転生☆お嬢様育成ゲーム!プリンセス系になりたい私vsパンク系に育てたい転生プレイヤー 2話
憧れのゲームの世界に転生したとわかった時は、最高に幸せだった。
しかも堕天使オリビエルだなんて!
もちろん今も幸せだし、せっかく生まれ変われたんだから心ゆくまでゲームの世界を楽しもうと思っている。
なんつーの? いわゆるボーナスタイムっていうか。
俺って前世であんま健康じゃなくて長生きできなかったからさ、自由に動ける身体くれるんすか! それで生きられるんすか! って感動した。
死の間際のことはよく覚えてる。
そろそろ死ぬな、って予感があったからその瞬間を静かに待ってた。
誰もいない病室で一人死を待ってたら、急に廊下が慌ただしくなってたっけ。
急病だか事故だかわかんないけど、誰かが運び込まれたみたいで。
泣き叫ぶ女の人と、看護師に縋りつくように「あの子を助けてください」と言う男の人。
それから「きっと大丈夫!」「また元気な姿を見せてくれるよ!」って励まし合う俺と同じ年くらいの女の子たち。
ああ、いいなぁって思った。
運び込まれた子は、きっとものすごく愛されてるんだ。
もしこのままその子が死んだら、こんなにもたくさんの人が泣いて悲しむのだろうなって。
俺には、誰もいないから。
家族ですら滅多に来てくれない。
入院費だけ払ってるって感じでさ、俺の話し相手は医師と看護師くらいなもんで。
でも親は俺にゲームを買い与えてくれて、その中で特に気に入ってたのがメリエルだった。
これといって山も谷もないゆるっとした箱庭ゲームって感じで、バトルとかRPGとかワクワクするゲームはたくさんあったけど……。
なんつーか。自分好みの友達を育ててるみたいで、めちゃくちゃ夢中になった。
俺はゲームやお金なんかよりも、両親には会いに来てほしかった。
ずっとさみしかったから、メリエルにハマったのかもな。
だから本当にうれしいんだ。大好きなゲームの世界に転生できてさ!
ただ少し。ほんの少しだけ寂しさもある。
だって俺は、このキングスコート家には本来いない存在だから。
家族との思い出は全て神によって作られたもの。
俺の中にも思い出はあって、家族を大事に思う気持ちは今もあるけど、そういう感情も全ては偽物なんだと思うとなんとも言えない感覚に襲われる。
キングスコート家は長男ロバーツと長女ミーティアの二人だけ。
本来、オリビエ・キングスコートなんていう公爵家次男なんてものは存在しないんだ。
ミーティアが幸せなおばあちゃんになって天寿を全うすれば俺も使命を果たしたことになり、天界に戻るってことは。
ゲーム終了後のことなんて想像もつかないけど、きっと俺が天界に戻ったら、全ての人から俺の記憶や思い出が消えるんだろうなって気はしてる。そういうの、お約束ってやつじゃん?
結局、俺ってやつは最期に誰にも見送られず悲しまれることもなくひっそりと消えてく運命なのかもな。
だから俺は、この人間界での人生で伴侶は作らないつもりだ。
前世含めてボッチだったし? 別にさみしくないし?
せっかく異世界転生ひゃっはー! なんだからチート使ってハーレム作ってウハウハしたいなんて気持ちは少しもないし?
……いや、嘘。さすがにさみしい。
全部が作り物ですっげーさみしいけど!
でもミーティアだけは、ミーティアの人生における俺の存在だけは全ての思い出が本物で、彼女が死ぬまで消えることはないから。
本物はミーティアだけ。彼女だけが俺の全て。
この子を、俺の妹を、立派なお嬢様に育ててやる。
そしてずっと幸せでいられるように、俺が守るんだ!
「ね、ミーティア! これなんかどうかな? 定番の赤いタータンチェックの巻きスカート風! 黒い皮ベルトに見えるのも布製だから赤ちゃんに優しいよ。すっごくパンクでかわいいでしょ!」
「でぇあっ!」
ぺちーん。
「あっ」
相変わらずミーティアはパンク系がお気に召さないみたいだ。つくづく、俺好みの服や装飾は断られてしまう。
くっ、ここはゲームの世界だけど現実なんだもんな。そりゃあ育てるお嬢様にだって好みはある。
っつーか、まだハイハイさえおぼつかない赤ちゃんだというのに好みがハッキリしてて、こんなにも意思表示ができるなんてさ、おかしくない?
……うちの子、天才かも!
よし。俺の使命はミーティアの幸せだからな。自分の好みよりミーティアの好みを優先して、ミーティアの好きなものでいっぱいにしてやろう。
でも俺は!
俺好みのミーティアたんが見たいという欲望を!
抑えられない!!
絶対にいつか、パンク系小悪魔っ娘なかわいい格好をしてもらう!
元重課金プレーヤーを舐めるなよ!?
いつかは叶う! ぜーったいに諦めないぞ!
