アルファルファ子爵の望み
アルファルファ子爵家から見た出来事を書いてみました。
賛否両論、覚悟しました!!www
メイドのカリスに手を付けて産まれてきた子供に、リリカスカと名付けたのは私だった。
初めての女の子で可愛いと思った。
妻の手前、大手を振ってで可愛がることは出来なかったが、妻には内緒で私と妻の子として出生届を出した。
妻の目を盗んではカリスに、私の疲れた心を癒やしてもらっていた。
妻は人を癒すタイプではなく傷つけて楽しむような女だった。
私なら妻のような女は選ばなかったが、私の父には人を見る目はなかったのだろう。
母は私が幼い頃にちょっとした怪我で、そこから体が腐ってとても苦しんで亡くなった。
父は妻が三人の子供を産んだのを見届けて、自殺した。
自殺した理由は未だにわからないままだ。
この家でカリスとリリカスカを妻から守ってくれる唯一の人だったので長生きしてほしかった。
父が亡くなった途端に妻がカリスを酷く虐めるようになって、それが行き過ぎて簡単に殺してしまった。
その時の妻の顔は恍惚としていた。
カリスは平民のメイドだったので妻が殺したことが有耶無耶になってしまった。
残されたリリカスカは使用人部屋を追い出され、屋敷のちょっとした物をおいておく物置小屋へと移された。
与えられたのは毛布が一枚だけで、あまりにも酷いと思ったので、物置を片付けさせて隙間を塞いで隙間風が入らないようにし、ベッドも入れて温かい布団も入れてやったのだが、妻がそれに気がついてベッドと布団を取り上げてしまった。
「私の血を引く子供なんだぞ!!」
「本当に旦那様の子供かどうかなんて解らないじゃないですか!あの子を我が子と扱うつもりなら、私はカリスと同じ目に合わせますからね!!」
妻の残忍さを知っていた私はそれ以上リリカスカを守れなくなってしまった。
父さえ生きていてくれればと何度思ったことか。
妻さえ押さえられない私は無能なのだろうと思った。
リリカスカへの扱いは日に日に酷くなっていった。
私が止めたり庇ったりするともっと扱いがひどくなるので、私は黙ってみているしかなかった。
それを見ている子供達まで酷いことをして喜ぶような子供に育ち、使用人までがリリカスカに酷い扱いをするようになるとは思いもしなかった。
使用人たちは私の子供だと知らない者が多かったようだが、私がリリカスカに対する態度が悪すぎると注意したら、妻がリリカスカをイジメた使用人にはささやかな褒美を給料に上乗せするようになっていた。
私はリリカスカを一日でも早くこの家から出すことだけを考えて、妻がすることも子供達がすることも見ないふりをすることに決めた。
そんなことしか出来ない私はほんとに駄目な父親だ。
リリカスカは本当に酷い扱いを受けていた。
何度か死にかけたこともある。
その時は内緒で教会に治癒魔法を依頼して、命だけは繋いでいた。
貴族が通う学院からリリカスカを通わせるようにと督促が来るが、妻は絶対に許さなかった。
それに実際、文字も読めないような子供が貴族の通う学院に行っても困るだけだろうと思って、体が弱いため通えないと送り返していた。
学校に入れられて寮に入れられていたら、リリカスカは何度も自殺をしようとはしなかっただろうと思う。
自殺を選ぶほどここでの生活が苦痛なんだと知っても、私は妻に何も出来なかった。
ある日、ホールバーン辺境伯が魔物の毒にやられて、半死半生だけれどなんとか子供残すための妻を探していると言う話が貴族の中で回った。
何人か候補する者がいて、ホールバーン辺境伯家まで行くが、皆ホールバーン当主と会うと逃げ帰ってきていると聞いた。
私はリリカスカを出す絶好の機会だと思って、妻が喜ぶように話して聞かせて家を出す機会を得た。
久しぶりに見たリリカスカはひどい状態で、立っていられるのが不思議なくらいだった。
妻は「癒やすならいいでしょう?」と言って、リリカスカに鞭を振り危うく死ぬところだった。
慌てて治癒魔法師を呼んで治療してもらうと「あなた方には嗜虐趣味があってこの子をいたぶって遊んでいるのですか?」と聞かれた。
私は答えようがなくて、礼を述べて帰っていただいた。
これでもうリリカスカが暴力を振るわれることはないと思っていたのに、妻は我慢が効かないようでリリカスカを傷つけた。
その度に治癒魔法師がやってきて「このことは王家に報告させていただきます」と言って帰っていった。
それでもリリカスカを引き取っていくとは言わないのだなと、教会もあてにならないと思った。
リリカスカに嫁に行くための書類を全て持たせて、入籍さえしてしまえば、離婚されようが夫が死のうがリリカスカの自由になると送り出した。
リリカスカがいなくなって妻の憂さ晴らしをする相手がいなくなると、妻は使用人をいたぶるようになった。
貴族の使用人には手を出さない分別はできたようだったが、平民の使用人は物を投げられ、鞭打たれ、瀕死の状態になって、治癒師を呼んで治療してもらったら、二度とこの家には近寄らなくなった。
使用人は今までの半分ほどになり、新たな使用人の募集をかけたが、妻の噂が出回っていて応募してくるものは誰もいなかった。
子供達はリリカスカがいなくなって、小動物を殺すようになっていた。
私はそれを知った時、この子達を大人にしてはいけないのではないだろうかと思った。
この子達に家を継がせるのか?
