【064話】マキの暴走
4人は転生者であり、現在は女子高生の姿になっている。
それぞれが異なった能力を持つのだが、その力が強大であれば異なった能力を持つ者の能力を弾き飛ばしたり、押さえつけたりできるのである。
なのでユキがミサキやミカを凍らせようとしても凍らない。
マキが凍るのはマキ自身にそんな能力はないので、魔法による防御で凍らせないことはできる。
スライムに変身させてしまう魔法だが、女子高生のミカやユキには簡単にかけられる。だが、天使ミカや女王ユウキに姿を戻せば魔法は通用しなくなる。
マキはもう魔女とはよべない超能力者のようなものであり、姿も人間か魔女か区別がつかない。
先日の一件もあり、現在勝手に発動する魔法は『鑑定』だけだが、いつ他の魔法が発動するか解らないので、ミサキと2人で相談しながらなんとか『鑑定』以外の魔法は発動しないようになったマキ。
『鑑定』だけはどうしても発動するのだ。理由は危険を一番最初に察知するのが視界からだろうと判断するミサキ。
だがそれも、自らの意識の持ち方で、転生者独特の能力を感じた時にだけ発動するように調整ができるようになった。
「これで、安心して外出もできそうです、ミサキ姉さん本当にありがとう」
「いいえ、これはあなたの意思でそうなっただけよ。もっと自信を持ちなさい。姿が変らないとか、魔女のままだとか、そんな事を気にしているから魔法に精神を支配されちゃうのよ。」
(ミサキ姉さんはなんでも見抜いちゃうな。ほんとすごいや)
「わかりました。精神的に強くなります!」
ミサキはマキの笑顔を見て安心した。
こうして無意識発動を押さえ込む事ができたと思われたマキであったが、ミカと一緒に出かけたときからマキの様子がおかしくなっていく。
「あ、ミカちゃんたぶん転生者かもしれない人がこっちに歩いてくるよ」
とマキが突然そんな事を言い出した。
「えっ?」
「でも転生者ってだけで、記憶や能力は戻ってなさそうだね。ほらまもなくすれ違うよ、白いコート着てブーツ履いてる女の子。鑑定では闇って出てたよ。」
「そ、そうなの。大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、だから普通にすれ違えばいいからね。」
マキはそ知らぬ顔で前を見たまますれ違ったのだが、ミカはその子をチラッっと見てみた、するとその女の子はマキの方をすれ違いざま横目で視線を送った。そしてなにか呟いたようにも見えた。
「マキちゃん、今の子こっちに気が付いていたような気がしたんだけど。」
ミカはすこし不安になりマキに告げた。
「ミカちゃん、それならすれ違う前になにか行動をおこしてるよ。特にこちらを気にしてる様子もなかったし」
ミカも先日の件もあり、神経質になりすぎたかもといって気にしないようにした。
「でもいいのほっといて。」
「うん、ミサキねえさんにも言われてるんだ。この前みたいに変なのだったらめんどいし、それに記憶だけ戻ったってなにもできないから、ほっとけばいいって」
「そういわれればそうですよね。結構転生者っていたの?」
「前に4人いたけど、あれは全部 明桜女学院の生徒だったみたいだし、それ以来だよ今のは。」
「そっかー、じゃあもう気にしないようにするねー」
と、そんな出来事があり、数日が過ぎた頃、マキに変化が起こった。
*****数日後、真欧学園生徒会室*****
ひさびさに生徒会室に遊びにきたミサキ。
現在マキとミサキ2人きりである。
「マキ、その後どう?うまく抑えこめてる?」
「はい、なんとか。ミサキ姉さんやミカちゃんもこんな感じで抑えこんでるんですね?」
「そうね、うまいこと操作できるようになれば、抑えてる感覚もなくなって自然になるわよ」
「なるほど、がんばってみます!」
と、マキ自身は魔法の無意識発動を抑え込んでると思っていた。
だが、それとは逆に本人も気が付かない内に魔法は発動していたのだ。
ミカといつものように下校していると、まるでドラマのような場面に出くわす。
横断歩道を歩いている幼稚園児達に、暴走した車が突っ込もうとしていた。
マキの視界にそれが入り(あぶない!)と思った瞬間、暴走する車の進路を変えてしまい暴走車は電柱にぶつかり、園児達は無事だった。
ミカでさえ、マキの魔法のせいだと気が付かず、マキ自身も全く気が付いていないのである。そして2人で『あぶなかったねー』『無事でよかった。』とか言っていた。
他にも、目の前で起こった引ったくり現場に遭遇してしまった時に、犯人が転んで、その場で取り押さえられ『どんくさい犯人』と思っていたが、それもマキの魔法の仕業であった。
そしてついにマキが自覚するような事も起こった。
学校で階段を下りていたとき足を滑らせ、本来なら転げ落ちるはずが瞬間移動して階段の下にいたり、図書室で読みたい本を取ろうとするが、背が低いので背伸びして取ろうとしても届かない本がすでに手に持っていたりと。
(これって抑え込めてないじゃん!ダメだわわたし。)
