プロローグ(終わりの始まり)
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それは日本で言う、いわゆる夏の終わりの出来事だった。大気圏外から届いた月面基地壊滅の報せは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
月資源の採集、及び怪獣ホール(内部から怪獣を出現させる異次元ワームホール)の監視を行うために建設された月面基地インブリウムは、突如襲来した未知の怪獣から攻撃を受けた。
基地内の防衛組織だけでは事態を収めることができず、特殊生物対策機関ゴオレムは直ちに宇宙戦闘機部隊ウルトラスケルトンを出動させた。各国から主力級の部隊が駆けつけ、なんとか怪獣を倒すことに成功した。
しかし、事件はそれで終わらなかった。
安堵する暇もなく、新たに三体の怪獣が出現したのだ。いずれも高い攻撃力と移動速度を持ち、ゴオレム部隊は苦戦を強いられた。その後も次々と別の怪獣が現れ、ウルトラスケルトン部隊にも大きな被害が出た。
戦局は泥沼と化しつつあったが、急遽、試作段階の次世代モデル部隊を投入するという苦肉の策で辛くも勝利を収めた。
事態が収束すると、すぐに原因の究明が求められた。なぜ、これほど短時間に総数三十体もの怪獣が現れたのか。そして、彼らはどこからやってきたのか。その答えは、地球に帰還するウルトラスケルトン部隊からの不可解な通信によって明らかになった。
彼らは暗く冷たい宙空に異様な形をした物体が浮かんでいるのを目撃したという。それは国際宇宙ステーションを遥かに上回る大きさで、怪光を放ちながら地球の真上を漂っていた。
それは全体的に壺のような形をしているが、まるで生物の骸や破壊された機械の残骸が絡まり合い、めちゃくちゃに溶け合ったような複雑な構造をしていたという。有機物とも無機物ともつかない、猥雑で終末的な雰囲気をまとい、それはある種堂々たる存在感とともに地球を見下ろしていた。
宇宙空間に突如として現れた謎の物体。それは後に「怪獣帝星」と呼ばれることとなった。
「怪獣帝星」はまばゆい怪光とともに怪獣ホールを出現させ、異次元の怪獣たちをこの世界に送り込む。かつてない周期で現れる怪獣たち……そして、頭上に君臨し続ける災厄の星。
ゴオレムは何度となくその破壊を試みたが、表面をわずかに損壊させることしかできなかった。
月面という、怪獣の魔手が届かない未開の地への進出を成し遂げた人類は、怪獣帝星の出現によって再び怪獣の脅威にさらされることとなったのである。
物語はここから始まる。
これは怪獣帝星がもたらす終末の未来を回避するべく戦う若者たちの物語である。