何者②
「争いたくはなかったのじゃがな、、、」
そういってカントは杖を、ケレハーはレイピアを構える。
「アロンソよ。これはお主にとっても、息子にとっても悪い話ではない筈だ。階級に関わらず命の危険と無関係でいられないこの世界、力をつける手助けをすると言っているんだ。」
「わかってないな。それは貴族の理だ。家族を死地へ送る趣味はない。息子は私が鍛えるさ。そろそろ行くぞ。構えろよ。」
そういって男は屈み込む。異様な程に前傾に。
「ケレハー、気を付けろ。こやつ、魔力操作が魔物並みだ。」
「まるで獣のようですな。なに。子兎のように串刺しにしてみせますよ。」
男が踏み込む。猫科を思わせる尋常ではない速度に、ケレハーは面喰らう。しかし齢50を超えたとて腐っても騎士団長、その首筋に正確にレイピアの先端を合わせ、刺突魔法を纏わせる。
ーーーやった。ケレハーがそう思った瞬間、ギャリッという音と共に、ケレハーの脇を目掛けた剣が弾かれる。カントの防御魔法だ。
「ケレハーお主、儂が居なかったら死んでおったぞ。鈍ったか?」
カントがジト目を向ける。
「そんなことはありません。たしかにあの速度で最後に身体ごと捻って切り上げてくるのは予想外でしたが、私にだって見えておりました。カント様の魔法がなくとも、致命傷は避けました。鎧くらいは叩き割られたかもしれませんが、、、」
「とにかく此奴、一筋縄ではいくまいぞ。人というよりは上位種と戦っているようじゃ。」
そう言うと、カントはもう一度アロンソへ目を向けた。
「それにしても、惜しいのう。これだけの屈強な前衛がこんな村に眠っておったか。お主、今一度問う。儂のところへ仕えぬか。伯爵直下の護衛騎士にしてやるぞ。誓いは結んでもらうがの。」
「くどい。軍属にはならぬと言っている。家族に手を出さぬなら、私はこの村を守るのみ。それで納得して帰れ。」
「なるほど。それがお主の行動原理か。あいわかった。ケレハー、其奴を殺すなよ。」
そう言うや否や、伯爵は浮遊魔法を展開し、村方向へと飛び去った。