ただ単に精神力が弱いものだと思っていた。
だが、だんだん無意識に発動する魔法が酷くなってしまっていたのだった。
ある日の下校時、そのことをミカに告げる。
「ミカちゃん、また勝手に魔法が発動しちゃってるんだ。」
「この前お姉様と一緒に治したのに?」
「うん、最初は気が付かなかったけど、だんだん酷くなってきてる。」
「気にしすぎてるんじゃないのかなー。」
「そうかなあ、それに最近じゃ、思っただけで発動しちゃうこともあるし。」
ミカにはよく理解できなかったが、少し前の事を思い出した。
(そういえば転生者のあの子とすれ違ってからだ、マキちゃんがだんだんおかしくなってきたのは。)
不安を感じたミカはミサキに、そのことをその日に伝えておいた。
そして数日が過ぎた、いつもの様に一緒に下校しているが、マキの顔色は日に日におかしくなってきいる。
「マキちゃん顔色すこし悪いようだけど大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ。あまり何も考えないようにしてるから。」
(でも顔色ヤバイよ。)
ミカの方を見てそう言った時である。一人の中年男がマキの方にぶつかったのである。
「前みて歩けよ、くそチビが!」
そう吐き捨てて、歩いていく男。
「マ、マキちゃん大丈夫?」
「うう、いてててて。クソが。」
マキは顔色が変り、振り返り睨みつける。
ぶつかってそのまま歩いていた男は突然足元から、つまずいた様に倒れ込んだ。
ミカからもつまずいた様にみえたが、その男はかなり苦しそうな表情で立ち上がれない、よく見ると足がへんな方向に曲がっていた。折れ曲がっていたのだ。
「マキちゃん、さっきのもまさか…。」
驚いたミカはマキを連れて近くの喫茶店へ入っていった。
店内には営業マンらしきスーツ姿の男性客や、主婦や大学生など様々な客がいた。
ミカはマキを見たが、表情はかなり酷く目の色がいつもの色とは違い紫色に変化していた。
(マキちゃんやばいよ、なんかおかしい。やはりあの時なにかあったんだわ)
ミカはスマホを取り出し、ミサキに電話する。そして自分達がいる場所とマキの様子を伝えた。
「ね、ねえマキちゃん。さっきの男性の方もマキちゃんの魔法が勝手に発動しちゃったの?」
ミカが確かめようと聞いてみるが、マキは下を向いたまま答えようとせず、なにか呟いていた。
そして突然立ち上がるマキ。
「ねえ、ミカちゃん…。一体どうしたら、どうしたらいいんだよ!もうこんなの嫌だあああ!」
大きな声で叫び、両手でテーブルをバンッと叩く!
「マ、マキちゃん落ちついて、ねっ大丈夫だから。」
ミカがそう言って落ち着かせようとしるが、周りの客達は大声で叫ぶマキを、まるで変なものでも見るかのような目で視線を注ぐ。
その視線を感じ取ったマキは、『じろじろ見てんじゃねーよ』と小声で呟く。
それと同時に喫茶店は爆発が起こったかのような轟音が鳴り響いた。
『ガシャーン!バキバキ。バリーン!』
喫茶店のガラスが全て割れミカとマキ以外のテーブルは全てひっくり返りバラバラになり食器は割れ店内はパニックになる。
ミカはマキの手を引っ張り店の外へ出る。他の客も逃げ出していたので、ミカやマキが逃げても不自然には見えなかった。
逃げてる最中もマキの目はおかしな色のままで、喫茶店の爆発騒ぎで騒ぐ声がうるさいとまた小声で呟き、今度は辺りの窓ガラスが全て割れてしまった。
『キャアアアアアアアア!』
『何事だぁぁぁ!』
『逃げろ!!』
まるでテロにでも遭ったような状態だ。逃げる人や悲鳴をあげる声が聞こえなくなるまで、ミカはマキを連れて逃げた。
そして、人気のない河川敷までやってきた。
「マキちゃん、普通じゃないよ?どうしちゃったの?」
マキは座り込み頭を両手で抱え込み泣いている。
「たすけて…ミカちゃん。もう何もかも壊したい」
今度は、頭をかかえたままブツブツと独り言を繰り返すマキ。
(マキちゃん一体。。これは一刻も早くお姉様に来ていただかないと。)
『パァーン!パァーン!』
ミカがミサキに連絡しようとした矢先、どこからかクラクションの音が鳴り響いた。
2人のいる場所から少し離れているが、橋が見える。そこに1台の車がクラクションを鳴らしたのだ。おそらく前の車が遅いからか、なんらかの事情で鳴らしたと思われる。そのクラクションの音でマキが反応する。
「うるさい。だまれ」
『ドカアアアン!ガシャ!』
その一言で、橋が崩壊し橋の上を走っていた車が一斉に川に転落する。
「ちょ、ちょっと。。なんてことを。。。」
ミカは心底恐ろしくなったが覚悟を決めた。
「マキちゃん、いいかげんにしなさい!あなたはこの街を、いえ、この世界を滅ぼす気なの?」
それを聞いたマキは、ゆっくりとミカの方を見る。
紫色の目が不気味なくらいに光っているようにも見える。表情は少し笑みを浮かべてとてもマキとは思えなかった。
そしてミカに向かい言い放った。
「お前は誰だ?ミカちゃんはそんな言い方しない。」




