何者
「あそこかの。」
「はい。デクアンの報告によれば南部砦から南西方向に2つめの村ということですから、間違いないかと。」
そういって2人がフワリと降りると、村の入り口に立つ1人の男。
「お前だな。うちの副団長を可愛がってくれたのは。」
「あの木偶の坊、実力の割に身分は存外高かったらしい。」
問いかけるケレハーに対して笑って答える男。
「まぁ、待て待て。儂らはお主と揉めるつもりも、責めるつもりもない。儂はこの伯爵領を治めるカントじゃ。お主、名前を聞いても?」
「アロンソという。」
「そうか、アロンソよ。お主先日、うちの副団長を剣で軽くあしらったというではないか。そのような芸当ができる者は、この領地ではケレハーと儂の弟くらいのものじゃ。お主一体、何者じゃ?」
「村人だ。それ以上でも、それ以下でもない。何より私の息子を連れて行こうとする者に答えることは何もない。」
「だから待てと言っておる。確かに召集令を出したのは儂じゃが、今日は話をしにきただけじゃ。まずはその下半身に異常に溜めた魔力を解いてはくれんかの。怖くて近づくこともできんわい。」
「発現前の魔力が見えるのか。爺さん、あんたはなかなかできるらしい。話くらいはきいてやる。ついてこい。」
そういって男は森の中へ歩いて行った。
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森の中に造られた小さな小屋の前、平らに磨かれた岩に腰かけ男が尋ねる。
「カント伯爵とケレハー団長だな。事前に言っておくが、息子のことは諦めろ。国へ家族を渡しはしない。」
「ならん。第三召集と他の召集令とでは意味合いが異なる。これは英雄の選別だ。個人の考え方でどうにかなる類のものではない。魔物という脅威に晒された我々人間の定めであり総意だ。」
「違う。お前達、支配者の総意だ。私はそれを望まない。」
「聞け。知っているじゃろう。魔王はたしかに討たれたが、当時最大の脅威とされた破蛇は北の山脈で眠ったままじゃ。人の住める地の確保もままならず、この世界の版図のほとんどは未開。いつまた魔を統べる者が生まれるとも分からぬ。我々には必要なんじゃ、英雄が。」
「無駄な問答だ。答えは同じ。これ以上続けるならばーーー」
男は抜き身の剣を手に立ち上がった。