芸術家③~異能会~
『唯我独尊』
俺とマスターの二人は猛々しい毛筆で書きこまれている掛け軸を言われるがままに声に出して読んでみせた。
「では次に『唯我独尊』がどういう意味かを言ってみろ。」
俺がここはなんとなく後輩である俺がしゃしゃり出ては失礼かなと思い、先輩であるマスターが答えるのを待ってみた。
一分間程気まずい沈黙が流れた。
そして俺は自分の重大なミスに気がついた。マスターは優等生の典型といってもおかしくないほど理知的でいかにも頭のよさそうな顔立ちをしているが、実際は勉強面での成績は3年生に進級できたことが奇跡といっても過言でないほど学力が残念な方だったのだ。
その事を思い出しちらりとマスターのほうへと視線を向けるとマスターは尋常ではないほどの冷や汗をかいており、俺の視線に気付くとすぐさまアイコンタクトで(ヘルプ ミー!!)の合図を送ってきた。
その合図を受理した俺は素早く
「自分一人が特別だと思う事ひとりよがりな事です。」
「うむ。その通りだ。『唯我独尊』我々が己にかした一つの信念とでも言っていい言葉でもあり、自分のために時には他者を殺す事もあるこの部の活動内容とも言える言葉だ。つまり我々、世界の枠組みから外されてしまったもの達が例え独りよがりの自己満足でも、自らが生きやすい世界を構成するために日々を費やす。それが我が部の活動目標なのだ。そこのところを君達二人はちゃんと理解しているのか?」
「ええ、とりあえずあの非芸術性を目の当たりにしてしまった以上あの少女が俺にとってかなり生きづらい世界を構成している。つまり少女の非芸術性を破壊することが今回の部活の活動目標であるということでよろしいですね芽依先輩」
「いや全然違う。あくまでも我々が対峙するのは我々と同類またはそれに近いものが関わっている問題だ。聞いたところによるとその少女は格好こそ異常ではあるが、邪気などを発してはいないのだろう?だったら我々が率先して関わるべきではないということだ。」
「いや、あの格好は邪気プンプンでしたね。少なくとも今日駅にいた人はあの娘のことを避けて通っていましたし。」
「いや、それは単純にその子の格好があまりにもアレだったから、みんな不審者だと思っただけだろう」
「なに言ってるんですか芽衣先輩。俺なんか普通の学生服着て歩いてるのに普段から周りの人に避けられますよ。それはきっと周りの人たちがうすうす俺の放つ常人とは違った空気を感じ取っているからですよ。つまり俺と同じ扱いを受けているあの子もきっと俺たちに近い人間ってことです。」
「いや君は単純に普段から不審者だと思われているだけだ。」
「じゃあもうわかりました。つまり、あの少女が俺達が動くに値するべきだったらあの非芸術性を駆逐するのに皆さんの協力を得られるということですね。」
「いやいやそういう事ではなくてだな。私は部の活動に沿った内容の事をしてほしいというわけで」
芽依先輩がおろおろと言葉を紡いでいると
「安心しろマスターたる俺は美少女のために一肌脱いでやる。いやむしろ最終的には一肌どころか全裸になりたい。」
「あははは~なんか面白そうだから私も協力してあげるよ~」
「えっ、朱音ちゃんあんな奴にいちいちかまってたらキリがないよ。」
「じゃあ、葵君は今回一緒にいかないのぉ?」
「あっ、その朱音ちゃんが行くならそりゃ妹の頼みだし手伝うけど・・」
「ちょっと待て君達、ああもうわかった。今回だけ特別だからな。」
そこで部長が苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を見せながら高々と宣言した。
「今回の我々、異能者による異能者のための世界改変を目指す同好会、通称『異能会』の今回の活動はレインコート女の謎の解明とすることにした。何か意見のあるものはいるか?」
「あはは~意義なーし。」
「意義はたくさんあるけど朱音ちゃんに付き合います。」
「美少女のためだ。この禍津日神、気合を入れて美少女の謎を解明する。」
「もちろん。芸術的に賛成です。」
「ではこれより今後の計画を立て、明朝より活動を開始する。」
部長の風鈴のような澄み渡る声色が部室に響き俺ら『異能会』の面々は
『はい!』
声を揃えて短くそして力強く明日への意気込みを込めて返事をした。