【088話】ユキの修行
*****魔王城 魔王の部屋*****
それぞれの転生者と担当の総司令官が修行へと出発する前日、魔王の部屋に総司令官2名が訪れていた。
ディオとカオスの2名だった。
「魔王閣下、各転生者様に付けられたました総司令官についてですが、本当によろしいのでしょうか?」
カオスは各転生者に振り分けられた総司令官に若干違和感があった。ディオも同じ考えだった。
「ふふふ、お前達だからこそ解る。と言いたいのだろうが、それも織り込み済みだ。」
現在魔王ミサの姿である魔王がそう答える。
「と、おっしゃられますと?」
「マキにはお前達以外に誰を付けるのだ?あの雷竜を簡単に倒してしまうんだぞ。それくらい解らんのか!」
つまりは、雷竜をも倒す相手の担当が、総司令官ごときでは務まらんと言いたかったのだ。だがそれはカオスやディオも当然解っていた。
「い、いえ、マキ様に関しましては、私達しか担当はできないと承知しておりますが。問題は。」
「わかっておるわ!ユキに付けたガイにリードは若さゆえに、ユキを舐めてかかるだろう。それにメアリーに付けたリリイとミリアだが、ミリアの上下関係に対する厳しさは承知の上だ、さらにミカにつけたあの2人は犬猿の中だからな面白いだろ」
「ご存じでしたのであれば何故。」
「ユキにはもっとしっかりしてほしい事と、メアリーがどう振舞うかと、ミカがあの2人に挟まれどう対処するかということだ。」
魔王はそれぞれの短所を治すのも修行のうちだと告げる。
「では、すべてご存知でおありになった上でのあの振り分けと、言うことだったのですか。申し訳ございませんでした。」
魔王ミサの考えが自分達には到底及ばないと反省する2人。
「それに、貴様ら2人をマキ以外につけると甘やかすからな。マキにしぼられるがよいわ。はっはっはっはっは。」
カオスとディオはマキの修行でどれほど恐ろしい目に遭わされるのだろうと心配になってきた。
「しかし、やつらとて魔界の総司令官。隙あらば転生者様になにかあってはと思いまして…。」
カオスはユキが一番心配であった。頼りなさそうなユキに野心に燃える若い2人がどういう行動にでるのか不安だった。
「甘い!そこがおぬしの甘いところだ!あの程度でどうにかなってしまう妹達なら、とうの昔に死んでおるわ!」
「はっ!も、申し訳ございませんでした魔王閣下!」
散々怒鳴り散らされ怒られ、しょげる2人の総司令官。
「まあ、貴様らのような奴が魔界にいることは、わたしとしても嬉しい限りだ。これからも魔界の為に頼んだぞ」
見事ににアメとムチを使い分け、総司令官の2人をやる気にさせたミサ。総司令官カオスとディオは、嬉しそうな表情で魔王の部屋を後にした。
*****ガイの領土*****
○氷神ユキ 高校2年生年齢16歳
人間界では黄色のツインテールで身長145センチしかも超がつくほどの美少女、大きな特徴は自分の親しい人以外と話す時の話し方が変わるところである。
○女王ユウキ 推定年齢800歳?
元の異世界では氷の世界の女王として君臨し、その容姿は透き通るような水色の長い髪に真っ白な透き通る肌しかもかなりの美女で身長は165センチと長身に変化する。
大きな特徴は冷酷冷血ともいわれる決断力であり冷めた話し方は常時変わらない。
ユキはガイの領土で半年間、リードの領土で半年間の計1年間を過ごすことになった。先ずはガイの領土での修行が始まった。
ユキは魔王を除く4人の中で一番能力が劣っていると感じていた。
特にマキにはかなりの差をつけられているのは分かっていた。なのでやる気はかなりあった。
(この修業で、マキねえさんを超えてやるんだもん。)
そしてガイの領土である水上都市に案内された。
「ユキ様、この領土がわたくしガイの統治する領土でございます。この領土はほとんどが湖、池、川で覆われ、水上都市が数多く存在しております。」
「うわぁぁぁ!すっごいきれいぃ」
大きな噴水やガラス張りのビルの窓は水槽になっており、魚が泳いでいる。まるで夢の世界のような光景が目の前にあり、ユキは興奮していた。
「喜んでいただけて光栄です。」
イケメンのガイが跪きそう言う。
(いちいちこんな風景ごときではしゃぎやがってバカが。)内心はそう思っていたのである。
総司令官2名の訪問ということもあり、各都市の将軍、大将軍、副司令官全てが集まっていた。そしてすべての魔族が跪き、総司令官を迎える。
(私達がミサキ姉様と来たときと同じような光景だわ。みんな跪いてる。)すごいと思っているが、魔族が跪く姿を見るのはあまりいい印象ではない気がしていた。
「ユキ様、修行の地へと移動する前に食事などはいかがでしょうか?」
「うわぁい、ごちそぅごちそぅ」
(なんで俺がこんなガキの子守しなきゃならねえんだ。)嬉しそうにはしゃぐユキを見て表情には出さないがガイそう思っていた。
ガイが都市最高の料理店へ案内する。
そして店の最高級の部屋に通され椅子に座る。
(すごい部屋だ。どんな料理が出てくるのかな)
わくわくしながら待っていると出された料理は煮えたぎった鍋に入った海鮮料理だった。
グロテスクな形をした魚のような魔物だった。
(まあ、見た目は悪いけど、せっかく私のために用意していただいたんだし。でも熱い食べ物は苦手なのよね。)
「おいしそぅ、いただきますぅ」
鍋が煮だったままなので、冷めるのを待つこともできず、皿に取り一つ一つ冷ましながら食べるユキ。
