第2章 第8話 銀の鬣
「なんだいこりゃあ?」
翌朝、ギルドへ来たアックスヘッドは依頼掲示板に群がる人数に呆れた。
依頼はここ数日同様、大量の害獣討伐依頼があふれている。
だがその中にあまり見ない異質な物があったのだ。
[急募:大陸中央への遠征
条件:鉄等級以上 5名まで
依頼元:勇者カスミ]
依頼内容もとんでもなければ、報酬額も2つほど桁が違う。
勇者カスミといえばイリグランデ王国冒険者ギルドのソロ登録者。
ソロでは依頼の達成が困難な場合も多いため、冒険者たちがカスミの助力要請にパーティを組みカスミの能力はある程度知れ渡っている。
冒険者は命と金貨を天秤に掛ける。
金欠だったり名を売ろうとすれば報酬に見合わない依頼を受ける事もある。
だが大陸の中心といえば魔物の特産地、魔王国である。
魔王国と言えば魔王、勇者が行くとなれば打倒魔王と相場は決まっている。
「いくら勇者だからって無茶すぎるよなあ」
「銀級揃えても命を捨てに行くようなもんよね」
「報酬がいくらでも命を賭けるには勝算なさすぎですからね……」
しばらくして噂の依頼人がギルド酒場にやって来た。
ギルド内の全員がチラチラと朝食を注文し始めるカスミを盗み見る。
「よお! 勇者! えらい依頼あげとんなー。
コンゴールの話聞いて焦ってんのか?
やめときやめとき、おまえさんじゃ魔獣3匹にでも囲まれりゃお手上げだろ」
赤ら顔の冒険者が絡うように話掛ける。
それをきっかけに依頼に関しての質問攻めが始まった。
無茶・無謀・力不足と分かってはいても報酬を考えれば気になるもの。
「戦闘を避けて目的地に進みますが、完全には避けきれないでしょう。
問題は魔物の存在自体が物理にも魔法にも耐性がある事です。
神剣でないと大抵は勝負になりません」
「だから肉壁兼、囮が欲しいってことかよ」
「いえ、本当は一人で行くつもりだったのです。
仲間を募れと神告されたのでやむなく……」
戦闘を避けて進むなら、最小限の戦闘で目的を果たせれば、大儲けできる。
魔獣と闘った経験のある者はそれでもとんでもないと否定的。
賛否両論で喧々諤々の騒ぎになってしまう。
「カスミちゃん、魔物っていっても例のハイオークも魔物だろ?
耐性あるっていってもあたしの斧にゃ敵わないだろうからついてくよ」
「ええぇ……俺も行くのかよ」
「ベリアと別れるなら抜けてもいいんじゃないですか?」
「ぐう、それを言われると……」
「今回は無茶が過ぎますからね、生きて帰ってくる方が困難かも知れません。
付いていくっていうならあちこちの女に手を出すのを止めたらいかがですか?
娼館から病気引っ張ってくるのはロッタンなんだから反省してくださいね」
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人間どもは弱肉強食に従わない。
猫のかみさまが言ってた事に嫌な予感はしていたが、やっぱりユウシャだった。
ベリアをそそのかして、やたら強い奴の所へ連れて行こうとしてる。
「かなりの長期遠征になりそうですね。
ベリアの背嚢、ひと周り大きくしたらいかがですか?」
「そういやそうね、戦闘中は結構きついし」
「ん? そういえば たま の首の後……こんな色してたか?」
うわああああ! 言わないで!
今朝、銀色の毛が首の後ろに急に生えててびっくりした。
かみさまがやったんだろうけど神のセンスって一体どうなっているんだ。
大森林のあの猫は茶色の体毛に赤いたてがみ、かっこよかった。
茶褐色か灰色の鈍い輝きならともかく茶のキジトラに銀色て。
エリーとタンビには何故か評判良かったけど悪目立ちしすぎだろー!
「にゃーお」
「たまちゃーん、一緒に行くの?
なら余計に食料もってってあげないとね」
「ベリア、たま はハイオークの時も食い扶持は自前だったじゃないですか。
人間の保存食は苦手なのではないでしょうか」
「なうなう、ごろなーご」
「う、思い出した。
せめてもうちょっとうまそうなもん狩ってきてよう」
土鼠とトカゲ類はどこにでもいて味の変わらないすごいやつだ。
でもまあ寝床がそういうなら人間にも食えそうなものを優先するか。
人間どもはそれからもあれこれ買い込んで行った。
遠征のためのお弁当とか牙爪がわりのぶきとか毛皮がわりの硬い服とかだ。
前よりも大きなせおいぶくろへギチギチに詰め込んで僕のはいる隙間もない。
買い物のようすから出かけるのはまだまだかかりそう。
街の門を出て朝ごはんの土鼠を取りに行く。
タンビのところの猫たちを見かけ挨拶をしておく。
こんどの旅はどんなえものが取れるだろう。
今から楽しみだ。




