第4話 逆境の覚醒
クレア「お兄ちゃん!目を開けてよ!お兄ちゃん!」
クレアの泣き叫ぶ呼び声に俺は起こされた。
目を開けると同時に、俺は周囲を見渡して、顔が青ざめて血の気が引くのを感じた。
森は赤い炎に染まり、辺りは煙で夜のように暗くなっている。
燃え上がる音に加えて、剣の音が聞こえてくる。
きっとアルトさんが魔王と戦っているのだろう。
俺は何か重いものにのしかかられていて身動きを取ることが出来ない。
コウ「クレ……ア」
クレア「お兄ちゃん!?良かった……生きてた」
コウ「俺を置いて、ここから逃げるんだ」
クレア「何を……言ってるの……?」
コウ「……何かにのしかかられて動けない。クレアだけでも……逃げて……」
クレア「この大岩だよね!?私がなんとかするよ……!!」
コウ「大……岩……?スキルもないクレアじゃ……」
クレア「だからって!お兄ちゃんを置いていけないよ!!」
岩なら、俺の炎系スキルは役に立たない。
まだ齢4歳のクレアはスキルが発現していない。
アルトさんは魔王と戦っていて俺を助けるどころの話じゃない。
――死
この一文字が俺の脳裏を過って離れない。
このままだとクレアと共倒れになってしまう。
コウ「クレア、俺はもうダメなんだ。共倒れになる前に、早く逃げ……」
クレア「嫌だ!そんなこと言わないで!!」
コウ「クレア、手から血が出て……やめて……頼むから……!」
クレア「絶対にクレアがお兄ちゃんを助けるんだ……!」
その時、隣にいたクレアが一線の炎に包まれた。
クレアは背中の炎を拭おうとするが振り払えない。
クレア「あぁ!熱い……!熱いよぉ……!!」
コウ「クレアぁ!!……そうだ、水筒の水をかけるんだ!」
俺の助言で自身に水筒の水をかけたが、焼け石に水で、背中を焼いて離れない。
あぁ神様、殺すなら俺だけにしてください。
クレアは何も関係のない俺の大切な妹なんです。
だから、お願いだから、クレアだけでいいから助けてください……!
いや、俺が助けるんだ。俺が勝手に来ちゃったからこんなことになってしまったんだ。
何でもいい、俺の命を捨ててもいい、スキルを使ってでも無理やり岩を破壊してやるんだ。
体をよじって岩と向き合い、右手を岩にくっつけて、目を閉じ、歯を食いしばり、頭の先から足の爪先までの力を右手に執念を込めて力を入れた。
今日は短時間で衝撃的な事が立て続けに起こり過ぎだ。
右腕が軽くなる感覚に違和感を覚えて、力を抜き、目を開けると、右手から淡い青い光を放ちながら、辺りの炎を吸い込んでいる。
全てを吸い込み終わると、淡い青い光は消え、辺りの炎は消え去った。
曇り空と、煙のせいで辺りは暗いままだ。
俺は全てを理解した、両手を大岩に向けて、吸い取った魔力を解放するつもりでスキルを発動させた。
大岩を木っ端微塵に砕き、アルトさんが戦っていた何かの頭部をヘコませた。
一瞬俺の方を驚いた様子で見た後、アルトさんがトドメの一撃を刺して戦っていた何かを倒した。
俺は背中を黒く焦がしたクレアの元へ這って向かい、必死に声をかけた。
コウ「しっかりするんだ!クレア!俺なんかの為に死ぬなぁ!」
アルト「コウ様!どうした!?」
コウ「クレアが……!炎に焼かれて、背中が……!」
アルト「私に任せろ、応急処置だが、ヒール!」
気を失ったクレアが緑の光に包まれて、火傷が少し良くなったような気がした。
アルト「私は回復専門ではない、早く連れ帰るぞ」
アルトさんがクレアを抱きかかえた瞬間、俺の背筋は凍りついた。