった。

 お読みいただきありがとうございます。初めての本格純愛ロマンファンタジー。少し緊張もありますが、拙い文で育っていきます故何か変な箇所や字抜け、感想やリアクションなど作者が喜びますし助かるのでお待ちしております

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