*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*
すくすく育っております、ミーティア二歳になりました!
キングスコート公爵家の末娘として大事に大事に育てられて、私はとってもしあわせ!
優しい乳母、新しく私専属で来てくれた仕事のできるメイドのノラ、いつも私をかわいがってくれる優しい兄のオリビエ十歳……の仮面を被っている元メリエル重課金プレイヤー堕天使オリビエル。
そう、オリビエル。今はオリビエと名乗る私の兄という設定のこの人。
前世の記憶持ちで私と同じ転生者なオリビエは間違いなくメリエルのゲームにお金をつぎ込んでいた人物!
日本語のひとりごとの端々からわかるんだよ! 金かけてんな? っていうのがさぁ!!
ふんぬぅ~っ! こちとら少ないお小遣いをやりくりしてやっとこさお気に入りの装飾品を買ったのにまた新しい衣装が着て毎回「ウキーッ!」ってなっていたのに!
こいつは財力でぽんぽんアイテムを買ってたんだよ! くやしい! きらい……はウソ!
オリビエお兄様はやさしいからだいすき!
ただ変態なのはどうにかしてほしい。たまに目がやばいんだよ……ハァハァ息遣い荒く両手をわきわきさせて近づいてくることもあるし。
でも、そんなオリビエお兄様のやばさをみんなはわかってくれない。
そりゃそうだよね。今のオリビエはキングスコート公爵家の次男で、めちゃくちゃかわいい美少年で、やさしくて穏やかで、ミーティアを溺愛する理想的な兄なんだもん。
時間の許す限り私のところに来ては抱っこしたり頬ずりしたり。
でもね……中身が何歳かは知らないけど重課金プレイヤーならそこそこ大人だよね?
ロリコン、じゃね……?
百歩譲ってロリコンは許す! けどさ、ロリコンでもノータッチが基本でしょー!
私のもち肌はそんな気軽に触れるものじゃないんだぞーっ!
と、心の中の女子高生な私が叫んでいるんだけど、ミーティア二歳な私はちょっとだけ喜んでいる部分もある。
だって美少年からのスキンシップだもーん。すべすべ肌だしぃ? 愛されてるって伝わってうれしいじゃーん?
ここはもう開き直ってオリビエお兄様大好きになってもいいかもしれない。
中身の話をしたら美少年に鼻息荒くする女子高生も相当やばいし。
よーし、決めた! 今後はミーティアの感情に素直になって甘えちゃおーっと!
あー、でも。ことあるごとにパンク系アイテムを贈ってくるのはイヤ。
私の必殺「おててぺちーん」で受け取り拒否しているのに、めげずにずっと持ってくる。
いくらお金持ちだからって、無駄遣いはめっだよ?
それに私はプリンセスみたいなお嬢様になるんだもーん。
『はぁ、今日もハイパーかわいいミーティアたん! 赤ちゃんの良い匂い。永遠に嗅いでいたい……くぅ、毎日会えて俺はめっちゃしあわせだーっ!』
ところでこのオリビエお兄様。
誰にも通じないと思って人前でも平気で日本語を喋りまくる。
周りの人たちは「オリビエ様の暗号遊び」だと言って慣れ切っているからもはや誰も気にしていないけど。
心置きなく日本語を喋るための作戦だったのかな? だとしたらそれもすごい。
ただねー、オリビエお兄様が日本語の時はだいたい変態発言だということを、誰も知らない。
でも、この世界の設定とかを話してくれる時もあるから助かってもいるんだよね。
そこからの情報によると、今この広いお屋敷には私とオリビエお兄様、それから使用人たちしかいないらしい。
ゲームでもプレイヤーとお嬢様くらいしかいなかったからわかるっちゃわかるけど、お父様や上のお兄様がいないのはさみしい。
家族は側にいるべきだと思う!!
仕方ないのはわかってるよ。
お父様であるクラーク・A・キングスコート公爵(やっと覚えた!)は今、このえ?騎士として王族と外国に行ってるから。
がいゆー、っていうんだっけ?
なんか今、世界的に大変なアレだとかで大忙しなんだそうな。
たまーに帰ってくることもあるらしいけど、いつも真夜中。
それで、お父様はそっと私の寝顔を見て帰っていくんだって。
えー、起こしてよー。起きないかもしれないけど起こしてほしいよー。
おかげで私、お父様の顔もわかんない! 生まれたばっかの時に聞いた声はうっすら覚えてるけど!
長男であるロバーツお兄様は、騎士の専門学校に通っていて寮生活しているのだとか。
こちらはお父様以上に帰って来ないから同じく顔がわかんない。声もわかんない。
長期休みになっても帰って来ないのは、亡くなったお母様を思い出すから避けてるんじゃないかという話だ。せつないね……。
でもかわいい弟と妹が待ってるんだから、少しくらい帰って来てくれてもいいのにぃ。
とまぁ、家庭事情くらいだけどオリビエお兄様のおかげでいろいろ知ることができている。
日本語を使ってくれるからちょいちょいこちらの言葉に翻訳できる単語もあって、私はぐんぐん言葉を覚えていったんだ!
