第2章 第1話 狩猟生活
討伐隊が避難民を護衛しながらアグムルの街へ到着する。
開拓村の被害状況報告、ハイオーク・オークの侵略状況など冒険者ギルドに正規兵と軍部責任者が集まっていた。
「ハイオーク3にオーク40ですか……」
報告の内容に騎士団長が顔を青ざめる。
オークとはただの魔物ではない。
強靭な四肢を持ち、学習し、武器を持つ。
ある意味亜人なのである。
上位種のハイオークなら、魔狼を従え騎乗兵となって侵攻するケースもある。
任務完了報告で無ければ大騒ぎになるところだ。
「よくぞ討伐して下さいましたな。
規模を考えれば制勝と言えるでしょう」
「ビシュマール王国からも防衛支援を手配いたします。
開拓村の復興は我が国にとっても意義がありますから」
麻のローブを纏った商人風の中年男性が書簡を騎士団長に渡す。
隣国ビシュマールの外交官である。
開拓村の発展は軍事・内政に於いて大きく拡大することになる。
ギルドへの依頼資金や討伐隊に冒険者ギルドへ登録していた銀級の兵士を手配したのもビシュマールによるものであった。
「そういえば今回の冒険者ギルドの依頼で勇者が参加したというのは本当なのか?」
「はっ! 今回の討伐でも彼女は重要な戦力でありました。
しばらくはアグムルを拠点にギルドの依頼をこなすとの事です」
「留意しておこう、ご苦労であった」
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「かぁ~っ! 冒険者ギルドでない酒場の酒はうめぇ~」
「まったくね! お姉さん麦酒もう2つ持ってきて」
「豪遊も結構ですが明日は武具の修理とギルドへ行かなきゃならないんですから程々にしてくださいね」
ギルド報酬はアックスヘッドの共有財産管理である。
依頼をこなせば一律で分配する分もあるので分配した分についての使い道は文句は言えない。
とはいえベリアは酒好き蟒蛇なので有り金飲みかねない。
ロッタンはロッタンで酒が入ると娼館へ行きたがる。
冒険者という職業はいわばなんでも屋である。
雑事から傭兵までなんでも依頼があれば金になる。
ただし、安全に対する保障は何もない。
命は安く、犯罪の片棒を担ぐことにもなりかねないのだ。
「ベリアは結婚資金、ロッタンは家を買う目的だったですかねえ。
共有財産を分ければ各々目的は完遂出来るんですが……」
充分な財産を蓄えた今となってはアックスヘッドの活動の意味はリスクしか無いと言っても良い。
ベリアは破滅型狂戦士の気があり、ロッタンは慎重さに欠ける。
なのに解散しようとはならない。
「結局、惰性と情ですかねえ。
いや……惚れた弱みか」
自嘲するようにシェギは酒を呷った。
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帰りに狩りをした戦果をエリーの所へお土産に持っていく。
エリーは宿屋がテリトリーだし、飼い主から食べる物は貰っているだろうけどオスの甲斐性ってもんがあるからね。
『あら、たま じゃない。 それ何?』
『しばらく出かけてて、これお土産に持ってきた。
飼い主さんにごはん貰ってるだろうからいらないかな』
『ありがとう! 確かにちゃんとごはんは貰ってる。
でも、ゴミ漁りしてる鼠じゃなくて外で狩ってきた獲物持ってくと店で使えるから褒められるのよ。
ありがたくいただくわ。』
持ってきた兎でエリーは喜んでくれた。
背中を梳いたり頭をこすり付けたりしてくる、照れるなあ。
エリーとひとしきり遊んだ後、タンビについて話してみた。
飢えて弱っていたこととメスと気付かず助けたことなど。
『あんたも物好きね。
はぐれ野良なんて情け掛けても面倒なだけじゃない?
