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エルメス王国  作者: 中島 遼
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シーガイア2(ナイト)

 かつて海の城と大地の城を結ぶ洞窟で、ナイトは十日間過ごしたことがある。

しかし、この洞窟のモンスターはそんなレベルではなかった。

また、こんなところを酔狂にも通ろうという痴れ者が少ないため、地図はないし、人が通らないために道もない。

エルデとナイトが兎跳びよろしく進まなければならない場所もあれば、ほとんど腰まで水に浸かりながら歩かなければならない場所もある。

「……ふう」

エルデが心底くたびれたような声を出したのは十五日目のことか。

「しばらく休ませてくれ」

仕方なしにナイトはエルデの横に座る。

辺りは完全な闇と言うわけではない。

壁に生えた光るコケが、弱い緑に輝いている。

「あの、やたら人の顔をなめたがるナメクジがかなわん」

タラコ唇の虫型モンスターがエルデは嫌いらしい。

ナイトは荷物から栗を出してエルデに渡す。

「これを食ったら行くぞ」

「え、もう行くのか?」

「ああ」

ナイトが半ば立ち上がりかけるのを、エルデは恨めしそうに見つめる。

「急ぐ理由はなんだ?」

「俺の性格だ」

「……ふうん」

エルデはわずかに笑って立ち上がる。

「正直に言えばいいものを」

「なに?」

「王女を一人きりにする時間は短ければ短いほどいい。そういうことだろ?」

ナイトは歩き始めた。

慌ててエルデが栗の皮を剥きながら横に並ぶ。

「この栗だけではちょっと身がもたんのだが……」

ナイトは肩をすくめた。

「お前の幼なじみの姫君が、手ずから拾った貴重品だぞ」

途端、エルデはしゃんとする。

わかりやすい男だ。

自分にはない素直さが、今は少し羨ましい。

「お前はいいのか?」

「ああ」

返事をしつつ、ナイトはわずかに顔を上げる。

空気の質が変わった。

「出口は近いぞ」

とはいえ、歩いていけば突き当たりだったり、一周回って元の場所だったりで、なかなか出口には行きつかない。

ただ、いつもはやたら元気で、宝箱のコンプリートがどうのとかうるさいエルデが、今回ばかりは最短距離をさぐっているのが救いだ。

エルデは洞窟の長さ、堆積している地質などの情報を元に、出口に最も近づくルートを選びながら進んでいる。

そのためか、本当だったらもっとかかるかもしれない行程が短く済んでいるのだろう。

ひょっとしたらいつもは、スリル大好き、何でも蓋はとらなきゃ気が済まないソーラに調子を合わせているだけなのかもしれない。

「あ!」

エルデが栗を食べてから約半日が経った頃。

ようやく小さな光が前方に見えた。

「出口だっ!」

エルデがひどく嬉しそうな声を出す。

余程疲れていたのだろう。

「トラップはなさそうだな」

洞窟を出ると光が眩しい。

だが、目が慣れた途端に見えた城の荘厳さに、二人はしばしそこにたたずむ。

「これが、紫竜の城」

エルデが感嘆の声を上げるのを聞きながら、ナイトは目の前の大きな門を開ける。

それからさらに気が遠くなるほどの階段を昇り、最上階についた二人の目の前に現れたのは……

「よく来たね」

それは竜ではなく、初老の女だった。

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