【078話】会談
魔王の部屋に2人きりで話し合うミサキとミカエル。しかし今は沈黙が続いていた。
部屋の外では総司令官が待機している。どなり声など聞こえた為全員に緊張感が走っていたが、今は静かなので少し落ち着いている。
静まり返った部屋の外側から賑やかな声が聞こえてくる。
どこかで聞いた事のある声だなとミカエルは思った。
総司令官の待機する反対側の扉からマキとユキが入ってきた。
「ミサキお姉さんただいま戻りましたー。って魔王ミサねえさんに戻ってた。」
「姉様帰ってきましたよ」
その後ろからミカとメアリーも入ってきた。
ちょうど入り口からでは後ろ姿しか見えなかったが、ミカエルが振り返るとメアリーを除いた3人は驚いた。
「あらお客様でしたか、失礼いたしました。」
メアリーは天使であるミカが普通に魔界にいるので、同じく天使であるミカエルを見ても天界からのお客様だと思っていた。
「ほんとだぁ、ミカエルさまだぁ。」
「あれ、ミカエル様がなぜ魔界に?どうされたのですか?」
「お、お父様!なぜ魔界に?」
「あ、あの。お父様と言われましてもお会いするのは今日初めてなのだが。。」
ミカは現在女子高生の姿、なのでミカエルは娘でもない女子高生にお父様と呼ばれる意味が分からなかった。
「ミカエル様、ご自分の娘であるミカさんですよ。今は人間界の姿なんです。」
「お父様、自分の娘も解らないなんてひどいです。もう知りません。」
ミカがスネたフリをした。
「いや、すまんすまん。背も髪型も変わってしまうとさすがにわからんぞ。」
「で、ミサお姉様とお父様と何かお話し中でしたか?私達は席を外しましょうか?」
ミカは邪魔したら悪いので、マキ達と部屋から出て行こうとした。
ミカ達が戻ってきた為ミサは姿を女子高生に戻した。
「いや、ミカちゃん達もこっちきて座って」
ミサキが全員一緒に話をしようと呼びかけ、ミカエル、ミサキ、ミカ、マキ、ユキ、メアリーの6人で話し合う事になった。そしてミカエルが魔界にきた理由を説明する。
「ミカエル様のお立場であれば、やはり人間界の時間を止める事は、よくないことかと思われます。」
マキがミカの立場もあるので、ミカエル寄りの意見を述べる。
「いつぞやの魔女さん、話が解るねそうなんじゃ。我々守護する立場からすれば、あの状態はよくないんじゃ。」
ミカエルは味方が出来たことに喜ぶ。
「マキちゃん、天界のルールは私達には関係ないし、それに時間を止めて何も問題は起こってない。」
ミサキはあくまで、ミカエルの言うことに耳を貸す気はない。
「だが、ミカの父親でもあるから、無視するわけにはいかないでしょ。別の方法があるわけでもないし、困ったわ。」
(ふっふっふ、このワシ自ら来たのもミカの事があるから断れんと踏んでのことじゃ)
ミカエルの表情に少し余裕が見られる。
しかし、ミカがミカエルの余裕の笑みを吹き飛ばすことになる。
「お姉様、何も天界の言うことに従う必要はありません。守護もできない大天使さんはとっとと天界へお戻りください。」
ミカはドアの方に手を差し伸べ、早くお引き取りを。と目が言っている。
「ミカちゃん、ミカエル様にそんな言い方はよくないよ!私はミカエル様のおかげで魔法の世界を救って頂いたんだから!」
流石のマキも先程のミカの言い方に頭にきたようだ。
「そうだそうだ、魔女さんの言う通りだ。いくら先程娘だと分からなかったとはいえ、守護もできないとはどうゆうことだ!」
ミカエルも味方についたマキに便乗して言い放った。
しかし、ミカは冷静だった。ミサキもなんとなく分かっていた。
「お父様、マキさんの世界を滅ぼしたのはどこの異世界の方でした?」
「いや、あ、あのあれは…」
「堕天使を倒したのは誰ですか?」
「そ、それは…。」
ミカエルは何も言えなくなってしまった。
「これわぁ、ミカエルさまの負けですぅ」
