表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

4 正門

 小学校同様、中学校が近づくにつれて車や人通りが少しずつ増える。

 高校に入学して以降、小学校や中学校付近の通りは滅多に通らなくなった。少し、懐かしい気分。

 中学校の建物も三階建てで、規模は大きくない。小学校とさほど変わらない1学年100人満たないほどで、3クラスあった。こちらも現在の生徒数は減少している。


 中学校敷地そばの通りを歩き、いよいよ正門前にやってきた。

 敷地内に入る。

 目の前には今も変わらない玄関口がある。

 なんだろう、この異様な空気。

 そして、元クラスメイトや同じ部活だったメンバーなどが正門周りを囲うように立ち始めた。



『――――――――――――――――――――』



 拍手が鳴り響く。



「悠貴おかえりー」

「成人おめでとー」

「ほんとに悠貴かー!大人になったなー」

「また一緒にゲームやっぞー」


 周囲から声が飛ぶ。


 何事だ。

 何が起きている。

 うまく頭の中が整理できない。


 そばで見届けていた蒼真と綾香が声をかける。

「これね、綾香が最初に計画を立案してくれたんよ。幼なじみとしてもやって当然のことだろうってことで」

「そ。みんなに連絡して、『絶対に悠貴連れてくるからー』って言ってね。『みんな待ってるよ』と伝えたのは、これがやりたかった」

「ぁ……」

 感動のあまり、言葉が出ない。涙を堪えるので精いっぱい。

 先ほどまでいた小学校の体育館で中学の友人や元クラスメイトとやりとりが少なかったのは、こういうことだったのだろうか。

 そして、みんな大人になってる。

 こんな経験、なかなかできない。

「ありがとう」


 ただ、みんなに謝らなければならないことがある。

 高校1年の頃、学校を休むようになり始めてから自ら他の人と関係を一方的に閉ざしてしまった。

 こんな拍手をもらえる立場ではない。

 ここは、勇気を振り絞って声を出す。

「あの、この場をお借りして皆さんに伝えないといけないことがあります。高校生の頃、自分から一方的に関係を閉ざしてしまって――」

「もういいって、みんな気にしてないから。事情はある程度わかるよ」

「そや。これを機に、もう前を向こう。悠貴はもう立派な大人になったんや」

 言葉をかけたのは元バレー部のキャプテンと、元サッカー部のキャプテン。この二人にも中学生の頃に人間関係でお世話になったことがある。

「この場で敬語なんて悠貴らしくないよ!」

「結婚発表始めるんかと思ったわ」

 次々と声をかけてもらう。

 そうだ、自分はもう子どもじゃないんだ。

 申し訳ない気持ちはまだ残っているが、みんながそう言ってくれている以上は、後ろを振り返ってばかりじゃだめだ。

「じゃみんなが集まったら記念撮影始めよっか」

 綾香の一声でひとまず集まりが解ける。

 各自で思い出を振り返ったり、写真を撮る。

 蒼真と綾香はそれぞれ別行動に入り、自分も他の同級生に声をかけられては話し、写真を撮ったり連絡先の交換をする。

 今振り返ると、自分は同級生だけに絞っても多くの人に支えてもらいながら生活してたんだな。




 同級生との会話が落ち着いて、しばらく一人で思い出に浸っていると駆け足でこちらに誰かやってくる。

「悠貴!」

 駆け寄ってきたのはピンク色の振袖を身に纏い、ブラウン系の色でボブの髪型をした結愛(ゆあ)だ。草履を履いているのに、よく走れるなぁ。

「あ、結愛」

 結愛とは小・中学校と高校も同じだった。話し始めるようになったのは割と中学3年になってから。きっかけは覚えてないけど、委員会や他の行事で関わる機会が増えて話すようになったと思う。高校1年の頃、周りと関係を閉ざすようになって以降も結愛とは最後の方まで連絡が続いた。振り返るとその部分だけでもういっぱいあるので、会話で触れることはあまりしない。事情はおそらく一番知っている。

「ごめんね、悠貴の周りに人がいてなかなか声かけるタイミング難しかった。今日は来てくれてありがとね」

「いやいやもう全然、こちらこそありがとね。今まで、事情をよく知ってる結愛があの二人に伝えてもらってたのかなーなんて思って」

「うーん、どうかなー。覚えてない!」

「……そうよね」

「まぁとにかく、ここまでよく乗り越えて頑張りました」

「うん……」

 堪えていた涙が、結愛の言葉で我慢できずに溢れてきた。

「泣いていいよ。その涙は今まで苦労して乗り越えてきた証だよ。そうだ、ティッシュあるよ?」

 結愛は相変わらず優しすぎる。

 中学3年から徐々に話し始めたとはいえ、昔から知っている。人と争うところをみたことがなくて、どんな状況でも中立の立場に立っていた。

 まずいまずい。みんなが周りにいるなかで涙なんて、恥ずかしい。

 こんな姿、特にあの二人に見られたらもう――。

「あ、どうしたん?悠貴泣いてるやん」

「ゆうきぃ」

 うわ――。

 絶妙なタイミングで、周りと会話を終えた綾香と蒼真がやってきた。

「悠貴泣いちゃってもーう。これでうちの計画成功したいぇーい」

「まぁ、泣いてもいいじゃん。俺も泣きそうになるよ。記念撮影までには気持ち落ち着かせとこう」

「そうだね。結愛ちゃんが悠貴と感動の再開果たしてうちも泣きそう。うぇーん」

「もーう綾香!」

「綾香これ以上泣かせるなよー」




 同級生が集まり、同じくみんなと会話をしていた先生の一声があって、記念撮影をする。


 成人式のある日に、まさかこんなことになろうとは想像もしていなかった。

 蒼真、綾香、結愛、そしてみんな、本当にありがとう。

 一生に一度の二十歳のつどい、来て良かった。


 記念撮影が終えた後は、午後18時から同窓会があるので解散。

 時間はお昼の12時30分を過ぎたところ。気温は8度。寒さは残るが、天気は晴れていて、道路に残っていた雪は徐々に解けていく。

 午前中だけでもこんなに中身の詰まった時間は、忘れられない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