言葉を覚えるのって楽しいんだね! 前世ではちっとも英語を覚えられなかったのに。ふしぎ!
「ミーティア! 今度こそすごくかわいいドレスを見つけてきたよ!」
「だぁいっ!」
ぺちーん。
「あっ」
頼りになるプレイヤー兼お兄様だけど、いつまでたってもプレゼントチョイスはダメダメ。
今日も黒一色のスタッズ付きドレスを持ってきたよ。
幼児にスタッズ付きって危ないじゃないのー。
……あ、刺繍なの? なるほど、よく考えてあって幼児にも安心……じゃない!
チェーン風リボンもかわいいはかわいいけど、私はプリンセスがいーのっ!
「そんなぁ。今日もだめかー」
もはやいつものやり取りに、メイドのノラがクスクス笑う。
「オリビエ様、また拒否されてしまいましたね」
「うん。これだってすっごく似合うと思うのに……俺の妹様は好みにうるさいみたい」
「ふふっ、オリビエ様はちょっと大人っぽいのがお好みなのですね? ミーティア様はヒラヒラしたかわいらしいものをお好みですものね」
「そうなんだよー。もちろんミーティアが好きなものも、お姫様みたいですっごくかわいいけど!」
言葉を覚えた私はもう二人の言ってることがわかるよ!
私のことがかわいいって言ってるんでしょ? ふふん。
……それにしても、オリビエお兄様はノラとも仲がいいよね。いつもキャッキャウフフと楽しそうでさ。
んんん~~っ、嫉妬!!
私だって二人とたくさんおしゃべりしたいよ~!
「あたちも!」
「えっ、なになに? どうしたの、ミーティア」
「あたちも、おしゃべい、すう!」
「そっかぁ、一緒にお喋りしたかったのかぁ!」
しかーし、この口がうまく回ってくれません! ぐぬ……!
まぁいいや! 伝わったし!
オリビエお兄様がでれっとだらしのない顔で抱っこしてくれたのでぎゅっとお胸にしがみつく。
「俺もミーティアとたくさんお喋りしたいから喜んで!」
「きゃはーっ! おしゃべい! おしゃべいー!」
抱っこしたままオリビエお兄様がクルクルその場で回るのが楽しくて思わずはしゃいじゃう!
ひゃー! 目が回るー! でもたのしーい!
大はしゃぎして疲れた私は眠くなってしまった。
オリビエお兄様のお背中とんとんは絶妙なんだよねー。うみゅん、ねむぅい。
いいや、もう寝ちゃお。
……あれ? お喋りは? ま、いっか。
おやすみなさーい。
*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*
今日は朝から慌ただしい。
私のお付きの人たちはいつも通りだけど、全体的にお屋敷の中がドタバタしているというか。
「ミーティアー!」
「! おいびえ、おにーしゃま」
ぽてぽてとお屋敷の廊下を歩いていると、向こう側から着飾ったオリビエお兄様がやってきた。
はわ、素敵なお洋服! いつもかっこいいけど、今日はもっとかっこいい。
「ごめんね、ミーティア。これから父上が帰ってくるみたいなんだ。王様も一緒なんだって」
「おとーしゃま? おーさま?」
「そう。俺も挨拶しなきゃいけなくってさ」
「あたちは?」
「ミーティアは、王様が帰るまではお部屋で待っててね」
えっ。それって、それって。
仲間外れ?
そう思ったら急に胸の奥がぎゅーっとして、目と鼻の奥がつーんとして、うわーってなっ、なって……!
んにゅぅうああああ!!!!
「いやぁーっ!!!! あたちも、あたちもおとーしゃまに、あうぅっ!!!!」
「ああ、お嬢様っ! きっとお仕事の話が終われば会いに来られますから!」
「いやいやぁ! いま! いまあいたいの! すぐ! うわぁぁぁん!!」
秘技! ミーティアの「床にごろごろジタバタどったん!」攻撃っ!
だって! だって! ずっとお父様に会いたかったのに!
私だけ仲間外れなんてずるいっ! やだ! 今一緒に行くもん!!
「旦那様の邪魔になってしまいますから……」
困り顔のノラがなにか言ってきたけど、今の私にはなにも聞こえない。
かんしゃく! 今の私はかんしゃくをおこしています!!
「んー、そうだなぁ。……じゃあ、ミーティア。俺と取引する?」
「オリビエ様、そんな難しい話を……」
ノラは微妙な様子だったけど、私はオリビエお兄様の「取引」という単語にピタリと動きを止めた。
「約束が守れるなら、こっそり連れて行ってあげる」
「といひき、しゅる!!」
「よしっ」
頭の中が「お父様に会う」ことでいっぱいだった私は、コロッとオリビエお兄様の提案に乗ることにした。
まーまー、ため息つかないでよ、ノラ!




