おまけ:はじめてのおっさん
おまけでおっさんの話を追加します。くだらないので、ご注意を。
役立たずはいらないと、置いていかれたのは森の中。
もちろん自前の装備さえも奪われ、渡されたのは今にも壊れそうな錆びた剣。
茫然と立ち尽くす。
「嫌になるわー。今の若い子はどんな教育しているのよ」
おっさん、グレンハーツというなんとなくかっこいい名前のわたしはそうぼやいた。おっさん人気だよね、とは思っていたけどまさかおっさんに転生? 憑依? するなんて思っていなかった。
しかもかっこいい系のおっさんではなくて、ハードモードになりがちな追放系だ。いや寝取られ系ではなかっただけましなのか。
今回も神にも天使にも会わなかったから、きっと何かわたしの体に異常があるのあろう。もしかしたら、夢の中なのかもしれない。
夢なら、もっと煌びやかな王子さまとか出てきちゃいそうな……レスターの顔を思い出した。彼との結婚生活はラブラブでとっても良かった。思い出せば思わず口元が緩む。
「おい、グレンハーツ大丈夫か!」
「ううん?」
突然名前を呼ばれて、我に返る。顔上げれば、全身毛むくじゃらなのかというくらいぼうぼうに髭と髪を伸ばし放題になったむさくるしいおっさんがいた。グレンハーツの記憶がこのむさくるしいおっさんが長年の知り合いでダンロンだと教えてくれる。知り合いだとわかり、無意識に入っていた力を抜く。
「あら、ごきげんよう」
にこりと笑って思わず挨拶する。
「おおう? お前、大丈夫か? 変なもの、食ったのか?」
おっさんの反応がおかしくて思わず首を傾げた。その仕草で自分の腕が目に入る。
ああ、そうだった。わたしはいまおっさんだった。レスターを思っていたせいか、バネッサに気持ちが持っていかれていた。
おっさんがごきげんようなんて気持ちの悪い。いけないいけない。今わたしは追放系おっさんなのだ。ここはしょげて腐って見せなければ……。
「大丈夫だ。ちょっと衝撃すぎて……」
「ああ。あのクソ勇者ども。とうとうやりやがったな」
「それにしても来るのが早くないか?」
わたしがダンロンに言えば、彼は豪快に笑った。
「何言っていやがる。お前、伝達魔法でギルドに中継していたじゃないか」
「お、そうだった」
そうだ、思い出した。このグレンハーツ、見た目はおっさんでうだつが上がらない感じであるが、実は魔法が大の得意だ。しかも変なことばかり特化していて、色々と便利魔法を作っている。
「俺は儲かったぜ。ありがとよ、友よ」
「今回の勇者はなかなか猫かぶりだったからな」
どうやら勇者がわたしを追放しない方が人気があったようだ。ダンロンは追放される方に賭けたようでかなり儲かっただろう。
「お前の馬も森の入り口に連れてきている。帰るぞ」
わたしは頷くと、森の外へと向かった。
******
ホームグラウンドのギルドにつくと、野太い声で歓声が上がった。どうやら賭けはかなりの盛り上がりを見せたようだ。
その中心で金勘定をしているギルド長を見つけ、軽く手をあげる。ギルド長は線の細い優男で、気弱そうに見えるがあれは見えるだけだ。鬼畜仕様と言ってもいいぐらいのお人である。逆らってはいけないと、グレンハーツの記憶が教えてくれた。
「無事で何よりです」
「いつもの配分でよろしく」
「わかっておりますよ。それにしてもクソ勇者たちはこちらで処分を決定しますが、希望はありますか?」
希望と言われて肩をすくめた。
「しばらく傷心のため休暇を取る」
「がはははは! お前、ただ単に働きたくないだけだろうが!」
ばんばんとダンロンよりも一回り大きいおっさんがわたしの肩を遠慮なく叩いた。くそ痛いな、と思いつつもニヤリと笑って見せる。
「金もできたんだ。ギルドの資格維持のためのノルマも果たしたし、しばらくはいいだろう?」
賑やかに会話しながら、ぼりぼりと無意識に体を掻いた。一か所が痒くなってくると全身痒い気がしてくる。くんと自分のシャツのニオイを嗅げばツンとするおっさん特有のニオイ。その悪臭に気が遠くなった。どれだけ風呂に入っていないのよ。せめて浄化くらいしておいてほしかった。
「風呂に入りたい」
「ああん? お前、浄化の魔法、使わなかったのかよ」
「俺が魔法を使えると知らなかったようだからな。使わずにいたら、どんどん汚れた。勇者についている魔法使いが俺に使ってくれなかった」
早めにぼろを出してほしくて最小限の仕事しかしなかったのは事実だ。元々、子供のお守りなんだ。何でもかんでも手伝ってしまっては成長しない。OJTだ、OJT。オン・ザ・ジョブ・トレーニング、つまり現任訓練。
