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「一日勇者になろう!」 ~吟遊詩人(アイドル)の私が一日で魔王討伐まで目指す話。い、一日だけなんだからね!~ 2話

<前回までのあらすじ>


 私、エリナ・ルウ・アメリア、十六歳。地方都市で吟遊詩人アイドルやってます!

 今日は王都のイベントで『一日勇者いちにち ゆうしゃ』をやることになったんだけど……。

 勇者にしか抜けない聖剣を握ったら、本当に抜けちゃって大慌て!

 私、吟遊詩人アイドルだよ?

 剣なんて扱えないよ、どうしよう!

 だけど契約書には「一日勇者いちにち ゆうしゃはキャンセル不可」と書かれているから逃げられない。

 私は仕方なく、この役割を全うすることを決意したの。

 契約主の、ロイ王子と一緒にね。

 だけど私が勇者をやるのは一日だけ。

 契約書どおり、一日だけの勇者だからね!



* * *



【王国時間 11月15日 12:00(残り21時間30分) 】



「それじゃあ、まずは仲間探しから!」

「おや、やる気ですね、エリナさん」

「もちろんよ。やると決めたら全力で! それが私のポリシ―だから!」

「やはり……変わってませんね」

「変わってない?」

「いえ、こちらの話です」


 ロイはなんだか嬉しそうに微笑むと、すっと私のそばに寄る。


「誰か仲間にしたい方はいます?」

「ひゃ! ね、ねぇ、耳元でささやく必要あったかな!」


 私は耳を両手で塞ぎながら、数歩後ずさる。


「ああ、すみません。昔からの癖でして」

「それなら仕方ない……ってなるわけないでしょう! もう!」


 私は怒ってみせたけど、ロイはニコニコとしてばかりでまったく反省した様子はない。

 これじゃあ先が思いやられるわ!


「おや、エリナ? どこへ向かってるんですか?」

「とりあえず冒険者ギルドよ。王都なら、仲間になってくれそうな強い冒険者もいそうじゃない?」

「なるほど、一理ありますね」

「でしょ? じゃ、行くわよ!」


 そう言ってイベントの控室を出ようとしたとき。扉が勢いよく開いて、慌てた様子の女の子がふわふわの金髪をなびかせて飛び込んできた。


「お兄さま、お兄さま!」

「おや、これはちょうどよかった」

「……ちょうどよかった?」

「いえ、なんでも」


 ロイは女の子の目線にあわせてかがみこむ。


「ロザリア、どうしましたか?」

「ええと……」


 大きな青い目をした可愛らしい女の子は、私たちを交互に見つめながら口を開いた。


「あのう、お兄さま。この人はどなたなんですか……?」

「ああ、この人は一日勇者いちにち ゆうしゃを引き受けてくれたエリナさんです。ほら、ロザリアも挨拶してください」

「はい!」


 女の子はロイに促されて、私の前に立つ。


「はじめましてっ。わたしはロザリアと申しますっ。どうかよろしくお願いします!」


 ぺこりと頭を下げるロザリアちゃんを見て、思わず私の頰が緩んでしまう。か、かわいい……!


「ロザリアは私の妹なんです。可愛いでしょう?」

「お、お兄さま! そんなこと言わなくていいんです!」


 ロザリアちゃんは顔を赤くしてロイの腕を引っ張っている。

 その様子はとっても微笑ましい。ロイとロザリア、きっと仲のいい兄妹なんだろうなあ~。


「それで、ロザリア。いった何があったのですか?」

「え―と、え―と。お兄さまがご無事なら、それでいいのですっ!」

「どういうことですか? あんなに慌てて入って来るくらいですから、何か問題でもあったのではないですか?」


 ロイに再び促されると、ロザリアちゃんはもじもじとしながら口を開く。


「お伝えしたいことは……あの、お兄さまの伝書鳩が戻ってきていた、ってことだけなんです。でも、さっきステ―ジでいろいろあったのを見たから、それで慌ててしまって……」

「そうだったんですね。心配してくれてありがとう、ロザリア」

「いいえ。お兄さまが無事だったから、良かったです」


 ロザリアちゃんは安心したように笑う。ロイも一緒に笑ってから、私の方を振り返った。


「伝書鳩を確認してきます。すみませんがエリナは少しここで待っていてください」

「わかったわ」


 ロイはロザリアちゃんの頭をひと撫ですると、足早に部屋をあとにした。

 残された私とロザリアちゃんは、部屋の中で二人きりになる。


「あ、あの……」

「どうしたの?」

「エリナさんは……お兄さまの恋人なのでしょうかっ?」

「……こほっ!」


 予想外の一言に驚いてしまい、つい咳き込んでしまう。


「ち、ちがよ!私とロイ王子はそんな関係じゃないよ!」

「でも、お兄さまはエリナさんに、プ、プ、プロポ―ズしてましたよね!」

「あ―、それは……」


 やっぱりステージでのロイの言葉は、みんなに聞かれちゃってたのか―。

 ううう、恥ずかしい。


 だけどなんでロイはいきなりプロポ―ズなんてしてきたんだろう。

 思い返してみると、ロイは私のことを高く評価してくれているように思う。

 出会ったばっかりなのに……?


