【060話】マキの異変
*****ミカエルの宮殿*****
なにも手がかりがなかったので、天界見学ツアーを開始することとなった。
宮殿内を案内するミカ、宮殿は雲の上に浮いてるかのように建っている。空気も澄んでいて気温も暑くもなく寒くもなくとてもすがすがしい。
宮殿内に仕える天使は数多くいるが、すれ違う天使達はみんな澄んだ瞳をして微笑んでいる。
(うわあ、まさに天使の頬笑みってやつか。)
そしてミカが5千年間通い続けた部屋を案内する。
「ここが聖なる祈りを捧げる部屋です。」
「すごいキレイ。」
「ほんとですぅ、天国みたぃですねぇ。」
(いや、天界なんだから天国だろ。)
羽の生えた金色の女神像が中央にあり、それを取り囲むように天使達が祈りを捧げるらしい。なんともいえない癒しの空間だった。すべて白で覆われ、柱がたくさんあり部屋というより広場みたいな感じだった。
天井は吹き抜けとなっており、部屋に差し込む光が天使達を照らしている。
「わたしたちってすごぃですね、生きながら魔界にいったり天界に行ったりって、貴重な体験ですよねぇ」
めずらしくユキがまともなことを言った。
「ユキ、熱でもあるのか?」
「ユキちゃん天界にきてから静かだと思ったら、ミカエルになにかされたのか?」
「ユキちゃんーもどってきてー」
めちゃくちゃ言う3人であった。
「姉様達ひどいですねぇ。わたしだってたまにはまともなことぃぃますぅ!」
スネた、いつものユキだった。
「ミカちゃん、他にはなんか観光地みたいな場所はないの?」
「天界に観光で来られる方はいないかと。それに天界って特にめずらしい場所があるわけでもないので、どこにいけばいいのか思いつかないのですが…。」
(それもそうだわ、観光で天界に来てるのは私達くらいかも。)
「そぅなんですかぁ、天界遊園地とかぁお土産屋さんとかぁないんですかぁ。」
(やっぱユキはこうでなくっちゃ。)
「残念ながらありません。この天界では祈りを捧げる事が主な仕事ですので。」
「誰に祈りを捧げてるの?」
「全ての方々達が幸せな生涯をおくれますように。と捧げているんですよ。」
たしかにミカに目の前で祈られるだけで、幸せになれる。とマキは思った。
「行くところがないのは知ってたわ、じゃあそろそろ戻りましょうか」
ミサキはどうやら長居するのは苦痛なようだ。
(魔界の魔王だし、やっぱ天界ってのは居心地が悪いのかな。)
「じゃあ戻りましょう、いきますよー」
転移魔法を発動し4人は人間界に戻っていったのであった。
*****秘密基地内*****
人間界にすぐに戻ってきた4人。
「ごめんなさいね、まさかお父様があんないいかげんだったなんて…。」
ミカは申し訳なさそうにしている。
「でも、ミカエル様にもあんな面があるってわかってほっとしたよ。」
「うんうん、なんかおこられてるミカエル様みててたのしかったぁ」
「しかし、また振り出しに戻ってしまったわね。」
ミサキはやはり転生大全集のことが気になるらしい。
「きっと他にも転生者がいると思うんだけど、探したところで結局同じだと思うし、これからどうしよっか?」
「ですよねー、自分達がなんで転生したかもよくわからないし、人間なのかそうでないのかもわからないですし。」
「だよねー。ここにいる私と、異世界にも私がいるからもう訳がわからないー」
「わたしは、姉様達といっしょにいられるから、この世界がいい。」
ユキがそう言うと、みんな何かを思い出したかのようにユキを見つめる。
「ユキちゃん、いい事言うね。そうだよね、この世界が、いや4人一緒にいる事が現実だもんね。」
「ユキ、もう異世界なんかどうでもいい、ユキの言う通りだった。」
「ユキちゃんが一番冷静にこの状況を見てたんだね。もう深く考えるはやめるわ。」
こうして、冬休みは普通の女子高生として、人間界を楽しむことになった。