それのいきつく先が追放とか、マジありえない。休職扱いになっている職場を思い出し、新人君と勇者たちを重ね合わせるとそっくりだ。あれは絶対に伸びないタイプだ。
「風呂を使う前にきちんと体を浄化してから使ってくださいね」
ギルドの受付のお姉さんが睨みつけるようにして告げた。わたしはわかっていると肩をすくめると、ギルド内にある風呂場へと向かった。
******
覚悟をしていた。
わたしは普通にOLだった。彼氏もいて結婚した。転生もどきを経験した時も、女性でしかも高貴な家柄だった。当然、あるわけがない。ただ、別に処女じゃないし相手の体だってばっちり見ている。だから耐性はあるはずだった。
何度か息を整えて、思い切って視線を下に向けた。
覚悟して自分の裸を見下ろす。吐き気がした。
魔王がいるような世界の冒険者。
幼い頃に両親を亡くし、30年近く冒険者をしていれば、体に傷はあるだろう。それなりに鍛えているのだから筋肉もムキムキなのは理解している。
許せないのは、全身のムダ毛だ。腕も足も指も毛が存在を主張して渦巻いている。
ありえない。ギャランドゥを超えるなんて、マジであり得ない。これはモフモフを目指しているとしか思えない。
しかも何度浄化をかけても体臭がキツイ。肉系ばかりを食べていて、野菜を取っていないと見た。
何かいい方法はないかと腕を組んで思案する。
「脱臭と脱毛だわ」
ふと、思い出したのはニオイの元を取る石鹸の存在と全身脱毛に通ったエステだ。幸い、グレンハーツは魔力が多く、細やかな魔法が得意だ。レーザーを想像しておけば、いけるかもしれない。
心を落ち着かせ、何度か息を整えた。初めての魔法だ。使い方はわかっていても緊張する。両手をぐっと握りしめて、呪文を呟いた。
「脱臭&脱毛100%」
ふわりと少し焼ける熱さを感じた後、すっと体が冷えた。エステそのものだ。目を開けて両腕を見れば綺麗に毛がなくなっている。
確認するように手のひらで腕の肌をさする。おっさんの割にはつるんとした肌をしていた。残念なのは傷痕ぐらいだろうか。まあ、40代のおっさんなのだ。これぐらいは愛嬌だ。
よかった。グレンハーツは超チートだ。
チートに超をつける意味も分からないが、つけたくなるくらい俺Tueeeだ。魔法に関してはきっとこの世界でも片手に入るのではないだろうか。チートがあることがわかって機嫌よく鼻歌を歌いながら風呂に入っていった。
わたしは理解していなかった。
この世界のおっさんについて……。
わたしはわかったつもりであった。
おっさんになるということがどういう事なのか……。
「は?」
風呂を使い終わって機嫌よくギルド酒場に行けば、しんと静まり返った。皆食い入るようにわたしを見つめてくる。あまり見つめられると照れる。止めてほしいと切実に思うが、誰も彼も唖然とした顔をしていた。
「グレンハーツ……ツルツルだな」
「少しは清潔感を出そうと思って。頭までやっちゃったから、ヘンかしら?」
うーんといつもの調子で手を頬にあて首を傾げた。
初めて使ったので、眉も髪の毛もなくしてしまったのだ。筋肉だるまのおっさんだ。強面になるからこれぐらい、大丈夫だろう。
「呪いだ……」
誰かの声が聞こえた。
「魔王の呪いだ!」
「そうだ、魔王の呪いだ!」
一人が騒げばすぐにでも動揺が伝播する。今度はわたしの方が驚いてのけ反った。
「えええ?」
「グレンハーツ、気を確かに持て! 気持ち悪いと思うのは一時だ。慣れればきっと今までと同じに接することができる」
「ブツは、ブツはついたままか!」
わしゃっと股間を握られ、きゅううとなる。思わずおっさんの手を拒絶するように内股になった。
「いやん」
「あるが……あることはある! 気持ちが悪いのはその女言葉とツルツルの肌だ」
あ。
言われてようやく気が付いた。おっさんなのだ。今のわたしは。頬に手を当てて首も傾げてはいけないし、いやんなんて言っては駄目だった。
でも、まあ。
幸いなことに今なら魔王に理由をなすりつけられる。
「これが魔王の呪いなのか」
「恐ろしいな、魔王」
「本当だ。俺は絶対に魔王討伐など行かないぞ」
「敵地にまで行ったらブツまで取られるかもしれない」
ぶつぶつと小さな声で恐ろしさを語り合うおっさん冒険者たち。
否定することも可能だけど、面倒なのでやめた。
すべては魔王が悪いのだ。
まあ、そういう事にしておこう。
わたしのおっさん人生はこうして幕を開けた。
Fin.
これで本当に完結です。お疲れさまでした。
といいつつ、続編を書いています。おっさん無双予定です。
もしよかったら、どうぞ。




