飛将の憂鬱 ~おねぇは呂布に転生しました~
納得いかないわ。
あたしは薄暗い雲が一面にかかる寒空を見上げ、白い息を吐いた。
お店の常連さんも増えてきて、これからって時にこんな場所に転生するなんて。
今のあたしは筋骨隆々の、二メートルを超える大男。身体能力だけはチートかも知れないけれど、前世の経験なんかちっとも活かせない。
曇り空に低い音が響き始めた。敵襲を伝える兵の声が周囲を行き交う。
ここは乱世の戦場、虎牢関という関所。あたしはその守りの要。向かってくる敵は十万やら二十万やら、何だかもう桁が大きすぎてどうでもいいわ。
「よっこいしょ……出番かしらね」
唐獅子模様の重たい鎧を鳴らし、あたしは床几から立ち上がった。
重々しい蹄の音を立てて、傍らに赤毛の巨大な馬が曳かれてくる。長い雉の尾羽飾りのついた兜を頭に着けて馬に跨ると、兵が数人がかりであたし愛用の武器――方天画戟を渡してきた。くそ重いけれど破壊力抜群の代物。
虎牢関の巨大な門が重々しい音を立てて開かれ始めた。遠目には押し寄せる敵軍が見える。
あたしは出陣を見送ってくれた女の子の顔を思い出していた。
あたしがおねぇだとも知らずに、ハニトラを仕掛けてくる哀れな子。ちょっと可愛らしい顔をしてるからって舐めた真似してくれるわ、腹の立つ。あたしだって、どうせなら転生前には望むべくもなかったああいう線の細い美女に転生したかったわよ。
いえ違う――本当に腹が立つのは政治の為にあの子を利用している男どもよね。あの子が哀れなのは、利用されているだけの癖にあたしを利用していると勘違いしているから。
あたしは赤毛の馬を前に進めた。みんなは赤兎と呼ぶ、荒っぽいけど可愛いコ。
曇天を切り裂かんばかりに頭上で方天画戟を振り回し、向かってくる軍団へびたりと真っ直ぐに穂先を向けた。
「あたしの名は呂布ッ! 字は奉先ッ! 全員ぶっとばしてやるからかかって来なさい!」
折角こんなチートな武があるのだから、あの子をこんな乱世から引きずり出してやるのも悪くない。身の程を知りなさいって説教して、一緒にお酒飲んで、あたしの軽妙なトークで心から笑顔にしてやるわ。そうね、そこでようやくあたしの前世の経験が役立つのかもね。
男は男で精々栄達を目指しなさい。でもおねぇのあたし一人ぐらいは、哀れに思った女の子に寄り添うために武器を振るうの。
おねぇのお節介よ、文句ある?
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:おねぇ




