あなたは大丈夫
廃墟に行ったんです。人がもう住んでない、古い家の廃墟に。その時の記憶を消してほしくて。
友人にここを紹介されて、友人といってもSNSで知り合った人で、実際にはあったことなくて。……でも、いい人なんです。私の相談にも色々のってもらって。
それで、ここを紹介してもらったんです。
はい。そうです。わかりました。ここに書けばいいんですね。大丈夫です……読みました……。
ペンネームも事前に考えてきたので大丈夫です。『はるか』でお願いします。
あとはここを読めば? わかりました。
『私はこれから話す話について、一切の権利を放棄します』
これでいいですか? ありがとうございます。
―――
『あなたは大丈夫』PN.はるか
友人と一緒に、廃墟に行ったんです。
地元で有名なスポットがあって、別にわりと、みんな行ってる感じの、有名なところで。
行くってもいっても、本当にただ行くだけで、いたずらとかをしに行ったわけじゃないんです。……勝手に他人の敷地に入ることは確かに、あなたの言う通り悪いことですし、私もそう思ったんですけど、その、私、気が弱いほうで、断ったりするのとかも苦手でそれに、友人たちの中に、私の彼氏もいて。
……断れなかったんです。それで、私と彼氏を含めた四人で行くことになって。
彼氏とは、半年ぐらい前から付き合いはじめて、告白は向こうからです。
最初は、その、ちょっと苦手なタイプだったので断ったんですけど、押しの強さに、負けちゃって、そういう人なんです。
もう、死んじゃいましたけど。
はい。そうです、廃墟に行った時に、足を滑らせたんです。階段で。脆くなってたのかな。すごく大きな音がしました。
狭くて急な階段だったので、一列になってあがって、彼氏が一番後ろで、その前に私がいました。時間は十時くらいだったかな。外も廃墟の中も、真っ暗でした。懐中電灯は一人一個、持っていきました。でもなんかすごく、暗かった。
最初は、何が起きたのか分からなかったんです。大きな音が後ろから聞こえて、振り向いたら、彼氏がいなくて。懐中電灯の光を下に向けたら、足が見えたんです。彼氏の。倒れてました。血は出てなかったです。でも、当たりどころが悪かったみたいで、すぐに救急車を呼んだんですけど、そのまま、死んじゃいました。けど、私、ほっとしました。暴力をふるわれてたので、お金も、かえすっていってたのに返してくれなくて、別れたいっていったのに別れてくれなくて、困ってたんです。本当に。その日だって私は、行きたくなかったのに。絶対来いって言われて。
すみません……大丈夫です……、お水、ありがとうございました。
……後からわかったんですけど、私の彼氏。よくないところからも借金をしていたみたいで、その廃墟に行った日、本当はそのまま、その人たちのところに私を連れていって、連帯保証人にするつもりだったみたいです。教えてもらいました。
……あの日、彼氏が落ちる前に私、声を聞いたんです。女の人の声でした。優しい声でした。でも、全然知らない人の声だったんです。
すごい優しい声で『あなたは大丈夫』って声がすごく近くで、聞こえたんです。本当に、すぐ横から。
それで私、えって思って、そうしたら後ろからすごく大きな音が聞こえて、彼氏が。
……その人が、落としてくれたのかなって私、思うんです。他の人に聞いても誰もそんなの聞いてないって言われて、なんだかよくわからないけど、でも、すごい優しい声だったんです。
私、今でもその声を思い出すんです。何が大丈夫なのかはわからないけど、大丈夫なのかなって思えるので。少しだけ、勇気が貰えるんです。そのおかげで色々と、がんばって、困ってたことも解決できました。
でも、やっぱり私、弱いからたまに、思っちゃうんですよね。
あの人、また助けてくれないかなって。
……行きませんよ、もう、あそこには。だからここに来たんです。自分でちゃんと解決できるように、これからもがんばろうと思って。
あ、猫だ。私、猫好きなんですよね。えっ?いいんですか? うわー、かわいい……。お名前は? クロ?黒くないのに?
でも、かわいい名前ですね。
クロ、クロちゃん。ふふ。
それじゃあ、失礼します。ありがとうございました。言われた通り、ちゃんと今日は早めに寝ようと思います。
本当に、ありがとうございました。




