三題ばなし(風、橋、ガム)
こちらから向こう岸まではざっと10mぐらいだろうか。水面にそっくり同じようにうつる稜線に縁取られた橋は少年少女を水の上に浮かべた。
さらさらと水は、自由な流れと共にしっかりとした時間の流れを感じさせてくれる。
「みてみておにーちゃん私の勝ちでしょう?」と言っているつもりの妹、麻美は口いっぱいにフーセンガムを膨らませて兄の塔矢にみせびらかす。
「ばか、おにいちゃんの方がおっっきいに決まってるだろ」と言っているつもりの塔矢もまた顔を真っ赤にしてフーセンガムを膨らませていた。
サイズは塔矢の方が1.5倍の大きさといったところだろうか。二人は橋から四つん這いで水面を覗き込み自分の作ったフーセンと相手のを見比べている。
そのとき突然ふわっとひとすくいの風が舞う、春一番というにはあまりにもからからしていてあまりにも強くって橋の上でバランスを崩しそうになってしまった。隣を見ると麻美もふらふらしていて今にも橋から転落してしまいそうだった。
ふらふらしている麻美をだきとめる。
パチン。
小気味いい音とともに塔矢のフーセンがしぼむ。そこには口の周りが二倍三倍に腫れ上がったような、たらこ唇のような塔矢が目をぱちぱちさせて自分の顔を見つめていた。
パチン。
「私の勝ちぃ」
そこには器用に口の中でフーセンを爆発させた麻美が勝ち誇った目で塔矢を見ていた。
「ば、ばか、俺は兄ちゃんだからなんでも麻美よりも先にやらないといけないの。フーセンを割るのも俺が先にわざとしたの。それに俺の方が大きかったろ?」
「へっへへへ。でも私の勝ちだもん」
「普通勝負って言ったら大きさ勝負だろう?」
「違うもん膨らましていられる長さだもん」
得意げな麻美は四つん這いの体勢から立ち上がり胸をそらす。
とそこに狙い済ましたかのように先ほどの風が吹く。さっきよりも強く乾いた風は彼女の背中をゆっくりと押した。
とたんに麻美の細い腰が浮く。
「あっさ」
塔矢が伸ばした手は麻美の左腕をしっかりとつかみ強引に引き戻した。
そして当然引き戻した分の力は質量保存の法則により塔矢を橋から落とすことに使われた。
ばっしゃーーーん。
宇宙の法則を体で感じた塔矢はそのまま浅い流れにダイブを決めた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
さっきの得意げな顔を今にも泣きそうな顔に変えて麻美は塔矢を呼ぶ。
「ばか、いったろ何をするにもなんでも兄ちゃんが先じゃなきゃいけないんだよ」