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第1章 第7話 ヒトならざるもの

  ハイオーク討伐隊一行は野営地に到着した。

 

 野営地は街道を繋ぐため大森林を切りひらいた際の貯木場(ちょぼくじょう)の役目もあり燃料には事欠ことかかない。

 

 ベリアが大量に運んできた馬肉をあぶるため、6つの焚き火をおこしもうもうと煙を上げている。

 それを見て呆れた隊長が苦虫を噛み潰したように愚痴る。

 

 

「干し肉を噛じらせて、半時も休ませてから進軍を予定していたんだがな……」

 

「何いってんの、腹が減っては戦ができないってね。

 それに問題はブラックウルフだよ、だいぶへばってる。

 午後に大森林まで行くとすると戦闘になる可能性は高いだろ?

 充分に体力残して進軍しないと肝心のハイオーク討伐前に数が減るよ」

 

 

「ベリアったら! 言い方!

 隊長さん申し訳ありません、ですがベリアの言う通りです。

 ブラックウルフは木札銅札とも戦闘依頼の経験が無いようなので軍隊行動を軸に考えるとあだになる可能性があります」

 

 

 言われてみればブラックウルフは5人とも街にいる少年少女と大差ない。

 むしろ栄養が足りていないのかやせ細っていた。

 それでも剣を構えれば牽制けんせいにはなるし初級魔法でも助かるのは間違いない。


 [等級不問]で募集を掛けた手前、命懸いのちがけの冒険者を雇っているのだから知った事ではないと断じるのははばかられた。

 

 

「肉を食べられるなんていつぶりだろう、うまいや」

 

「遠征で食べる保存食は大抵干し肉だが塩がきついし、野菜スープに入れてもエグい味が移るからなあ。

 そのままあぶって食う肉は旨いぜ、馬肉は癖が強いけどな」

 

「ロッタンさん、さっきの馬賊はベリアさんとソロの子だけで倒しましたよね?

 弱くなかったですか?」

 

「装備は良かったが、馬は襲った補給隊の荷馬だったんだろうな。

 あぶみもなかったから騎馬突撃は難しい」

 

「それで弓って訳ですね、軽くて使いやすいや」

 

 

 ブラックウルフの少年が賊から奪った馬上弓を構える。

 軽い分、威力は弱いものの稼ぎのまだまだ少ない新人冒険者にとって装備の充実は最優先事項である。

 剣士でも接近前に攻撃できる手段があるというのは重要なのだ。

 亡骸からの剥ぎ取りの是非など無い、依頼の生存率を上げるかどうかなのだから。

 

 

_/_/_/_/_/

 

「たま ちゃんってかわいいですねええ~」

 

 

[ なでなで ]


 

「だろぉ? たま 逃げるなよう 」

 

 

[ なでなで ]

 

 

 べリアと5人組のうちの若いメスがうざい。

 焚き火の丁度いい場所で眠りふけりたいというのに撫でつけてくる。

 それもこいつらときたら、腰やしっぽも撫でてくる。

 腰は太ももがムズムズするし、しっぽは恥ずかしいんだよ!

 

 逃げてもまた追ってきての繰り返し、焚き火がいっぱいあるのが救いだ。

 しばらく人間ヒトのメスどもの撫でりを避けつつ体を温めきった。

 気分転換に散歩をすることにする。

 野営地の裏手には雑草地が広がり、探索してみると結構な獲物が見つかる。

 

 野兎、土鼠つちねずみ等を数匹捕まえた。

 べリアの背嚢バックパックの外ポケットにしまい込む。

 

 野営地はなだらかな丘の上にある。

 裏手にある雑草地の奥だけ急な段差で沈み込み、窪地くぼちが広がっていた。

 

 奥の窪地くぼちは死角となっていて見えなかったが気配を感じ、段差の上から覗き込むとユウシャがいた。

 

 ユウシャは他の()()()()()()、危険な匂いがする別の存在だ。

 ご主人様(かすみちゃん)と同じ音なのも気に食わない。

 

 

 ユウシャは何者かと戦っていた、影のようなものがユウシャを扇状に囲んでいる。

 影のようなものはユウシャより不愉快な存在だった。

 何度かユウシャが剣で切り付け数を減らすが、距離を一定に保つ様に囲むため思うように殲滅せんめつできないようだ。

 

 ――音もなく――ユウシャの背後から、ひときわ不愉快な影が立ち昇った。

 しっぽが総毛立ち他の影とは明らかに格が違う危険な存在というのがわかる。

 その影はユウシャに気付かれないよう隠れて爪を構えているように見えた。

 

 

「ぅなーぉう」

 

 

 低くうなると()()()()()()()()でありながら、ユウシャも、ユウシャを囲む影も、隠れて背後から襲おうとしていた影も僕を見る。

 いや、見ようとして見つけられないでいた。

 その結果ユウシャが背後の影に気付き、剣を素早く突き刺した。

 影はガラスにヒビが入るように崩れ消失し、扇状に囲んでいた影も逃げるように薄れていった。


 

『そこにいるのは たま でしょうか?』

 

 

 しっぽが痙攣するほどびっくりした。

 猫語ではない、ヒト語でもない、声は聞こえなかったのに話しかけられたのだ。

 

 

『普通の猫ではないのは気付いてましたけど、今のはなんだったんですか?

 感じた事のない存在圧そんざいあつでしたけど』

 

『知らないよ! 難しい事言われてもわからない。

 やっぱりユウシャは怪しいやつだ、影はもっと怪しいやつだ』

 

 

 反射的に受け答えをすると、僕も声を出して喋っていなかった。

 初めての経験に戸惑うが、ユウシャが何らかの能力を使っていることは何となく理解できた。

 

 

『嫌われちゃいましたか? というか君には影が見えたのでしょうか?

 他の人には見えない筈なのに』


『僕はヒトじゃなくて猫だよ!』

 

『いやそういう意味じゃ……うーん猫なら見えるもんなのかな』

 

 

 やっぱりユウシャはなんか危険だ、コワイ!

 僕は慌ててべリアの所へ戻り頭の上に駆け上る。

 

 

「いててて、たま~! かぶと(かぶ)っていないのに爪立てないで!」

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