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第四話

 部屋の奥に感じた二つの部屋は、トイレとバスルームだった。

 どちらもわたしにはもったいなく感じたが、有難くバスルームで水を被った。

 バスルームに置かれていた触り心地のいいタオルを借りて体を拭いたわたしは、もともと着ていた服を着直してからふかふかのソファーに横になった。

 分不相応な大きそうなベッドになんて横になれる気がしなかった。

 

 それでも、普段寝ている寝藁に比べたら天国のようなソファーでわたしはどうしてこうなってしまったのかと頭を抱えた。

 

 ディスポーラ王国でのわたしは用済みの残りカスのような存在。

 わたしは確かにそこに居たけど、誰もわたしをわたしと認めない場所。

 

 新しい場所では、どのくらい生きなければならないのだろう。

 早くわたしが何の価値もないバケモノだと分かってもらえれば楽になれるのに。

 

 死ぬときは、せめて苦しむことがないように逝きたい。

 

 そんなことを思いながら眠りについたわたしは、いつものような浅い眠りの中、幻痛で目を覚ます。

 

 両手で顔を覆い、唇を噛む。

 

「死ぬのは怖い……。でも……こんな色のない世界で生きるのはもう……」


 泣きたくても涙一つでない。それでよかった。

 涙なんて何の助けにもならないのだから。

 でも、いつか見た美しい涙がわたしの心を温かく濡らした。

 

 

 

 

 

 翌日、朝食を断ったわたしを心配しつつも、無理に食べさせることもなく男性は宿を出発した。

 馬車に揺られること数日、メイドの世話だけは絶対に断っていたわたしだが、心配する男性に負けて数か月ぶりに食べ物を口にしていた。

 

 味など分からないし、何を食べたのかもわからないけど、食べ物を口にしたわたしに安心したように息を吐く男性の気配にわたしは申し訳なさを感じていた。

 

 そうこうしているうちに、馬車が止まった。

 

「王女殿下。国境を越えたので転移スクロールで帝都まで向かいます。転移は一瞬ですが、帝都に着いた時にどこか不調があれば我慢せずおっしゃってください」


 謎のてんいすくろーるという言葉に内心首を傾げながらも言われるがままに、馬車に座っていると、体の中の臓器が浮き上がるような寒気を感じた後に、再び男性から声を掛けられた。

 

「王女殿下、体調はいかがですか?」


 不思議な感覚は一瞬で、今のところ不調を感じるところはなかったため素直に答えた。

 

「問題ありません」


「よかった……。それでは、少しの休憩の後に帝城に向かいます」


 男性が何を言っているのか理解できなかった。だって、国境を出たと言ったほんのすぐ後なのに、帝城に? そんなの信じられない。

 だけど、わたしが何を言ってもどうしようもないから、わたしはただ頷いて見せた。

 

 それからしばらくして、馬車が走り出そうとしたその時だった。

 よくわからないけど、馬車の外がなんとなく騒がしくなっていた。

 

 

「ラ……ラヴィリオ!? おま……なんでここに!!」


「ははっ! そんなもの当然、愛しの我が花嫁を迎えに来ただけだ」


「ちょっ! はぁ……」


「悪いな。だが、俺は愛しの花嫁に一刻も早く会いたかったのだ!!」


 外から聞こえてきた会話にわたしは頭を傾げた。

 愛しの花嫁? 迎え? 会いたかった?

 世の中には、こんな熱烈な言葉を息を吐くように言う人がいるのかとわたしが感心していると、馬車の扉がコンコンとノックされた。

 黙っていると、さきほど聞こえたチャラそうな男の声が聞こえてきたのだ。

 

「俺の可愛い人。迎えに来たよ」


 その声と同時だったと思う、馬車の扉が開かれたのは。

 

 そして、見知らぬ男性の息をのむ声を聞こえてきた。

 いつものことだ。だってわたしはバケモノだから……。

 だけど、その人は他の人と何か違っていて……。

 

「ティアリア……。ごめん……。遅くなって……ごめん。俺は……俺は……」


 そんな悲しそうな声でどうしてわたしの名前を呼ぶの? どうして?



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