【076話】人間界の異変
*****人間界*****
現在ユキが時間を凍らせている為、人間界では全ての物が止まった状態である。マキがこの凍った世界を解凍しない限り、この世界は動き出すことはない。
全てが止まったまま、のはずだったが。
「本当だ、報告を受けた通り全てが止まったままになっている」
「これはどういった現象なのでしょうか?」
上空から人間の世界を観察し、現在の様子を話す者がいた。
それは天界からの偵察隊であった。天使2名と下級天使100名が人間界の現在の状況を偵察にきたのだ。
天使はキーズとハデスの2名でキーズが隊を取り仕切っている。
○天界の任務
守護する立場である天界の役割とは、人間界に異世界からの侵略者がいないか監視し、守ることが使命なのである。それは人間界に限らず他の異世界も同様に天界は監視している。なので、今回人間界に起こった時間が止まる、という出来事は天界としては見過ごせない事態なのであった。
魔法の世界での出来事にしても、天界の門を破壊されるという想定外の事態も発生はしたのだが、ミカエルの機転とミサキ達の手助けもありなんと守護することができた。
氷の世界と炎の世界での出来事は、元々あの2種族は同じ世界だったので、天界は口出しができなかったのである。
今回の闇の世界と魔界との異世界間での移住も、暗黒の壁により、闇の世界が消滅危機に陥っていた為、特例として口を挟まなかった。だが今回の人間界の状況は明らかに異世界からのなんらかの侵略行為であると判断され天界の門から偵察隊が様子を見に来たのである。
「原因は不明だが、やはり時間が止まっているというのは事実だったな。天界へ戻ってミカエル様に報告するか。」
「しかし誰がなんの為にこんなことを…」
空にたくさんの大きな羽をはばたかせ、偵察隊の2名の天使と100名の下級天使達は天界へと戻っていくはずだったのだが。
「キーズ様、我らの真下に動いている者が1名見られます!」
突然下級天使の一人が天使のキーズにそう告げた。
「なんだと!そんなバカな、時間が止まった状態で動けるはずが…いや、もしかしたらそいつがこの世界の時間を止めたのかもしれん!捕捉しろ」
キーズの指令により全ての天使が地上へと降り立った。そして動いている少女を取り囲む。
「そこの女!なぜ貴様だけ動けるのだ?」
キーズは警戒しながら問いかける。
だが、その女は何も言わずうつむいたままニヤリとした笑みを浮かべる。
「なぜ何も応えん!お前は一体何者なんだ?」
再度問いかけるキーズしかし女は何も応えない、ただ薄ら笑いをしているだけだった。
「その女を捕縛し、天界へと連れて行け!」
そして下級天使数名が女に近づき、手を触れようとしたと同時に数名の下級天使達はその場に倒れた。
「ど、どうした!」
「おい!大丈夫か?」
見ていたほかの下級天使達が倒れた者達に駆け寄る。
「キーズ様、全員意識がありません。」
「皆のもの、やはりこの女は異世界からの者だ!気をつけろ」
キーズはそう叫び、下級天使達に警戒を呼びかける。
そして女はキーズの方に顔を向けた。キーズはその女の顔を見た、そして目が合った!
「こ、これは…う…うぅ…」
何かを言いかけようとしたが、キーズはそのままその場に倒れてしまった。
その後、もう一人の天使ハデスと残った下級天使達もその場に倒れ意識を失った。
*****数時間が経過*****
「ん、こ、ここは?」
天使キーズとハデス、他の下級天使達も意識を取り戻した。
「なんでこんなところで寝ていたんだろう。」
「全員ここで休憩してたんだっけ?」
「しかし、みんな寝ちゃってたとは。」
目を覚ました偵察隊員全員がさきほどの出来事の記憶を失っていた。
全員が全員ここで休憩し、仮眠を取っていたと認識している。
「結局調査結果は原因不明だったな。ミカエル様に報告せねば」
キーズは時間を止まった原因や誰が止めたのか解らずじまいで天界へ戻ることになった。
「そうね、キーズこればかりは仕方ないわ、異世界からの侵略じゃなさそうだし、そのうち動き出すかもしれないし。」
「そうだよな、では戻るとしようか」
天使2名と下級天使100名は天界へと戻って行った。
*****天界の門*****
キーズとハデスは下級天使と共に天界の門を潜り、キーズはミカエル様に報告してくると言って下級天使と共に宮殿へ向かった。
ハデスは少し寄るところがあるので、後で合流すると伝え、どこかへ行った。
宮殿に着いたキーズはミカエルに人間界の状況を報告する。
「原因不明か。異世界からの侵略でもないとすると一体。」
ミカエルも考えるが全く思い当たる事がない。まさか娘が仲間達と魔界に行くために時間を止めているとは想像もしていないだろう。
「で、何か他に変ったことなどなかったのか?なんでもいいぞ」
ミカエルからそう告げられ考えるキーズ。
「そういえば、休憩中に仮眠してしまいまして、時間的にはどれくらいか判らないのですが、天使、下級天使全員寝ていたと思います」
「仮眠しただと?そ、それって眠らされたとかじゃないのか?」
(普通に考えてもそれはおかしいだろ。こいつはそんな事も思わないのか)とミカエルは少し呆れていた。
「い、いえ。いくら我々でもそのようなことは…誰にも会ってませんし、記憶もちゃんとしていますし。」
「そ、そうか、まあそれならもう少し様子を見てみるか。異世界からの干渉であればそのうち動きがあるだろう」
(まあ人間界でなにかが起こっているのは間違いなさそうだな。)
ミカエルがそう告げ、キーズも頷き、報告は終了。キーズは自分の持ち場に戻った。
ミカエルは様子を見るとは言ったものの、よく考えたら異世界の者は人間界では時間が止まろうが行動できるはずなのに、偵察隊は転生者であるミサキ達を発見していない。
「まさか、奴らが関係しているのか。確かめる必要があるな、直接聞きにいってみるか。」
ミカエルは時間が止まった理由をミサキ達が知っているかもしれないと思い、魔界へと行く事にした。




