【079話】宮殿陥落
魔界にできた天界の門が突然と消えたのは、ミカエルが魔界にきている数時間の間に天界で起こった出来事が原因だった。
*****数時間前の天界*****
キーズとハデスの天使2名はミカエルに人間界での偵察の報告を終えた後、それぞれが共に仕える大天使の宮殿へ向かった。
その頃がミカエルがちょうど魔界へと出発した頃である。
キーズは大天使アリエルに仕える天使であり、アリエル宮殿に戻ると宮殿内にいる天使から声をかけられる。
「よおキーズ、どうだった人間界は?」
「時間が止まっているだけで、異世界からの干渉でも侵略でもなさそうだった、ただ原因は不明のままだ。」
「そうか原因不明か、でもお疲れだったな。まあゆっくり休めよ。」
「あ、ああ。うっ…」
「お、おいキーズ!どうした?」
「い、いやすこし気分が…」
キーズは宮殿に着いて言葉を交わした直後、姿に変化が現れる。
「お、おいキーズ。な、なんだその手の色は!?」
(何言ってるんだこいつ、手がなんだっていうんだ。)そう思い、何のことかさっぱりわからないがふと手に目を向けた。
「うわぁぁぁぁ!な、なんだこの色は!」
自分の手を見ると明らかに黒っぽく変色していることに驚き叫びだした。
そして次第に足や首、顔、さらに羽までもが真っ黒に変化していく。
「あああああぁぁぁたすけてくれぇぇぇぇ!」
キーズはもはや半狂乱になり叫びまくっている
「キーズ!人間界でなにかあったのか!とにかく落ち着くんだ」
同僚の天使は落ち着かせようと必死になってキーズに呼びかける。
だが、キーズは全身が黒く染まり、目は赤くなり叫ぶことはしなくなったが、誰がどう見てもそこに天使の姿はなかった。
(こ、この姿はまさか。。)
騒ぎを聞いて数名の天使、それに下級天使達が駆けつける。
「なんの騒ぎだ。」
「なんの騒ぎだ?」
そのキーズの姿を見た瞬間、誰もが一つの考えにたどり着いた。
「あ、悪魔だ!」
「ああ…間違いない。あれは悪魔だ」
「なぜ悪魔がここに。」
宮殿内にいる天使達は誰一人として悪魔を見た事がなかったにも関わらず全員が同じ意見を口に出す。
「みんな落ち着け!悪魔ではない!これはキーズだ!誰かアリエル様に報告を!」
「なんだと、どういうことだ?」
「今説明をしている場合ではない、とにかくアリエル様に報告してくれ!」
後ろにいるキーズをかばうかのように、同僚の天使はキーズの前に立ちふさがる。
「わかったすぐに報告してくる。」
返事をした天使は宮殿内の奥にいるアリエルの元へ慌てて向かう、他の天使や下級天使、さらに集まってきた天使達はその様子をじっと見つめていた。
「キーズ安心しろ、きっとアリエル様がなんとかしてくださる。」
キーズにそう声をかけるが返事がない。
「ん?キーズどうした。」
返事がない為、振り返るとキーズは赤い目で睨みつけ唸りながら襲いかかってきた。
「お、おい。キ、キーズうわああああああ。」
『ぐちゃ。バキバキ。』
何かが潰れ、何かが折れる音が宮殿内に鳴り響く。
同僚の天使を一瞬で葬り去り、さらに手や足を引き千切って食べていた。すでにその姿は体格も変化し、天使の面影は微塵もなくなっていた。
「きゃああああああああああ」
「うわああああ、悪魔だあああ!」
あまりにもの出来事で、宮殿内がパニックになった。
「落ち着け、アリアル様がこられる前に我々でなんと食い止めるんだ!」
下級天使が悲鳴を上げ叫ぶ中、天使数名は落ち着くように促し、武器を手にし目の前にいる敵をなんとかしようと立ち向かう。
その姿を見た下級天使達もこれだけの天使の数で立ち向かえば問題ないと判断し、落ち着きを取り戻す。だがそれもつかの間の出来事にすぎなかった。
『グルルル…ググ…。』
唸り声を上げると自分の周りを取り囲む天使達を赤い目で見つめ、そしてとんでもない速度で襲いかかってきた。
下級天使達は一瞬にして爪のような鋭利な刃物で斬り裂かれいく。真っ黒になった大きな体格、さらに長く刃物のような爪、狂気に満ち溢れた赤い目、まさに悪魔そのものだった。
(こ、これが悪魔の力なのか…)
先程まで冷静だった天使までも、その殺傷能力の凄さに言葉を失う。
まず身体能力の違い、骨格や体格、さらに感情というものがないので、手加減は一切してこない、全て全力で斬りかかりトドメを刺す。
「キャアアアアァァァァァァァ!」
「うおぉぉ…」
「だれかぁぁぁぁ、たすけてぇぇぇぇ!」
再び宮殿内はパニック状態になる。大半の天使はこの一方的な殺戮に恐れをなして逃げ惑う、しかしそれが悪魔の餌食になり果てるだけであった。
悲鳴や切り裂く音が再び鳴り響いた為、宮殿外にいた下級天使や天使達までもが次々その場所へ集まってきた。
