父
カァンッ!という甲高い響きとともに、少年の剣が叩き落とされた。
「ライン。前のめりになりすぎだ。胸を張り、腰を浮かせるな。前傾の構えを取って良いのは、自分が実力で圧倒できる時だけだ。お前はこの周辺の魔物で悪い癖がついてしまった。」
「でも父さん、森の魔物を狩る時には、これが1番上手くいくんだよ!」
「お前は賢いからな。経験を糧に自分の技とするのは良いことだ。しかしその姿勢は、相手からの攻撃をいなし、躱わすことに長けていない。父さんのようなお前より強い相手と対峙するなら、前後左右への自由度が高い姿勢を保て。姿勢一つでお前の手札が減ってしまうし、技量の高い人間ならば、構えから何を狙っているかも見抜けるものだ。」
「っちぇ。父さん、僕にだけいつも厳しいや。レインはいいよね。母さんに優しく教えてもらえるんだから。」
不満そうに呟くダークグレーの髪を纏った少年に対し、
黒髪の男は困ったような優しい笑みを浮かべる。
「父さんは魔法が得意じゃないからな。それに前衛職は死亡率が高く、引退も早い。レインは魔法職だから、浮遊の魔法さえ覚えてしまえば、大抵の死地は抜けられる。父さんがラインに厳しいのは、お前に長く生きてほしいからだ。」
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カント領南部、ミズリス川流域の遥か上空
「それにしても、カント様との旅路は何年振りでしょうか。旅路といっても、飛んでいるだけですが。」
細剣を携えた金髪の男、ケレハーがご機嫌に呟く。
「そうじゃな。こうして2人きりでというのは、先の大戦で敵将ゴヴァルドを闇討ちに走った時以来かのう。」
白に金の刺繍が入った豪奢なローブを身に纏った老人が、白い髭を揺らしながら答えた。
「カント様の身隠しの術がばれ、限界高度から落とされかけた時は死を覚悟致したものです。」ケレハーが笑いながら答える。
「魔物は人間と違い、浮遊魔法も闇魔法も生来のものが多いからの。探知能力も優れているのじゃろう。」
「我々が後天的に得る魔法体系は、ほとんどが魔物が使っているものの模倣ですからね。私が使う刺突魔法も、元はケンタウロスが槍に纏わせていた特殊な魔力の模倣と言いますし。」
「難儀なものじゃ。儂が今使っている浮遊魔法も、使えるものは魔法職の5%にも満たぬ。魔物を統べる王を倒したとはいえ、未だあらゆる面で我々は魔物に及ばないのじゃ。」
「それでも、我々は勝ち取ったじゃありませんか。ここから先は、平和な時代の者達がやってくれますよ。」
「そうだと、良いのじゃがな。」