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その後、屋敷には留まらずに私は王宮へと連れられ、豪華な部屋をあてがわれた。これからはここで暮らせばいいとバルティアスが言ってくれたのだ。
部屋で二人きりになった瞬間、彼は私を強く抱きしめ、熱い口づけを落としてくれた。
今思い出しても体が熱くなるような、とても激しい……。
息苦しくなる程の口づけが終わっても彼は私を解放してはくれず、抱きしめたまま耳元へとそっと囁いた。
「色々隠していたこと……怒ってる?」
予想外に弱々しい、不安げな声に驚いて彼の顔を見たら、ちょっと泣きそうになっていた。
これが、先ほどまで恐ろしいことを平然と口にしていた人物だろうか?
厳しい顔で、声で、その場に集った者に今後のことについて指示を出していたのと、同一人物だろうか?
私はなんだかおかしくなって、フフっと笑ってしまった。
「笑わないでくれよ。嫌われるんじゃないかと本気で不安なんだから」
「嫌いになるわけがないでしょう?」
不安にさせたくなくて、私はすぐに答えた。
そして私から、軽くキスをする。
「大好きよ──いいえ、愛しているわ、バル……ティアス」
「バルトでいいよ。リンティアには特別な名前で呼んで欲しい」
「バルト……」
「リンティア、愛してる。……俺の妻に、俺のものになってくれるよね?」
拒否権が私にあるんだろうか。
あっても拒否しないけれど。
私の心は幸せに満ちていた。
今度はハッキリと理由の分かる涙を──幸せの涙を流して、私は小さく頷いた。
※ ※ ※
そして今。
湯あみをして身を清め、部屋のベッドの横にある机で、私はこの日記を書いている。
嬉しすぎて、笑いが込み上げてきて。
プルプルと手が震えるのは致し方ないこと。字が汚かったのは許して欲しい。
明日、両親が処刑となるのは少し心を重くするけれど、これからのことを考えるとそれは些細なことでしかない。
これから一年、私は王妃教育を受けることとなる。それはとても多忙を極めるだろう。
バルティアスもまた、これからのことで忙しくなる。
ドルゲウス王国とは和平を結ぶことになるとはいっても、油断できる相手では無い。これからも忙しく動くこととなるだろう。
更に、王になるために様々なことを学ぶ必要があり、その多忙さは私の比ではなくなる。
ゆっくり二人の時間を過ごせるのは今夜だけ──。
もうすぐバルトがここへやってくる。
きっとまた、涙する程に幸せな時間を過ごせるのだろう。
少しの不安はきっと彼がすぐに消し去ってくれる。
褥の中で、とても甘い時間を一晩中過ごすこととなる。それは確信。
ああ、足音が部屋に近付いてくるのが聞こえるわ。
きっと明日からは忙しくて日記も書けなくなるだろうけれど。
これは大切に残して置きたいと思う。
これは私が生きてきた記録。
バルトとの大切な思い出を記したもの。
幸せへの道を残したもの。
ただ、最後に一言だけ、汚い私の胸の内を明かすことを許して欲しい。
誰にも見せられない、私の中にある黒い部分を、この日記に吐き出させて欲しい。
この日記を誰にも見せることはないけれど。
それでも言い訳する私を笑ってほしい。
モルドールが、両親が……フレアリアが落ちて行く様を見て。
絶望したのを見て。
悲惨な最期を迎えることになって。
私は心の中で叫んだのだ。
抑えることの出来ない思いが、叫びとなって心を支配したのだ。
──ざまあみろ!
~fin~
お読みいただきありがとうございました!