第三十話
ミルクの甘さの中にほんのりとした辛味があって、その初めて体験する味にわたしはとても驚いていた。
これまで辛い物を食べたことはあっても、美味しいと感じたことはなかったからだ。
「お気に召していただけたみたいでよかったです」
「はい……。今まで、辛くて痛いと感じるものを口にしたことはありましたが、このピリッとした辛さは美味しいと感じました」
「ふふ。もしかして、妃殿下は俺と同じく辛党なのかもしれないですね」
「からとう? ですか?」
初めて聞く言葉にわたしが戸惑っていると、ジーン様が教えてくれた。
「辛い物を好んで口にする者のことを辛党って言うんですよ」
「辛党……」
「もし興味がおありでしたら、俺のとっておきも試してみますか?」
とっておき……。すごく興味をそそられるお誘いに、わたしは小さく頷いてしまっていた。
ジーン様は、再び部屋を出た後に、独特な匂いのする何かを持って戻ってきたの。
「お待たせしました。これは、数十種類のスパイスを配合させたカーリーという料理です。今回用意できたのは、少し辛めのものなので、少しずつ試してください。決して無理はしないようにお願いします」
そう言われたわたしだったけど、鼻腔をくすぐる香りに唾を飲んでしまっていた。
わたしの目の前に置かれたお皿からは、先ほどの紅茶の比ではない独特な香りがしていた。
でも、すごくお腹がすく香りだった。
用意されていたスプーンを手に持って、目の前のお皿と向き合う。
そして、スプーンで少しだけカーリーを掬ってみる。
すこしとろみのあるスープだと気が付き、わたしは熱そうな湯気を感じて、何度も息を吹きかけてからスプーンを口に運んでいた。
一口食べた瞬間、わたしは舌と唇に感じるヒリヒリとした痛みに驚く。
でも、それは一瞬で、舌の上には辛味だけではなく、ほんのり感じる果物の酸味と甘み、他にもいろいろな味が複雑に混ざり合って、今までに感じたことのない美味しさをわたしは味わっていた。
カーリーが喉を通るとき、喉が痛くて、お腹も熱かったけれど、もう一口食べたくなってしまって、どうしようかと悩む。
でも、これ以上は駄目だと頭では分かっていても、体がカーリーを求めてしまう……。
「あむっ……。はふはふぅ……。ごくっ……。あむっ……。はふぅ……はふっ。ごくっ」
「妃殿下? 大丈夫ですか?」
「はふぅ……。ふぁい……。らいじょうぶれす……。とてもおいひいです……」
とても美味しくて、なん口も夢中でカーリーを口に運んでしまっていたわたしは、自分の限界に全く気が付いていなかった。
体は物凄く暑くて、全身から信じられないくらい汗が噴き出していた。
舌も喉も痛いし、お腹は燃えるように熱かった。
だけど、カーリーが美味しすぎて……。
でも、確実に慣れない辛味にわたしの体はダメージを受けていたみたいで……。
何口目か分からないカーリーを飲み込んだところで、目を回したわたしは気絶してしまっていた。
その後、ラヴィリオ王子殿下には、物凄く怒られてしまったわ。
それに、わたしにカーリーを用意してくれたジーン様も。
ジーン様は、ちゃんと注意を促してくれたのに、欲張ってしまったわたしが悪いのに、わたしの所為でラヴィリオ王子殿下に叱られてしまった、ジーン様に申し訳なくて……。
でも、あの辛味を知ってしまった今、ふとした瞬間にあの刺激的な味を求めてしまうわたしがいたわ。