能力を使って凍らせればいいのだが、せっかくの料理に対して失礼にあたると思って、ふぅふぅと息を吹きかけ冷まして食べる。
この料理はガイが用意させた嫌がらせである。ユキが熱さに弱いのを知っていたので、特別に作らせたのであった。
(ざまあみろバカが、見てるだけですっきりするぜ)
ガイとリードはお互い目を合わせ馬鹿にしたような眼差しでユキを見ていた。
あまりにも食べにくそうにしているユキを見かねた近くにいた料理を担当したものがユキに声をかける。
「申し訳ございません、熱い食べ物が苦手でございましたでしょうか」
ユキを気遣って声をかけた瞬間、ガイとリードの表情が恐ろしく変化していく。
「貴様、誰の許しを得て発言しておる。」
リードは近くで跪く大将軍に目で合図をした。
大将軍はすぐさま料理担当者を消滅させた。
「な、なんで、そんなことをするのですか?」
突然の出来事に驚いたユキはリードに尋ねる。
「ユキ様、魔界では当然の行いです。異世界からこられたあなたでは理解できなこともあるかと思いますが、ここはあくまで魔界ですので。」
「そ、そうでした、ごめんなさい。」
(でもいくら魔界でもいきなり消してしまうなんて。。)
そして食事もあまりすすまないので、とりあえずこの場から出たかったユキは、修行の地へ案内してもらうこととなった。
「あの、もう食事はいいのでそろそろ修業の地へと案内していただいてもよろしいでしょうか?」
先程の出来事でショックを受けたユキは本来の話し方から普通の話し方へと変わってしまっていた。
「わかりました、ではさっそくご案内いたしましょう。」
そう告げたガイはユキを最初の修業の地へ案内する為にリードとそして何故か将軍2名も引き連れ瞬間移動した。
「ユキ様、ここが最初の地でございます」
案内された場所は、見た目は普通の池に見える。
いや、どうみてもただの池にしか見えなかった。
「あ、あの…ここで何をすれば。」
「そこにある池を凍らせてみてください」
ガイが変なことを平然と言う。しかもリードもついてきた将軍2名もにやにやしながらユキを見ていた。
(凍らせろって言うなら、凍らせるけど、こんな池凍らせて意味があるのかな)
「じゃあ、凍らせますね。」
ユキは冷気を解き放った。
「あれ?なんで…」
しかし、池は凍らない。池の周りは白くなっているので、たしかに冷気は放たれている。
「ユキ様、凍っておりませんが。どうなさいました」
馬鹿にするような目でそう言うガイ、リードも将軍も笑っていた。
そう、実はこの池は決して凍らない水、つまり不凍液でできており、いくらユキがどれほどの能力の持ち主だろうと凍らすことは不可能だと思い連れてきたのだった。
「まさか凍らせないとかではありませんよね?それでは修行にもなりませんよ」
笑みを浮かべ調子に乗るガイ、リードも不敵な笑みを浮かべている。
だがさすがにユキも頭にきたようだ。
ユキは姿を元に戻す。身長が伸び髪が水のように透明になり、肌は白くかがやき眼差しは冷たく鋭く表情も冷酷になった。
2人の司令官と2人の将軍は背筋が凍った感覚になった。先程まで普通の女の子だったはずの姿は無く、異様なまでの能力まで感じ取れる。
「私の修行の為、このような場所へお招きいただきありがとうございます」
話し方まで別人になったユウキ、話す視線の先にはガイがいる、目が合ったガイはその冷たい眼差しに恐怖を感じた。
そしてユウキは池へと近づき、そのまま池の上を歩く。
足元は凍りつき、そして一瞬で池は凍りついた。
「バ、バカな。。あの池が凍るなんて…」
驚くガイとリード。
凍らせた池の上にいたユキはゆっくりとガイとリードがいる場所に近づいてくる。
その表情は冷酷でいまにも2人を殺してしまいそうな表情にも見える。
ガイとリードは魔界では魔王以来の恐怖に陥る。
(こ、このままでは殺られる。に、逃げないと。)あまりにもの恐怖にこの場から早く逃げなくてはと思う2人だったが。
「か、体が動かない。」
元の姿に戻したユウキの冷気により池はおろか周辺は全て凍りつきガイとリードの首から下はすでに凍っていた。さらに将軍に至っては完全に凍りついていたのだ。
(ま、まさかこれほどの能力を持っていたとは。我々は愚かだった。)
すでに死を覚悟し諦めかけたガイ、だがユウキにはそんな気はさらさらなく普通に声をかけてきた。
「あの池は不凍液かなにかですか?」
動けない2人に冷めた眼差しで問いかけるユウキ。
ユウキ自身は普通に話しかけているつもりなのだが、話しかけられた相手にとっては違うらしい。
2人はそう問いかけるユウキを見た冷酷な表情、ユウキ全体から出てくる冷気、全てにおいて自分達と比べ物にならないと悟る。
ガイとリードはなんとか魔力を振り絞り凍った体を元の状態に戻す。
そしてすぐに跪き先ほどまでの非礼を詫びた。
「も、申し訳ございませんユウキ様。我々が先ほどまでにユウキ様に対して行ったご無礼の数々、どうかお許しを!」
「なぜ謝るのか解りませんが、頭をお上げくださいませガイ様、リード様、次の地への案内をお願いいたします。」
ユウキは先程のまでの事など気にもしていなかった。
魔界である以上異世界からきた自分がとやかく言う権利はないのだから、だが自分の能力を否定されるのは気に入らなかったらしい。
ガイとリードは自分達とは次元が違うことを思い知らされ、この日以降、ユウキを心底慕うようになっていった。
そしてガイの案内の元、ユウキは各地へ修行へと向かった。




