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第1章 第3話 砦の街「アグムル」

ワールドマップ

挿絵(By みてみん)

  大陸西方の国 イリグランデ王国。

 

 イリグランデのほぼ中心部に王都があり南北東にある砦で隣国と接する。

 街道を中心に大小様々な町村があるが、王都を除き他国と接する砦が最も堅牢で繁栄する傾向にある。

 

 南に位置する砦の街、アグムル。

 アグムルは隣国のビシュマール王国との国境くにざかいにある。

 

 ビシュマール王国は肥沃ひよくな土地を有する農業国家。

 イリグランデ王国とは同盟関係であり貿易の関税や国境くにざかい(また)いだ冒険者ギルドの高額依頼などが容易に行えるのが特徴だ。

 それを狙って冒険者も多く集まり経済的にも潤っている。

 

 

「通行証を確認いたしました。

 アグムルの街へようこそ」

 

 

 商隊の馬車の検分をすませ、門衛が冒険者一行を誘導する。

 

 

「次の方どうぞ、ってお前らか。

 依頼終了か?

 …ってベリア、その兜にひっついてる猫は何だ?」

 

「何だっていわれても……。

 道中の白蛇退治してたら、草原から出てきたのよ。

 退治した蛇を食わせてやったら懐いてきたんだ」

 

「どっちかというとベリアが猫に懐いたんじゃね?」

 

「魔獣ではないことは確認済みですが、従属も眷属化もしていません。

 通せないということであれば追い払いますが」

 

「ん、いやいいだろう。

 魔獣でもない動物が出入りした所で問題にはならないだろうし」

 

「こいつはさっき腹一杯蛇食ったから今は大丈夫だろうけど、野犬とか通してたら食材露天とかやべえんじゃねえの?」

 

 

 実際、アグムルの商い通りと呼ばれる広場では地べたに商品を並べる商人もいる。

 広場のゴミ区画には野良犬や野良猫がたかっている事もあった。

 

 

「主のいない飢えた野獣は追い払えるが、からすや鼠を哨戒しょうかい出来ないしな。

 ベリア一行およびキジトラ猫一匹入門と……行っていいぞ」

 

 

_/_/_/_/_/


 虫狩りも蛇狩りも飽きたので、人間の群れに付いてきた。

 

 僕に対する反応を見ればよくわかる。

 人間ヒトのオス二人は要注意だけど、メスはご主人様(かすみちゃん)と同じ猫好き(しもべむき)だ。

 

 足元にまとわり付いていたら間違いで蹴っ飛ばされ抱き上げられた。

 ごつい手で撫でられるのは不快ではあるが、遊びに構ってもくれるので多少は我慢する。

 収まりが悪かったので、頭によじ登ったら居心地最高だった。

 人間ヒトのメスが頭に装備しているのは皮帽子に麻糸で木片を縫い当てた軽量兜である。※

 

 

 [ がりがりがり ]

 

 

「ちょっ!? たまちゃん!? 兜の上で何やってるの!?」

 

「爪研ぎですね……」

 

「引っかかり具合がちょうど良さそうだもんな」

 

 

 この人間ヒトのメスは蛇狩りの手腕を見ても狩り能力は僕より上。

 同行していれば色々と旨い肉も手に入るだろう。

 

 

「じゃ、たまちゃんギルドで依頼完了手続きと食事してくるから。

 しばらくここで大人しくしててね」

 

「言葉わかるのかよ」

 

「どっか行ってもそれはそれでいいんじゃないでしょうか」

 

 

 人間ヒトは『ぎるど』という大きな建物に用があるらしく、馬屋にある藁山に僕を降ろす。

 待っていろということらしい。

 収まりが良くなる様に前足で踏みしめ、寝転がる。

 多少馬臭いけどふかふか具合が最高、おやすみなさい……。

 

 

_/_/_/_/_/

 

「屍肉漁りの魔獣調査、グランアードウルフと判明。

 群れが予想されるので対策が必要と。

 白蛇の頭骨10個。

 依頼完了確認しました、お疲れ様でした」


「へへっ、毎度どうも」

 

「次に受ける依頼なんだけどさ、掲示板にあったこれ{ハイオーク討伐の合同依頼}って依頼料がやたら高いけど、どういう感じ?」

 

「はい、複数……最低でも3チーム以上で討伐に当たって頂きます。

ハイオークは少なくとも2体確認されており――」

 


「シェギ、あれやばくね? 上位種ありのオーク集団が2チームって事だろ?

 しかもこれ等級不問だから肉壁の臭いがぷんぷんする」

 


「――現在のところ銅級チームが1、鉄級チームが1決まっています、依頼主から銀級冒険者が統率役に配属されますのでそちらに従って頂きます」

 


「そのようですね、銀級冒険者って騎士の事ですよきっと。

 討伐を命じられたんで、肉壁雇おうってところですね」

 

 

 説明を受けたベリアがワクワクした顔をしながら振り向く。

 

 

「だってさ。

 ロッタン、シェギどうする? 銀級いるなら美味しいよね」

 

「やめとこうぜ」「断りましょう」

 

「なんでだよぅ、絶対楽しいって! 決まりな! これ受けます!」

 

 

 ロッタンもシェギもわかってはいた。

 ベリアがリーダーであり、ベリアの実力は下手な銀級よりも頼りになる。

 だが、銅級が依頼を受けられるなら冒険のイロハも分かっていない新人に足を引っ張られるという事でもある。

 ベリアは脳筋であると同時に姐御肌でもあるのだ。

 

 

「では明日朝、依頼掲示終了後ギルド裏の鍛錬場に集合となります」

 

「あいよ、よろしく! さぁて、飯だ飯だぁ」

 

 

 一行いっこうは依頼完了であったまった懐で空いているテーブルに陣取る。

 ギルドには酒場区画がもうけてある。

 料理担当が引退した冒険者だったり、注文配膳が見習い冒険者だったりするが安く飲み食い出来るため稼げない冒険者の命綱でもある。

 

 

「取り敢えずエールをジョッキで5つ、鹿肉ステーキ5人前ね!」

 

「は? あの……3名様ですよね?」

 

銅札どうふだの注文取りですか、ギルド酒場の依頼は初めてです?

 冒険者は荒くれ蟒蛇うわばみが多いですから、量の心配は無用ですよ。

 数だけは間違えないでくださいね」

 

 

 店員の首にかかっている等級札とうきゅうふだを見て、シェギが両手の指を立てて注文を繰り返す。

 

 

「は、はい! ありがとうございます」

 

「あ、忘れてた。 猫ちゃん用に鹿の生肉を追加でおねがい」

 

「いなくなってるかもしれませんのに」

 

「いいんじゃねえの? 使わなかったら焼いて食っちまえるし」

 

 

 新人の冒険者は登録すると、木札きふだから始まる。

 剣を振った事もない凡人が冒険者ギルドで稼げる依頼はそうは無い。

 ギルド酒場の依頼は仲間を見つけるのにも、先輩たちの雰囲気を掴むのにも役に立つ。


 銅札どうふだなら作物を荒らしにくる飢えた害獣退治に手を付ける頃である。

 ギルド酒場の機微をあまり知らないという事は、荒くれ者が多いからとギルド酒場の依頼も避け日々の食事も割高な宿屋や酒場を利用していたという事になる。


※補足:

あくまでもレザーヘルムなのですが(四隅に糸通し穴を開けた)四角い木板で防御力を強化したものです。

日本甲冑の佩盾はいたてに使われる素材が近いイメージです。

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