 あ、じゃなくて。


「え―と、なんでプロポ―ズされたんだろうね。多分、イベントの一環じゃないかな~なんて……」

「なぁんだ、じゃあ恋人でもなんでもないのね。あわててソンしちゃった」

「へ?」

「いっとくけど、お兄さまと結ばれるのはこの私だから! 吟遊詩人アイドルだか勇者だかしらないけど、お兄さまに近づかないでよね、ざ―こ!」

「ざ、ざこぉ?!」


 突然浴びせられた生意気な言葉に、私は言葉を失ってしまう。

 この子、もしかしてロイのことが好きなの?

 いやでもまさかね? 兄妹だし、ちょっとブラコンなだけだよね? それに見たとこ十歳いってないくらいだし……意味分かってないだけかも……。


「ちょっと聞いてんの?」

「ご、ごめんね。ちょっとぼ―っとしてた」

「なにそれ。勝者の余裕ってこと? ふざけないでよ! 私の恋は勇者なんかに負けたりしないわ。いい? みてなさいっ!」

「え? ちょっとちょっと!」


 部屋の中の空気が変わった。

 ウソでしょう!


 私は魔法には詳しくない。

 でも、なぜか分かる。

 これは、ロザリアちゃんの周りに、ありえないほど強大な魔力が集まり始めているんだ!


「どう? 勇者だって、こんなに多くの魔力は扱えないでしょ!」

「わかった! すご―くよくわかった! だから落ち着こう? ね、ロザリアちゃん?」

「気安く名前を呼ばないでよ!」


 ロザリアちゃんは聞く耳を持たないどころか、ますます魔力を高めていく。


「おどろいたでしょ? 私はお兄さまの妹。しかも、王家の強大な魔力を受け継ぐ、選ばれし存在なの。だから……お兄さまに相応しいのは、私しかいないのよ!」


 ロザリアちゃんの周りに渦巻いていた魔力が、彼女の小さな手の中に集約されていく。

 その魔力量は……こ、これはまずい!


「ちょっとまって、ロザリアちゃん、それ以上は!」

「ふふふ、怖いんでしょ、ほらほら、おとなしく私のお兄様から手を引けば良かったのに。ざ―こ!」

「ダメ! それ以上魔力を濃縮したら……!」


 私が止めようとしたその瞬間だった。

 周りにパン、パン、パンって風船が割れるような音が響く。


「な、な、な、なにこれ。どうなってるの?」

「ロザリアちゃん!」


 部屋の中で見えない力が渦巻く。まるでひどい嵐が起きているみたい。ううん、実際に起きてるんだ。強い魔力が原因で。


「いやあああ!」


 彼女の魔力はどんどんと膨れ上がり、嵐はますます強くなっていく。このままでは部屋が吹き飛びかねない。

 『魔力暴走』……私はこの現象を知ってる――見たことないはずなのに、私は何度も経験している気がする。


「お兄さま! お兄さま、助けて!!」

「ロザリアちゃん、落ち着いて!」


 私は魔力に逆らいながらなんとかロザリアちゃんの前に立って、聖剣を抜いた。


「聖剣よ、お願い。力を貸して……!」


 手の中の聖剣がまばゆい輝きを放ち始める。


「怖がらなくていいよ、私が助けてあげる!」


 泣き叫ぶロザリアちゃんをなんとか安心させようと、私はがんばって笑顔をつくった。

 そして、聖剣を振り下ろし、魔力の暴走している部分を断ち切る!


 確かな手ごたえとともに、魔力の塊が一瞬にして霧散していく。

 同時に嵐も収まり、部屋の中に静寂が訪れた。


「……大丈夫?」


 私は呆然としてるロザリアちゃんに声をかける。


「魔力が集まりすぎて、体がびっくりしちゃったんだね。もう大丈夫だよ」

「うん……」


 私は彼女の身体を抱きしめた。腕の中で、ロザリアちゃんが震えているのがわかる。

 しばらくそうしていると、ロザリアちゃんも落ち着きを取り戻したようだ。

 彼女の体から力が抜けていく。


「ごめんなさい、私……」

「気にしないで。それよりロザリアちゃんは大丈夫? どこか痛いところとかはない?」

「……だいじょうぶ」


 私はほっと胸をなでおろした。

 ロザリアちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。さっきまでの暴走が嘘みたいに、今は年相応の可愛い女の子に見える。

 そんな仕草も本当に可愛くて、思わず頭を撫でてしまう。

 すると彼女は嬉しそうに目を細めてくれた。


「あ、あの。さっきは嫌な態度をとって、ごめんなさい……」

「あはは、いいっていいって」


 私が言うと彼女も恥ずかしそうに微笑み返してくれる。

 うん、やっぱり可愛い!


「あ、あの……」


 ロザリアちゃんが何かを言いかけたその時だった。

 扉が開き、慌てた様子のロイが姿を現す。


「エリナ! ロザリア! 平気ですか!」


 どうしてだろう。ロイを見てなんだか泣きたくなるほど安心する。

 こんなちょっとの期間でそんなに信頼するなんて、私、おかしくなったのかな?