嫁に行った先で何をするか解からない子を外に出せるのか?
私は妻も子も恐ろしくて仕方なかった。
この子達を殺して、リリカスカにこの家を継いでもらうほうがいいのではないかと、そんな馬鹿なことが頭をかすめていた。
ホールバーン辺境伯で無事に暮らしていると思ったリリカスカは、ホールバーンでも酷い扱いを受けたようだった。
アルファルファ家に戻っていないか?と連絡が来て初めてまだ結婚もしていなくて、放り出されていることを知った。
リリカスカはその辺の治癒師には治せない、ホールバーンの当主を治療したのだと聞かされ、驚いた。
話を聞きにホールバーンへと行くと、丁寧に謝罪され、リリカスカにしか治療できないので、行方を探しているとのことだった。
治癒魔法が使えるのならアルファルファの家を継ぐ理由になると思った。
まだ結婚していないなら子供の権利は親にある。
リリカスカをアルファルファ子爵家の跡取りにすることを私は夢見た。
妻とその子供達を私が殺してしまえばリリカスカが困ることはない。
とてもいい案だと思った。
リリカスカの捜索に人員を割き、私は必死でリリカスカを探した。
無事でいてくれればいいのだけれど。
アルファルファの家にいるくらいなら、他のどこででも暮らしていけるはずだと思っていたが、無事な姿を見たかった。
リリカスカは幾ら探しても見つからなかった。
一年が過ぎたころにあの子がそうだったんじゃないかなぁ?と言う噂をちらほら聞くことがあったが、名前が違ったために確証はなかった。
二年を過ぎた頃、リリカスカが結婚したと妻と子供達がホールバーン辺境伯にまで態々言いに来た。
教会から教えられたので間違いはないと、妻は言った。
妻はリリカスカを使えば金儲けができると言い出し、何としてもリリカスカを家に連れ戻さなければならないと言い出し、ホールバーンの人達の前でカーンバックス侯爵を殺して取り戻すと言い始めた。
私はリリカスカがちゃんとした扱いを受けているのか心配している時に、妻の言い分を聞いて戦慄した。
妻やホールバーンの好きにさせてはいけないと思った。
ホールバーンの家のものがカーンバックス侯爵家へと話をつけに行き、支払う金額を聞いて妻は大喜びをした。
「あなた!今までリリカスカを生かしておいた元がやっと取れますわね!!」
満面の笑顔で妻はそう言う。
子供達もリリカスカが得たお金で何を買おうかと楽しそうに話していた。
リリカスカを妻達の好きにさせてはいけないと思った。
今度こそは守らなくては。
ホールバーンはリリカスカを呼ぶことに成功し、私は久しぶりにリリカスカの元気な顔を見れて嬉しかった。
私が知っているリリカスカよりふっくらとしていて、栄養が全身に行き渡っているのが見て取れた。
妻たちの手前、リリカスカにはきつく当たるしかなかったが、私はリリカスカを抱きしめたくて仕方なかった。
二人っきりになるタイミングがあれば・・・。
妻達とホールバーンはリリカスカをホールバーンの愛妾にして、リリカスカが稼いだお金を折半すると話し合っていたが、妻は私と二人となると「ホールバーンも邪魔ですわね。リリカスカは私の側にいたほうが、あのこの役目を全うできると思うのよ」と酷く醜い顔をしていた。
「カーンバックスも抵抗するでしょうし、ホールバーンを殺させて、リリカスカをこちらのものにしましょう」
それを聞いて子供達も小動物を殺すときのような愉悦の表情を浮かべていて、これが私の家族なのかとまた恐ろしく思った。
リリカスカの治療は本当に素晴らしいもので、カーンバックス侯爵にも大事にされていることが解って、私はリリカスカはカーンバックス侯爵と一緒に居るのが一番の幸せなのだと知った。
ホールバーンと妻たちはかなりの人数を出してリリカスカ達を襲う計画を立てていて、私はリリカスカを守りたかったので私も参加することにした。
