第三十七話 sideラヴィリオ
本来であれば、王都の門は固く閉ざされているはずだった。
しかし、マルクトォス帝国軍が侵攻を開始してからそれなりに時間はあったはずなのだ。
それなのに門は解放されたまま、見張りの兵もいない。
王都に足を踏み入れたが、そこは地獄のような光景が広がっていた。
瘦せこけた民衆たちが食べ物を奪い合い、貴族の屋敷に押し入り、王城の門に群がる。
体力のない子供や老人などは、息をしているのが不思議なほど弱り切っていた。
まだ、手持ちの物資はあったことが幸いした。
本来ならすぐにでも王城に踏み込みたいところだったが、目の前の惨状を放っておくことなど出来なかった。
ここに来るまで、恩を感じたという王国の民たちが従軍していたため、王都での炊き出しは、彼らに任せることにして、俺は帝国の兵を引き連れ王城に向かう。
王城に向かいながら、民たちに王都の門付近で炊き出しをしていることを伝えつつ先に進む。
王城の門に群がる民たちが、マルクトォス帝国軍を見て、一斉に俺たちの方に押し寄せてくるのを見て、俺は大声で宣言する。
「お前たち! 俺は、マルクトォス帝国時期皇帝、ラヴィリオ=セス・マルクトォスだ。ディスポーラ王国時期女王のマリーデ・ディスポーラが、我が妻の命を脅かしたため、彼の者を捉えに来た。お前たちに危害を加えるつもりはない! 現在、王都の門付近で炊き出しを行っている」
俺の話を億劫そうに聞いていた民たちだったが、炊き出しという言葉を聞いて目の色を変えた。
そして、ほとんどの者があっという間にその場から立ち去り炊き出しをしている場所に駆け出していた。
「ラヴィリオ様、ここがひと段落したら、帝国から物資を持って本格的な炊き出しと改善策を取らないといけませんね」
「ああ、そうだな」
この国はもう駄目だろうな。
俺が出来ることは、帝国の傘下に入れて、帝国が管理することを父上に提案することくらいだろう。
そして、このようになった原因である王族をどう始末するかだ。
まぁ、その前にティアリアのことを聞かなければならないがな。
障害が何一つなくなった王城を進む。
驚くほどに、外はあれほど荒れた状態だったのにも関わらず、王城の中は煌びやかなものだった。
武装した俺たちが進むと城に勤める者はその身を伏せて、体を震わせた。
王族の居場所を聞けば簡単にその居場所を漏らす。
忠誠心のかけらも感じなかった。しかし、このありさまであれば仕方ないとも言えた。
俺は迷うことなく、ディスポーラ国王がいるという王の寝室に向かっていた。
扉の前には辛うじて兵がいたが、武装した帝国兵を見てすぐさまその場から逃げ出していた。
俺は、扉を乱暴に開いて中に押し入る。
「なっ! 何事だ?!」
「ディスポーラ国王、国王だな?」
「だ、誰だ! 誰か! 侵入者だ! 私を守れ! この無礼者を排除しろ!!」
でっぷりと太った男がベッドの上で震えながらそう叫んでいた。
威厳のかけらもない愚王。第一印象は最悪だな。
「貴殿を守る兵などどこにもいない。貴殿はこの国を治める者としては失格だな」
「なっ!! なんと無礼な!!」
「無礼なものか。国がここまで荒れているというのに何の手も打たない。王たる資格がないと思うのだが?」
「っ!! 私の所為ではない!! あの恩知らずが! 恩知らずが!!」
そう言って、顔を真っ赤にさせて震えだした国王に呆気に取られていると、ジーンが一人の女を連れて来た。
「何をするの?! この無礼者目が!! 私がマリーデ・ディスポーラと知っての狼藉か!!」
「ラヴィリオ様。連れてまいりました」
ジーンが連れて来た赤い髪の女を見て俺は確信した。
あの時、一瞬だけ視界に入った女で間違いないと。
ひとつ、呼吸をして冷静さを心がけて、赤髪の女に俺は聞いた。
「お前が、ティアリアの腕を持ち去ったのか?」
「ひっ!! あっ……」
「質問に答えろ」
「まさか……、皇子殿下?」
「俺の質問が聞こえなかったのか?」
「ひっ!! しっ知らないわ! 何も知らない」
そう言って、視線を泳がせる女を見て、この女で間違いないと強く感じた。
床に腰が抜けた様にひれ伏す女に近づき、俺は強めの口調で質問を繰り返す。
「正直に言え」
女はブルブルと震えた後、再び白を切ろうとしたため、俺の我慢が限界に達していた。
女の赤い髪を掴み、顔を床に擦りつけるようにして圧を掛ける。
「言え」
「あっ……、あ……」
髪を掴み手に力を入れると、ようやく女は口を開く。
「痛い、痛い!! 言うわ。だから、手を放して!! 私があのゴミカスから奪ったわ!」




