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9月3日
今日私は15歳になった。
おめでとう私!
ありがとう私!
今日も一人で夕飯だ、バンザイ。
デザートにケーキが付いていたのは、シェフの優しさなのだろう。
当然ながら、家族からのお祝いは、無い。もちろん父からも。
そういえば去年は、病床にいながらも母が祝ってくれたっけ。病ですっかり痩せ細り、弱々しくなってしまったのに、けれどそれを感じさせまいと気丈に微笑んでくれた母。
叶わぬ願いと分かりながらも願ってしまう、会いたいと……。
甘いケーキが少ししょっぱかったのは、きっとシェフが調味料を間違えたのだろう。
そういうことにしておきたい。
10月8日
今日はどうやら義妹の──フレアリアの誕生日のようだ。
家中が綺麗に装飾され、パーティの招待状を貰った方々が続々と集まっていたので、すぐに分かった。屋敷の入り口には、プレゼントが山のように積み上げられていたのを見て、気付かぬほどの鈍感さは持ち合わせていない。
そして誕生パーティーは、新しい家族のお披露目でもある。
でも私は参加するなと父に言われた。まあそうでしょうね。
貴族の集まりなんて気を遣うだけ。そもそも私は最初からパーティーに参加するつもりはなかったわ。とはいえ、思っていても『出るな』と言われるとカチンとくるから不思議。
ま、気楽が一番よ。と、遠くから聞こえる音楽や人の声、賑わいをどこか別世界のように感じながら、部屋で一人夕飯を食べていた。遠くからパーティの喧騒が聞こえてくるが、私には関係のない話だわ。
けれどどうしてか、ポッカリ胸に穴が開いたような気になる。
きっとフレアリアは、たくさんのお祝いの言葉と共に、プレゼントを貰ってるのだろう。数時間前に見たプレゼントの山は、今頃天井まで届いているかもしれない。
そして招待客は、この侯爵家にはフレアリアしか娘は居ない、と思っていることだろう。デビュタントがまだの私の存在など、知る者はほぼ居ないだろうから。
病弱な母のそばをあまり離れたくなかった私は、同年代の友人が一人もいない。
その結果、私の存在はほとんど知られることなくこれまできたのだ。自業自得とはいえ、同年代の貴族令嬢・令息たちが、フレアリアとだけ仲良くなっていると思ったら……寂しくないと言えば嘘になる。
そこまで私はひねくれてはいない。できることなら、友達一人くらい欲しい。
考えたところで胸が苦しくなってきたので、バルコニーに出た。
手すりを握って下を見下ろして──飛び降りたら、気持ちが楽になるかなと思ったその時だった。
「おまえ誰だ?」
突然声がしたのだ。
顔を上げると、太陽のように眩い金の髪に空のように青い瞳を持った──とても綺麗な男の子だった。
大木に登って太い幹に座り込んでいた彼は、私と目線がほぼ同じ。
驚いて絶句していると、もう一度聞かれた。
「ふーん、リンティアか……可愛い名前だな」
そんな事は母に言われて以来だから、顔が赤くなるのが分かった。
貴方は誰なの?
そう尋ねたら、彼は少し考えこんで、そして口を開いた。
「バルト。俺の名前はバルトだ。宜しくな、リンティア」
それが彼との出会い。
今日、私は素敵な出会いをしたの──。
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