現在天界には天使と下級天使しかおらず、上級天使はいない。全員が任務の為、天界から出払っており異世界への偵察に行っている為である。
「何事だ!何が起こっている!」
「なんで悪魔が天界に。」
宮殿外から様子を見に来た天使達も、悪魔の一方的な殺戮風景にもはや動くことすらままならなくなってしまっていた。
悪魔はただひたすら集まった天使を襲い切り裂く、まったく疲れた様子もなくただひたすらに狩りでもしているかのように天使を殺していく。
わずか数分の間に宮殿内にいた天使や下級天使はほとんどが切り裂かれ、その場所は血の海ができあがっていた。
だが、悪魔は容赦なく残った天使に襲いかかる。ちょうどその時、血相を変えたアリエルが奥から出てきた。
「ア、アリエル様!」
「こ、これは一体何事だ!」
(なぜこんなところに悪魔が。)
もはや一刻の猶予もないことを判断し、アリアルは聖剣を取り出し悪魔を真っ二つにしてしまった。
あれだけの殺傷能力を持った悪魔を簡単に倒せるアリエルに天使達は驚き、そして誰もが『助かった』と感じていた。
(なぜキーズが悪魔に。キーズはたしか人間界に偵察にいていたはずなにか人間界であったのかもしれん。だとすると…)
アリエルは人間界に偵察に行っていた天使のハデスと100人の下級天使の所在をとキーズ同様悪魔になっていないか至急調べるように告げる。
アリエルの予想は的中した。
ハデスはすでに悪魔と化し、同じように悪魔化した下級天使を従え、なぜかミカエル宮殿に向かっていると報告を受ける。
「わたしはルミエル宮殿に行ってからミカエル宮殿へ向かう、数名の天使はここで負傷者の手当てを、残りの無傷の天使はわたしと共に続くように。」
アリエルは偵察にいったハデスがルミエルに仕える天使だった為、先にルミエル宮殿に行くと伝え無傷の天使数百を連れ宮殿を後にした。
*****ミカエル宮殿*****
アリエルの予想に反し、ハデスはミカエル宮殿を出てから数分後悪魔と化していた。同様に100名の下級天使達も悪魔に姿を変え、ハデスの指示の元、ルミエル宮殿には向かわず再びミカエル宮殿に向かっていた。
キーズと違いハデスは悪魔と化してしまっていても冷静であり、しかもただ単に天使を襲うのではなく、同じく悪魔となった下級天使を伴い襲撃を計画的に行うなど先程の悪魔と化したキーズとは違った悪魔になっていた。
これはハデスが上級天使に近い天使だった為、悪魔と化しても知能はあった為と思われる。
「ミカエルさえいなくなればこの天界は手に入れたも同然」
そう呟くハデス。表情は笑っている。
ハデスはルミエル宮殿を襲わず、大天使長であるミカエルを襲撃する事を選択する。
そしてミカエル宮殿に辿り着き、悪魔と化した下級天使(※以降下級悪魔)に問答無用で天使を襲わせる。
悪魔と100名の下級悪魔に突然襲われたミカエル宮殿内の天使や下級天使達は先程のアリエル宮殿同様にパニックとなり一方的に襲われ宮殿内は血で染まる。
「あとはミカエルだけだな。」
宮殿内にいた全ての天使や下級天使は無残にも斬り裂かれ、それを下級悪魔がむさぼり食らい、もはや宮殿内に残るはミカエルだけだろうと思ったハデスはミカエルの部屋へ向かった。
だがその部屋にはミカエルの姿はなかった。
「ミカエルめどこに逃げた。」
宮殿内にいるはずのミカエルを捜索するがミカエルの姿はなく、ハデスは先ほど切り裂いてきた天使達を見る。
一人はなんとか生きているようだったのでそこに歩み寄った。
「おい、ミカエルはどこだ」
斬り裂かれているが、なんとか虫の息程度に生き残った天使にそう問いかける。
「ミ…カエ…ル…様は…こ、こにはおらぬ。…門を出て、異世界に…調査に…」
「そうか、ミカエルは天界にはおらんのか。ならば都合がいい。」
ハデスは笑みを浮かべ先ほどの瀕死だった天使にとどめを刺した。
そして自らの姿を再び天使の姿に戻し、他の下級悪魔を宮殿内に残したまま宮殿を後にした。下級悪魔達は先程斬り裂いてきた天使や下級天使達を食べている最中だった。
天使の姿となったハデスが向かう先は天界の門である。
(あの門を破壊すれば、ミカエルは帰ってこれまい。)
悪魔の姿では天界の門は見えないため、天使の姿に戻したのである。それに誰も天使の姿をしたハデスを悪魔だと思うものもいない。
天界の門に辿り着いたが、さきほどのアリエル宮殿の騒ぎのせいで誰もいなかった。仮にそこに天使がいたところで悪魔と化したハデスに一方的に襲われるだけなのだが。
(キーズが騒ぎを起こしてくれたおかげで余計な手間が省けたな)
そしてハデスは天界の門を破壊し再びミカエル宮殿に戻って行ったのである。