リリカスカはよほど魔法の才能があったのか、攻撃魔法まで使えるようで、子供達に殺さない程度に怪我を追わせ、戦えないようにしていった。
リリカスカの勇姿を見て悦に入っていると、いつの間にか腕と足を切りおとされてしまった。
別に構わない。リリカスカが幸せなら。
リリカスカが血止めをしてくれたおかげで命は助かった。
かなり激しい戦いだったが、誰一人死人が出ないようにリリカスカが治療していた。
リリカスカ達が去った後、妻と子供を殺そうと思ったけれど体が動かなくて、何も出来なかった。
様子を見に来たホールバーンの家の者達が治癒魔法師を呼んでくれたが、呪いのようなものが掛けられているそうで、治癒師には治せないと言われた。
せっかく助かったホールバーンもまたベッドの住人となった。
一度は帰ってきたホールバーンの妻は夫の姿を見て、離婚届のサインを書かせて逃げるように自領へと帰っていった。
私達はホールバーンで邪魔になり、アルファルファへと送り返された。
屋敷に着くと私の足には義足が付けられ、立ち上がる度にのたうつ痛みに晒されたが、リリカスカが受けた痛みに比べたらどうってことはないと自分に言い聞かせた。
妻や子供達は「痛い」「苦しい」「助けて」と唸っていたが、誰だったか「もう殺してくれ」と言った。
なら望み通り、殺してやろうと思った。
私はリリカスカに子爵家のすべてを残す書類を準備して、王家にも届け出を出し受理されてから子供と妻が眠りについている間に一突きで殺した。
「リリカスカ・・・カリス、本当に済まなかった・・・」
私は剣を自分の首に当て、勢いよく引いた。
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父達家族が死んだと報告が来て、レミン様と一緒にアルファルファ家へと足を踏み入れた。
私に暴力を振るっていた使用人達が私に向かって来たので、取り敢えず全員頭を燃やしてやった。
決して癒やすことが出来ないように呪いながら。
レミン様が白い目で見ていたけれど「襲われると思って!!」と言うと笑って「今までそういう目に遭わされてきたんだから、そう思っても仕方ないよな」と納得してくれた。
「取り敢えず、全員解雇だから」
そう使用人達にレミン様が言って、はした金を握らせて全員解雇した。
「リリカスカはどこで生活していたんだ?」
レミン様に聞かれて裏手にある物置小屋へ連れて行った。
地面がむき出しの小さな物置小屋。
毎日何度も死にたいと思いながら朝を迎えて絶望していた。とレミン様に話すと、優しく抱きしめてくれて「生きていてくれてありがとう」と言ってくれた。
「この屋敷をどうしたい?」
「この間教えてもらったのですが、私が産んだ子供にアルファルファの家を継がせることができるのでしょう?」
「ああ」
「家名って変えられます?」
「酷く面倒だが出来なくはない」
「なら子供のために家名を変えて継がせたいと思います。でもまぁ、所詮子爵家なので結婚とかで子爵家以上と縁付けたならそのままにして、孫の代にすればいいかと」
「そうだな」
「屋敷は母との思い出がほんの少しあるのですが、それ以上に酷い思い出しかないので、取り壊しちゃってください。別の場所に屋敷を建てたいです」
「リリカスカがそう望むならそうしよう」
「だからレミン様が好きです」
レミン様は薄い笑みを私に向けて、口づけた。
屋敷は直ぐに取り壊され更地になった。
勿論私が住んでいた物置小屋も潰されてなくなった。
更地になった家を見て、私は満足した。
ただ父が全てを私に残した理由だけが解らなかった。
父は私に暴力は振るわなかったけれど、助けてもくれなかった。
何を考えているのか解らない人だった。
いなくなった人のことを考えても仕方ないかと思考を切り替え、私はレミン様と手を繋ぎ、アルファルファの領地を後にした。
領地の名前の変更は本当に大変だったようだけど、無事に変更され、リリカバックス子爵家となった。