私以外に交尾相手欲しければしっぽの長いメスが他にいくらでもいるでしょうに』
やはりこの世界の猫たちは、しっぽの長さにこだわるようだ。
それに助けたのは交尾相手とか関係ないんだけどなあ。
とりあえず怒られなかったのでほっとする。
酒場にいるベリアの背嚢から別のお土産を持ってタンビを探す。
露天広場の一角にあるごみ集積場で彼女をみつけた。
だがタンビだけではなく、ガラの悪い成猫がたむろしていた。
『その魚の骨を置いていけ。
しっぽなしが持っていっていいもんじゃないぞ』
『やだ。えさ、取る場所、ナワバリない、きまり』
『なんだとこいつ! 生意気だ!』
『やっちまおうぜ!』
「フギャーオ!」「シャー!!」
囲まれ、鼠をいたぶるように爪で追い立てられる。
タンビは仕方なく応戦するが一方的に嬲られるばかり。
元より成猫と仔猫では勝負になるものではないが、獲物を咥えたままでは牙すらも封じられる。
僕は建物の壁へ飛びつき壁キックで一猫へ襲いかかった。
全くの死角から不意打ちした猫へ爪傷を与え、改めて戦闘態勢を取る。
『いい成猫が三猫がかりで横取りかい?
街の外にはご馳走がいっぱいあるよ、狩ってきたらいいだろ。
猫同士の戦いがお望みなら僕が相手になるけど』
足元には咥えていたお土産の兎がある。
僕が街の外で狩りをするハンターであることの証明だ。
三対二で数の優位があるのに、しっぽを巻いて逃げていった。
『これ遠くまでいってたお土産、食べて。
鼠とトカゲもあるよ』
『え? いい、の? じゃあ、魚の骨、あげる』
見ればさいしょは痩せ細っていたのがだいぶマシになっている。
仔猫の体で大きな蛇をたっぷり食べたからだろう。
問題は引っかき傷が増えていることだ。
やはりしっぽの件で迫害されているのかな。
タンビに招待されて棲家に案内される。
そこはヒトの住んでいない草ぼうぼうの更地だった。
防壁の内側なのに地面が抉れていて壊れた廃屋がある。
軒下がタンビの家だ。
『ママ、ただい、ま』
『おかえりなさい、あらこちらは?』
『おじゃまします、僕は最近まちにきた たま といいます』
『あらあら! まあまあ! タンビが男連れてくるなんて珍しい』
『ママ、これ、たま さんから、食べていいって、もらった』
『え!? ありがとうございます!』
お土産や魚の骨を食べながら話しを聞く。
廃屋には他にも猫たちがいて、いつも食料が不足してるらしい。
この辺りの雑草や小虫は口にはできるが、栄養は殆ど無い。
白蛇のでかいやつを2~3匹定期的に狩れば飢えを凌ぐ事はできるだろうけど根本的な解決にはならないよね。
『うーん、ならここにいる猫たちで狩り訓練をしようか』
『狩り訓練? 狩りっていったって獲物はどうするの?』
『壁の外にはいっぱい獲物がいるよ、狩り放題さ』
『かべの、そと? あぶなく、ない、の?』
『もちろん危なさはあるとおもう。
けど食べ物不足で弱って飢えじにや病気になるよりいいさ』
『そうだねえ、ナワバリ争いせず自分たちの獲物を狩る。
血がさわぐねえ』
『たま さん、に、めいわく、かけたく、ないし、さんせい』
『おまえもやるのかい? まあ育ち盛りだしなんとかなるか。
狩り出来そうな成猫に声かけてみるよ』
『お願い、します』
狩りの呼びかけに集まったのは、6匹。
みんなガリガリに痩せた猫で狩りの経験は鼠止まり。
とはいえ、自分たちの獲物を狩りでかせぐ。
集団の嫌がらせなく骨の一本残さず自分たちの物になるんだ。
『よーし! みんなお腹いっぱい食べたいかー!!』
「ナーォ」「ミャー!」「ニャ!」
こうして僕たちのハンティングが始まった。




