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ごめんね


 初めまして……じゃない? え、そうなんですか? その場合ってどうすれば……お値段とか変わってきますか? それは変わらない?

 あぁ、良かった。

 あの、ここに来たら忘れたい記憶を忘れさせてくれると、読みまして……。

 ……私、今日、友人のお墓参りに行きまして……中学生の時の友人で、その子が亡くなってからは毎年行っています。

 それで、私、お墓で、その子の声を聞いてしまったんです。私の忘れたい記憶は……その記憶です。

 忘れさせてください。お願いします。お代はいらないとのお話でしたが、お礼のようなものが必要であれば、いくらでもご用意させていただきます。

 ……本当に、いらないんですか?

 わかりました。よろしくお願いいたします。あとは、ここ読めばいいんですね? それでは、読み上げます。

『私はこれから話す話について、一切の権利を放棄します』

 ペンネームは四葉です。

 それでは、よろしくお願いいたします。



―――


『ごめんね』PN. 四葉


 私の父親は転勤が多い仕事に就いていまして、いつも、仲が良い友達ができたと思ったらまた、別のところへ、といった生活を送っていました。

 また連絡するね、と言ってくれた友達もいました。でも、少しずつ、少しずつ疎遠になり、いつしか縁が切れる。私の学生時代はそんな関係の繰り返しでした。

 今にして思えば、私があまり外交的ではない性格だったせいもあると思いますが、ようするに私は、嫌になってしまったんです。どうせ仲良くなってもまた、離れることになる。

 私は、仲の良い友達を作ることを諦めました。

 ひとりでいるのは少しだけ寂しかったけど、気楽でした。……また、しばらくすれば別のところへ行くのだと思えば、むしろ自分は今まで、どうしてあんな努力をしていたのだろう、と不思議に思うくらいでした。

 ひとりで過ごすことにもなれたある年、あれは、中学二年生の春でした。私が転校してきたのと同じタイミングで、転校したきた子がいたんです。

 もうすでにクラスでグループができている中、自然と私は、その子と一緒に過ごすようになりました。

 ……楽しかったです、とても。その子と一緒に過ごすのは。気が合ったんです。もしかしたら、あの子が私に合わせていてくれたのかもしれないけれども……私は、いつの間にかその子と、親友と言えるような関係になっていました。もう、友達は作らないようにしようと思っていたのに……。

 でも、楽しい時間は長くは続きませんでした。……最初に、ターゲットになったのは私でした。物を隠されたり、出したはずの宿題をこっそり捨てられていたり、聞こえるようにわざと、大きな声で悪口を言われたり……でも、私は平気でした。私には、あの子がいましたから。何があっても、何を言われても、あの子がいれば私は、大丈夫だったんです。

 そして、私はまた、転校することになりました。中学三年生の冬、私たちは、春を迎える前に離れ離れになりました。

 ……高校生になっても、私たちは友達でした。少ないお小遣いをせっせと貯めて、あの子のところへ行っては一緒に遊びました。

 会いに行くのはいつも私の方でした。あの子の家は少し、事情があって、あまりお金がなかったので……。

 あの子はいつも私に、ごめんね、と言いました。こんなに遠くまで、いつもあなたばかりと……でも、私は幸せでした。私はいつも、そんなこと気にしないでほしい、と言いました。

 私は、あなたに会えるだけで、幸せなのだからと。

 ある日、待ち合わせの場所に行ってもあの子がいませんでした。当時はまだ、携帯電話なんてものは無く、公衆電話から私は、あの子の家に電話をしました。

 でも、誰も出ませんでした。私は、あの子の家に行くことにしました。もう何度も遊びに行っていたので、道は知っていました。

 もしかしたらあの子は寝坊をして、まだ眠っているのかもしれない。もしくは、急に具合が悪くなって、寝込んでしまったのかもしれない。私は、そういうことを考えながらあの子の家に行きました。

 ……詳しいことは省きますが、あの子は死んでいました。前日の夜に、自殺でした。

 私は知りませんでしたが、あの子が進学した高校には、私をいじめていたやつらが何人か、進学していたんです。あの子は、その事を私に隠していました。あの子は私に、嘘をついていたんです。そして、隠していたんです。

 私が転校した後、高校にあの子が入学してから、いじめのターゲットが自分になったことを、あの子は隠していたんです。

 ……それ以来、私は毎年。あの子の命日にお墓参りに行っています。昨日も行きました。

 そうしたら、声が聞こえたんです。お墓の前で、あの子の声が。

 『ごめんね、もういいよ』って……。

 あの子が、あの子が私に謝る必要なんてないんです。

 私は、あの子が辛い時、何も気が付かなかったんだから。いいなんてそんな、そんなわけないんです。あの子はもう、笑えないのに、何もできないのに、あいつらは、笑って、忘れて、幸せに過ごしてる。そんなの、許せないじゃないですかおかしいじゃないですかまちがってるじゃないですか。だから私は絶対に許したくないんです許せません絶対にだから決めたんです絶対に私だけは許してやるものかとなのにあの子はもういいよって、そんな、そんな、そんな…………。

 私は、弱い人間です。だから、忘れなくちゃいけないんです。

 決意が、鈍ってしまうから。

 あの子に言われたことを無かったことにしてでも私は、やり遂げたいことがあるんです。

 ……あと、あと一人なんです。

 それに、私がこの事を忘れたら、とても優しい優しいあの子はまた、私に声を聞かせてくれるかもしれないから……。

 あの子に言われた事だけを、忘れさせてくれませんか? 他の事は忘れたくありません、そのままにしておいて下さい。でも、忘れさせること意外は、あなたの好きにしてくれて構いません。どこで何に使うでも、話すでも、書くでも、好きにしてください。

 どうせどこかでこの話を知ったとしてもあいつらは、自分には関係無いとばかりに、すぐに忘れてしまう人間ばかりでしたから。好きにしてもらって大丈夫です。

 ……あぁ、でも、あの子はやっぱり優しいですね。ねぇ、店長さん。私はいったい、何回……いえ、いいです。やっぱりやめておきます。

 それでは、よろしくお願いします。

 ……毎年、ありがとうございました。きっと今回が最後だと思います。




―――



 

 一匹の三毛猫が先ほど、店長と呼ばれた男の足にするりと身を押し付けた。男は三毛猫の頭に手をやると、ゆっくりと撫でた。撫でられた三毛猫は、そうじゃないとばかりに低く唸った。

「仕方ないだろう? うちは基本的にはお客様優先なんだから。申し訳ないとは思ってるさ、でも、本人がそう望んでるんだから、やらないわけにはいかないじゃないか」

 不機嫌な三毛猫の機嫌をとるかのように男は、小さな額を優しく撫でた。



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