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第三話

 わたしが扉を開けると、扉の前にいた男性が息をのむ声が聞こえた。

 よくあることだけど、さっきまで丁寧な言葉をかけてくれた人からの反応に、ほんの少しだけ心が軋んだ。

 だけど、目の前の男性は何か違ったみたい。

 

「失礼いたしました。それでは、行きましょう」


 そう言ったあと男性は黙り込んだ。

 いや、今までにないことでわたしの反応が遅れただけだったんだけど……。

 どうしたらいいか分からなかった。

 多分だけど、男性はわたしに向かって手を差し出していたんだと思う。

 でも、それを取っていいのか、そして、手を取った後はどうしたらいいのかが分からない。

 身動きできずにいたわたしに男性は気が付いて、心配そうな声で言うのだ。

 

「王女殿下? どうされましたか?」


 男性の声にわたしこそがその言葉を男性に返したかった。

 なんでわたしなんかに丁寧に接してくれるの?

 普通の女の子のようにエスコートしようとしてくれるの?

 わたしはバケモノなのに……。

 

 戸惑うわたしに向かって男性はゆっくりとした声で話しかける。

 

「申し訳ございません。我々、マルクトォス帝国の馬車に移動していただきたいのです」


 優しい声でそう言った男性は、小さな声で吐き捨てるようにい言った言葉にわたしは黒いベールの下で苦笑いを受けベてしまった。

 

「我が主の大切な方を、このような馬車に乗せようなど……。糞が……。はぁ、お迎えに上がって正解だった」


 よくわからない好意は感じたが、わたしを思って汚い言葉を吐く人など初めてで、わたしは数年ぶりに目の前の男性に興味が湧いていた。

 

 物言わぬわたしに向かって男性は慌てるように言葉を改めて言った。

 

「失礼いたしました。さあ、お手を失礼いたします」


 そう言った男性はそっとわたしの手を取って、帝国が用意したという馬車までエスコートしてくれたのだ。

 

 先ほどの馬車よりも大きく、馬も立派そうな気配を感じる。

 だけど、それだけではなかった。

 馬車の椅子に座って、わたしは本当にここが馬車の中なのかと首を傾げることとなった。

 だって、椅子が雲のようにフカフカで、触り心地はツルツルだったのだから、驚かない方がどうかしている。

 

 椅子のとんでもない心地よさに驚いているわたしにエスコートしてくれた男性は、またしてもていないな口調で言うのだ。

 

「それでは、我がマルクトォス帝国まで護衛いたします。国境を越えた後は、転移スクロールで帝都まで一気に向かいますのでそこまで時間はかかりませんが、ご不便をおかけいたします。何かあればお声がけください」


 初めて聞くてんいすくろーるなるものが何か分からなかったが、こんな柔らかい椅子に座ってて不便など感じるはずもなく、わたしが声を掛けることなく馬車は進んでいったのだった。

 

 どれくらい馬車に揺られていたのか分からなかったが、特に何も考えることなく揺れに身を任せていたわたしは外からのノックの音に首を傾げていた。

 またしてもわたしが声を出さずにいると、男性が丁寧な口調で言うのだ。

 

「王女殿下。今日の宿に到着しました。お部屋にご案内いたします」


 そう言われたわたしは、自分で馬車の扉を開けて、男性に手を差し出される前に馬車から飛び降りていた。

 そんなわたしに驚いて様子だったけど、特に何も言うこともなく男性は自然にわたしの手を取って、部屋までエスコートしてくれたのだ。

 

 男性の堅い手に導かれて案内されたのは、広そうな空間だった。

 大きなベッドとテーブルセット。部屋の奥には小さな部屋が二つ。

 広そうな空間に案内されたわたしは、男性の言葉に慌てて声を出していた。

 

「ここまでの道中ご不便をお掛けして申し訳ありません。食事は後ほどお持ちします。先に旅の埃を落としてください。王女殿下のお世話にメイドが来ますので今しば」


「不要です!!」


「し……しかしですね……」


「自分のことは自分でできます。メイドなど不要です。食事も結構です」


 そう言ったわたしは、困惑する男性を押し出そうとしたけど、まったく動かなかった。

 それでも、メイドなんてとんでもない!

 絶対に無理、ありえない!

 だからわたしは力いっぱい彼を押していた。

 

「む~~~~!!」


 力の限り押したけど、どうしてピクリともしないのよ!!

 でもね、わたしの努力は無駄ではなかったみたい。

 彼は、申し訳なさそうな? いえ、笑いを堪えるような? 何とも言えない声でわたしに言ったわ。

 

「わかりました……。しかし、何かあればお呼びくださいね。必ずですよ?」


「は……い……」


 わたしが力を抜くと、男性は一歩後退ってから部屋を出て行ったのだ。

 


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