第2章 第6話 コンゴール挙兵
「酷い傷ね、勇者なら回復の魔法ぐらい使えるんじゃないの?」
「光魔法も、魔法そのものにも耐性があるから効かないんだ」
メリーが手当しているが勇者には全耐性スキルがある。
魔法耐性があっても薬草の薬効は効く。
だがポーションの劇的な効能は魔法による所が大きい。
傷病耐性があるぶん、一旦深い傷を追うと簡単には治らない。
野良猫があらかた片付くとポロ村の住民たちが出てくる。
エリーたちはポロ村より出てアグムルの街に戻ったらしい。
時刻はちょうど昼食時である、村長の歓待を受けた。
話を聞けば、カスミは冒険者ギルドより今回の急激な害獣被害増加について相談を持ちかけられたらしい。
銀等級が調査したところ、魔獣が確認されたという。
魔獣が来ているなら動くしかないと依頼を受けたのである。
今回、実際の魔獣猫を倒したのは たま である。
だが猫同士の激突騒ぎで魔獣を注視していた者は多くはなかった。
見ていたとしても何が起こったかまではわからないだろう。
ともあれカスミはそのままアグムルの街へ戻り、アックスヘッドたちは続いて次のガザ村へ向かう事になった。
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ベリアの頭の上は最高である。
座り心地もいいし、爪の刺さり具合も安定していて安眠が約束されている。
なにより他の人間たちよりも背が高く獲物を見つけやすい。
その代わりと言う訳ではないがしばらく構わせてやらなかったせいか、強制的に遊ばされ撫で回される。
僕のタマタマをおもちゃにした時は思いっきり引っ掻いてやった。
次の村では犬でも猫でもなく、マダラオオカミの群れだった。
戦闘になるとしっかり掴まってないと振り落とされる。
戦いの上手さでいうとこの集団ではベリアが一番だろう。
敵の多いところに突っ込んでいって敵をさばくやり方は参考になる。
帰り道、白蛇の辺りを通ったので久々に食いたくなって一匹狩りにいく。
3匹よって来たけどあしらい方は知ってるから大丈夫。
一番小さいのはその場で食べ、でかいのはお土産に持ち帰る。
「にゃー」
「たま か……今日も狩りごくろうさまです。」
「にゃ」
門のみはりご苦労さま。
おみやげはタンビのところに持っていく。
宿屋と酒場を見て回ると、ベリアは酒場で飲んだくれていた。
一段落して宿屋に戻り一眠りすると例によって人間の交尾が始まる。
人間って時期関係なく発情するんだから変な生き物だよね。
仕方なくエリーのところへ行く。
お互いに毛づくろいしあいながらごろごろする。
『たま どうやってあのでかいの倒したのよ』
『どうって……不愉快で嫌なやつらって、やられた時消えて逃げる事ができるんだ。
でもそれ使うと次からは逃げられない。
あいつはユウシャにそれ使ったから僕が不意打ちできたんだよ』
『そうじゃなくて、なんかあっさり倒れてなかった?』
『嫌なやつらだからね』
『なにそれ』
『ぐう』
『ねえったらー』
説明がめんどいから寝る。
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「勇者カスミ、随分とひどい有様だな」
「報告通り、魔獣でした。
被害は大したことありませんでしたが今後も注意が必要です」
「やはり、東のコンゴール帝国が中央へ進軍したのが関係しているか?」
「なん……ですって? 中央へ進軍って本当ですか?」
「コンゴールは軍事面でも余裕があるからな。
勇者も2人抱えてる、戦力に目処が経ったということだろう」
「さすれば将軍、我が王国としても戦力を整え勇者とともに進軍すべきではありませんか?」
「滅多なことをいうな、だがビシュマールと連携すれば行けるかも知れないな……」
「我が王国の勇者さまは鉄級だし兵力にも不安がある。
ビシュマールに使いを出し慎重に事を運ばなければいけない」
「カスミ殿? いかがなされた」
「東の勇者たちが動いたのであればボクも動かなければいけません!
今の魔王軍は彼等が想定しているような状態じゃない」
「それはどういう意味だね? 勝手に先走られては困るのだが」
兵士たちが勇者を捉え、拘束する。
この勇者はまだ若い。
能力も銀級の兵士にすら劣る。
だが勇者の能力は王国にとっては無くてはならないものだ。
魔獣一匹でも勇者の神剣が無ければかなりの犠牲が出る。
魔人の襲撃があれば対抗できるのは勇者のみなのだ。
「離して下さい! 少なくとも魔王には人間界への侵攻意思は無いんです!
でも魔物はそうはいかない、東の勇者たちが危険なんですよ!」
魔王に人間界への侵攻意思は無い
勇者のこの言葉は突拍子もないように聞こえる。
だが単純に戦力比で考えても東西南北、大森林外縁にある王国は全て軍事が充実しているわけではない。
大陸中央から攻めるのであれば攻める先はどこも同じ条件だ。
攻めようと思えば軍事力の低い国を襲えばいい。
人間は軍を動かすのに隣国からの挟撃を考えなければならないが、魔王国は人間のどの王国よりも遠い。
地勢的に連合を組まれ襲われる心配は少ない。
圧倒的に人間が不利なのである。
その上で挙兵した軍事大国であるコンゴールの身を案じている。
カスミの真意を理解できた者はその事態にぞっとするのであった。




