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エルメス王国  作者: 中島 遼
12/16

マーズ 大学付属図書館(ソーラ)

(……あった)

世界の奇談の五巻を除く一巻から十巻までは古書の間と言われる場所に並べてあった。

ソーラはそれを取り上げ、歴史の授業で覚えた知識と照合しながら五巻の年代を特定する。

それから今度は、その年代以前に作られたと思われる吟遊詩人の詩を片っ端から読み始めた。

しかし、さすがに簡単には見つからない。

二つに分裂したミイラ男の話や、紫竜と黒竜の確執の話など、ついついいらぬ話を読んでしまって、気づけばすぐに夕方になった。

「いけない」

図書館の閉館時刻であることに気づき、ソーラは外に出て、再び魔法でエルメスの首都に帰る。

執事には昼ご飯時には庭で昼寝をしてしまったと言い訳をして夕食を食べて自室に戻り、翌日、再び図書館へ向かった。

そして二週間ほど経った日の夕刻。

(…………?)

特に何と言うこともないある詩のところでソーラは手を止めた。

「友に送る詩」

それは作者が複数の友人に送る数編の詩の内の一篇だったが、話の流れからしてレクイエムだとわかる。

「夜よりも黒く、星よりも輝く瞳に」

最終章、最も親しかった友人に宛てた詩。

(……潔癖にして勇敢なお前。誰よりも強く、誰よりも美しかったお前。そして、誰よりも友人思いだったお前。……俺は知っている、お前の残した数多の屍は、お前の深い愛ゆえのもの。お前の流した数多の血潮は、お前の涙と同じもの)

何故か戦慄が走った。

甦るのはあの焼けた村と、あの男……

(嗚呼、黒き剣よ、高き誇りよ、どうか安らかに地に溶けよ)

「……黒き、剣?」

ソーラは眉をしかめる。

心当たりは一つ。

あの黒髪の男がソーラに向かって振り下ろした剣がそうだ。

(……だけど)

思わず困惑する。

そんなものがどこにあるのかも、そしてどうやったら手にはいるのかも皆目検討がつかない。

それと気になるのは最後の言葉。

(……地に溶けよ?)

天に召されよとか、安らかに眠れとか、他に言いようがあるだろうに。

「……?!」

そう思ったとき、図書館の閉館のチャイムが鳴る。

仕方なしにソーラは書籍を元に戻し、そして移動魔法のために屋根のない場所まで移動する。

何故なら屋根のある場所でそれを唱えると、天井にしこたま頭をぶつけるので……

「ん?」

図書館を一歩出たソーラは、気づけば数人の男に囲まれているのに気がついた。

(……何?)

ぼんやりとそう思った瞬間、男達は異様な踊りを踊る。

その不思議な踊りがマジックポイントを吸い取るものだと気づいたときには、ソーラは地面に押しつけられていた。

「なっ!」

抵抗したが、魔法が使えない状態で数人の男に押さえ込まれていては勝ち目がない。

「やめっ!」

叫んだ口を誰かが押さえ、そのままソーラの意識は遠くなる。

「……上玉だ。ロートフンケ皇子もさぞかしお喜びになることだろう。」

「10万Gも夢じゃないぜ。」

そんな言葉を聞きながら、ソーラは気を失った。

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