エルメス 王宮の一室1(ソーラ)
「だ、だからごめんなさい……」
どうやら結構長い間気絶していたらしく、エルメスに戻った途端、エティエンヌとシャルルからえらくソーラは叱られた。
「どっか行きたいとこあるんやったらあるで、ちゃんと言うてんか」
珍しくシャルルも険しい顔だ。
「ナイトとエルデが帰ってくるまでに、もしあんたにもしもの事があったらあいつらに顔向けできひんわ」
「おい、固有名詞が間違っている。婚約者の余に、だろ?」
「いつまで勘違いしてんねん。お前のためにソーラを守らなあかん言われなんかない」
「何だと、臣下のくせに!」
「ふん、王様がなんぼのもんや?」
二人の言い争いを聞きながら、ソーラはわずかに哀しくなる。
どうして皆、ソーラを守りたがるのだろう?
ソーラに守って欲しがる人間など、この世に存在しないのかもしれない。
(……でも、ま)
せめて自分は足手まといにだけはなりたくない。
守られるだけの人間にもなりたくない。
ここに残ったのは、それが理由なのだから。
「ねえ、シャルルくん」
「え?」
ほとんどつかみ合い状態の二人はぴたりと争いをやめる。
「なんや?」
「前に約束しただろ? 霧氷斬りを教えてよ」
「あ、まあ、ええけど」
シャルルはエティエンヌの方を向いてにやりと笑う。
「ま、そう言うわけや。今日は俺が姫さん見張ってるから、お前は公務に戻り。それでなくてもこの二日捜索隊指揮して駆け回ってたから、仕事、溜まっとるやろ?」
再度ソーラは頭を下げる。
一人で何かするのはいいが、他の人に迷惑をかけていては何していることかわからない。
「ごめんなさい」
「あ、そういうつもりで言うたんやないねん。兵隊には実地訓練言うてるし、事実そうやったし」
睨み付けているエティエンヌに手を振り、シャルルはソーラをエスコートして外に出る。
「疲れてへんか?」
二人には、マーズの図書館で本を探しているうちに眠くなり、閉館時間を過ぎてしまったあげく、休館日の都合で出られなくなったと言い訳をしている。
「全然」
ソーラたちはそのままシャルルの家に戻り、そこで昼ご飯を食べた後、お互いの技を教え合った。
シャルルは天才剣士と言われるだけあり、こつを掴んだらすぐに小外刈りをマスターする。
「次はお前の番や」
しかし、ソーラは基礎がやっつけのせいか、魔法を剣にこめる訓練だけで五日もかかってしまった。
そして、実際に霧氷斬りをマスターするまで、さらに三日。
「お前、すごいわ」
「全然駄目だよ。力がないからか、君ほど切れ味がシャープじゃないし」
だが、誉め上手なシャルルはソーラの言葉に首を振る。
「そもそも魔法を覚えんのに普通はすんごい時間かかるし、覚えたところで魔法使いは大概が腕ふにゃふにゃで、まともに剣を扱える奴なんておらへん」
「でも……」
「でももくそもあるかい、俺が嘘やおべっか言うように見えるか?」
「……いや」
ソーラが言いかけたそのときだった。
ノックの音がし、そして懐かしい二人が顔を出す。
「ただいま、ソーラ」
「ナイト、エルデっ!」
おかえりというより先に、駆け寄って二人の腕に手をかける。
「無事でよかったよ」
エルデが笑う。
「お前はどうだった?」
「……待ちくたびれた」
ナイトがわずかに眼を細める。
「そうか」
その顔を見ると、どうしてかたまらなくほっとした。
「ちゃんと腕は治った?」
しかし、ソーラがそう言った途端、エルデの顔が曇る。
「……いや」
「え?」
ナイトはエルデを軽く睨み、荷物を床に置いた。
「問題ない、腕はちゃんと治った」
「そうなの?」
「ああ」
エルデが溜息をつく。
「腕は治ったかもしれないが、今度は片目が見えない」
「エルデ」
ナイトがエルデをもう一度睨んだ。
「余計なことを言わなくていい」
「これから一緒に旅をする仲間に、隠し立てをする必要もないだろう」
ナイトは眉をひそめ、何も言わない。
心配なので、状況や容態を聞きたかったが、これでは声もかけづらい。
と、
「まあ、とりあえず、風呂入って食事や。話はそれからでも遅くないやろ?」
ソーラはシャルルの気の配り様に感謝した。