(いつか時がくれば、わかる事もあるだろうし、今はこのままでいたほうがよさそうね。)そう考えるミサキであった。
*****魔欧学園 修業式*****
修業式も終わり、そして冬休み。
暇な日は秘密基地という名たまり場へ行き、ゲームをしたり雑談したり、料理を作ったり食べたりと、ダラダラ遊びまくる4人。
それ以外の日は、カラオケ行ったり、遊園地行ったり、映画を見たりほぼ毎日遊びまわっていた。
通学以外では街に遊びに行ったりすることがなく、学園以外では人と接するのは通学中に毎日会うような顔ぶりばかりであった為、それ以外の人を見るのは転生前の記憶が戻ってからは初めてだった4人。
ミサキは特に外出はしなかった。お嬢様ということもあり、外出をあまりさせてもらえなかったのだが、もう18歳ということもあり、最近は自由に外出もできるようになった。
ミカもミサキ同様、外出などは絶対許される事がなかったが、マキやミサキが一緒なので、すんなり許可が出た。
そして4人は冬休み中、ずっと行動を一緒にしていた。
だがある日、マキの様子が少し変なことに気が付いた。
「マキちゃん遊びすぎて疲れちゃった?」
「いえ、ミサキねえさん違うんです。最近変なモノが見えるっていうか、無意識のうちに初めて見る顔だと『鑑定』しちゃってるみたいなんです。」
「それって、遊んでるときってずっとじゃない?すれ違う人なんて知らない人ばかりなんだし、それを全部勝手に『鑑定』しちゃってるってわけ?」
「たぶんそうかと…。」
「そりゃ疲れるよー。一度ゆっくり寝たほうがいいかもー」
「てゆうか、魔女のままだったんだねぇ、きがつかなかったぁ。」
魔女のマキも人間のマキも同じ姿なので見分けは誰にもつかない。
「じゃあ、人間に戻ればいいのに。」
「そぅだよぉ、なんでもどらなかったのぉ?」
「それが…戻ってるつもりが戻れてないんです。」
初めてマキが告げる。どうやらマキはずっと魔女のままだったらしい。
「それって、どういうことなの?魔法使いすぎたから?他に身体に異変はないの?」
ミカが心配そうな顔をしている。
「うん、今のところは勝手に『鑑定』してるくらいかな。」
「でも『鑑定』しても、普通の人ばかりだから、なにも変らず人に見えてるんじゃないの?」
ミカがそう言ったが、ミサキは否定する
「いや、そうじゃないわねマキ、それだけ疲れてしまうってことは、何人も見えたんでしょ?」
しばらく黙ってマキが答える。
「はい、実は もう何人も『鑑定』で異世界からの転生者と思われる人を見てきました。でも私達のような力はもってなかったと思います。きっと輪廻転生者だと思います。どこかの異世界で死んでから人間となった者が『鑑定』に映ってしまったと思います。」
「そんな人が結構な数いたんだねー」
「うん、意外といたよ。でも何人かはこっちに気が付いていたかもしれないんだ。」
「そうなんだー、どんな人だった?」
「同じ年齢くらいだったよ、特に敵ってわけじゃなさそうだし、もしかしたら気のせいかもしれないからほっといたけどね。」
冬休みに入る前に、人間として生活しようと言ったばかりだったので、マキはずっとこのことを隠していたのであった。
マキは魔法を無詠唱で発動させてしまう為、魔法陣を構築せずに魔法を発動しているように見えるが、実は体内で魔法陣は構築されていた。その副作用のせいで、人間の姿には戻れなくなってしまった。
さらに副作用はそれにとどまらず、危険を察知すれば、勝手に結界を張り、知らない人を見れば『鑑定』魔法が発動してしまうなど、もはや魔女ではなく超能力者になってしまっていた。
魔法の世界での最強魔法使い決定戦での決勝の時に、あれだけ強大な魔法を食らったのにもかかわらず無傷だったのは、危険を察知し、結界を無意識に発動させていたからであった。
そんな話をしていると、一人の女子高生が4人の前に現れた。
それは先日マキの『鑑定』でこちらに気が付いた女子高生だった。