 それともロザリアちゃんの魔力暴走の影響かな?


「なにがあったんですか?」

「ええっと……」


 室内の家具はぐっちゃぐちゃだし、壁もカ―ペットもボロボロだもんね。ごまかすのは……無理かな。


「ちょっとね。ロザリアちゃんが魔力暴走をおこしたの」

「魔力暴走って……まさか、ロザリアが?」


 まぁ、そういう反応だよね。

 魔力暴走を起こすのは、賢者なんて呼ばれるようなすごい魔力を持った人くらいだもん。

 私だって、仲間の魔法使いが考えなしに大魔法を使う時によく……。


 よく?

 あれ、なんだろう。

 私の知り合いに魔法使いなんていないはずなのに。


 なにか大事なことを忘れてる気がする……。


「ありがとう、エリナ。妹を助けて頂いて」


 名前を呼ばれて私はハッとした。

 やっぱり魔力暴走の余波で私もちょっとおかしくなってるんだね。


「ううん。どういたしまして」

「でも……何もなくてよかった」


 ロイはロザリアちゃんのことを心配そうな眼差しで見つめている。そして彼女はというと、不機嫌そうな表情をしていた。


「お兄さまは助けにこなかったくせに、なぁに? 偉そうに」

「え?」


 私はロザリアちゃんの言葉に驚いてしまった。そしてそれはロイも同じらしい。


「ロ、ロザリア?」

「はぁ、なんでそんな間抜けな顔してたってるんですか、お兄さま。うっとおしい?」

「ど、どうしたのですか……急に、そんな……?」

「ええと、怖かったから、ちょっとびっくりしちゃったんだよね?」


 ロイ王子は戸惑いを隠せない様子で私とロザリアちゃんを交互に見比べる。しかし、当のロザリアちゃんはというと……。

 上目遣いで私を見上げながら、甘えるような声で言った。


「あの、あの。もしよかったら、エリナお姉さまって呼んでも……いいですか?」

「え?」

「私、ほんとうに怖かったんです。でも、エリナお姉さまがその……すごくかっこよくて……」


 ロザリアちゃんは恥ずかしそうにもじもじしている。なんだろう、この子のこの感じはすごく既視感があるような……。

 う―ん、よくわからないけど……こんな可愛い子に懐かれて悪い気はしないよね!


「もちろんいいよ、よろしくね、ロザリアちゃん」

「はい! エリナお姉さま!」


 ああ、可愛い。本当に妹ができたみたい。


「あは、あはは……これは一体……?」


 ロイが乾いた笑いを浮かべて様子で私たちを見つめている。


「お兄さま、なにぼ―っとしてるの? 早くこの部屋片づけてくれる?」

「あ、ああ……はい」

「じゃあ、私も」

「エリナお姉さまはいいんです。お兄さまがやりますから!」

「え? でも、そういうわけには……」

「いいんですよ、エリナ。かわりにロザリアを見ていてください」

「……うん」


 ロイはホウキとチリトリを持ってきて、部屋の掃除を始めた。ロザリアちゃんはそんな彼を見ながらため息をつく。


「もっとてきぱき動いてよ」

「……はい」


 なんか……最初と二人の雰囲気変わってない?


「ちょっと悲しいですけど……なんだか懐かしいですね。あの頃に戻ったみたいですよ」


 ふうん……この兄妹、前はこんな感じだったのかな。

 また元に戻っちゃうのはちょっとロイが可哀想かも、なんてね。


「そういえば、伝書鳩を確認しにいったんだよね? 急用だったの?」

「ああ、それなんですけどね」


 ロイは掃除の手を止めて、私に向き直る。


「おそらくですけど、仲間が見つかりました」

「え? なんで?」

「ある特徴的な事件が起きたら連絡してもらうように手配してあったのです。それが、まあ、ちょうど連絡が来たというか」

「そうなんだ」

「はい。ですから冒険者ギルドは後回しにして、こちらに向かいましょう」

「いいけど……仲間ってどんな人なの?」

「ふふふ、それは後のお楽しみです」


 ロイはにっこりと微笑んでみせる。なんだろう……。すごく嫌な予感がするんだけど……!

 私はそんな予感を振り払うように首を左右に振った。


「ちょっとまって。私もついていきたい!」

「ロザリアちゃん?」

「お兄さまだけ一緒なんてずるい! ね、お願い、エリナお姉さま!」


 ロザリアちゃんがうるうるとした瞳で見上げてくる。私は思わず言葉に詰まってしまった。

 魔力は強いけど……でも、でも。まだ、子供だし。


 迷ってたら、ロイが強い眼差しで私を見る。それがとっても信頼できる感じで……。

 まあ、ホウキとチリトリを持ってなければもっとカッコ良かったけど、そこは掃除中だからしょうがないか。


「わかった。じゃあ一緒に行こう!」

「はい!」


 ああ、もう! 可愛いなぁ!

 っていうか……この雰囲気。すっごく……懐かしい感覚がするんだけど。

 なんでだろう。

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