軍配はミカにあり、とミカの手を挙げる。
ミカエルも流石にこれ以上は無理だと判断し、わかった。と諦める。
「ミカエルよ、魔界へは後2、3回来ることになると思う、それ以上は時間を止める事はしないので、それで納得してくれんか?」
ミサキもミカエルが気の毒なのと、ミカの父親としての立場も考慮して歩み寄る。
「わかった。ワシの負けじゃ、まあ、今の所何の問題も起きておらんからの、それで納得するしかないわ。お主らには借りがあったしな。」
こうして時間を止めた原因も判り、あと2、3回止めるくらいなら問題もないと判断したミカエルは天界へ戻ることにした。
ミカとマキがミカエルが天界からやってきた入り口まで一緒に見送りに行くと言って3人は魔王城を出た。
「ミカエル様、お一人で天界から魔界へ来るなんて、危険なんじゃないんですか?」
マキがそう尋ねるとミカエルはにっこり微笑む。
「心配してくれのじゃな、いい子じゃ。だがそれは大丈夫、確かに危険ではあるが大勢で魔界に来たらそれこそ大騒ぎになるじゃろ」
「まあ、たしかにそうですけど。ミカちゃんも心配すると思いますから、もっと自重してほしいです。」
「そ、そうか、魔女さんはやさしいのう」
「マキちゃんにまで気を使わせてしまって、ごめんなさいね。」
「ううん、だって大事なミカちゃんのおとうさんなんだもん。」
(この2人は仲がいいようじゃの、魔界の魔王と一緒にいてもこれなら大丈夫じゃろ。)
そんな会話をしながら、天界の門が開かれた場所まできたはずなのに門が見当たらない。
「おかしいのう、この辺りだったはずなんだが…。」
(わしも少しボケてしもうたんじゃろうか、だが確かにこの辺りだったはず)
空に四角い空間があれば少し離れた場所でも確認できるはずなのに、見渡す限りそれらしいものがない。
「お父様、本当にこの辺りなのですか?」
ミカはやれやれといった表情でそう尋ねる。
「ここに到着されてから城まではどのようにして向かわれたのですか?」
「ああ、それなら副司令官の方々に魔界に着いた直後に案内してもろうたんじゃがな。」
マキはそれを聞き急いで城に戻った。ミカにはミカエル様とここで待っているようにと伝えマキは副司令官を探しに行った。
「しかし、こんなことは初めてじゃ。来た場所が解らないなんて、ワシもそろそろボケてきたんかな。」
「お父様、魔界に来られてから皆さんにご迷惑ばかりかけてますね。」
魔界の上空に天使と大天使の親子が会話している姿はとても不自然な光景であった。
そしてマキが副司令官の1人を連れてきた。リリイだった。
「あら、リリイさんお久しぶりです。今は副司令官様なのですね。」
「ミカ様、お久しぶりでございます。今の地位になれたのも全て皆様のおかげです。」
リリイは一礼する。そしてキョロキョロと周りを見渡す。
「ミカエル様、たしかにあの空間の場所はここで間違いありません。ちょうどミカエル様がいらっしゃる辺りにございました。」
しかしその場所には空間はない。ミカエルは考えるが思い当たる事がない。
「やっぱりそうじゃな、しかし困った。あれがないと天界へ戻ることもできんわい。わっはっは。」
「お父様、笑っている場合ではないでしょ!」
「ミカエル様、私が転移魔法で天界までお送りいたしましょうか?」
「そうじゃな、では頼むとしようか。ミカよまたなリリイさんも迷惑をおかけしてしまってすまんかった。」
「マキちゃん、ごめんなさいね。本当にご迷惑ばかりおかけして。」
申し訳なさそうに謝るミカ、マキは困ったときはお互い様だからと笑顔で返事した。
「じゃあ天界へ行ってきます。戻るときは直接魔王城に戻るから、ミカちゃん城に戻っててね」
「じゃあミカエル様!出発しまーす!」
マキはミカエルと共に天界へと転移した。
この時点でマキとミカエルは天界で何が起こっているのか知るはずもなかった。




