【051話】破滅
ユキが時間を止め、準備が整い、マキの転移魔法により『魔法の世界』に到着したのだが。
4人はその光景を見て言葉を失った。
マキは、呆然としていた。
「こ、こんなことが…。」
マキはそう呟く。
ミカやユキは下を向き、言葉もでない。
あのミサキでさえその光景に驚いている。
『魔法の世界』はすでに滅んでいたのだ。
いや、滅ぼされたと言うべきか。全てが破壊された状態になっていたのだ。
すでに何年も経過しているようにも見える。
焼け爛れた大地、建物は全て粉砕され見る影もない。
もちろん人影もない。
生きている者の気配すらしない死滅した世界へと変わり果てていた。
「マキちゃん…これは一体。」
ミサキが尋ねる。
「わかりません、検討もつきません。」
その光景を目を逸らさず、じっと見つめるマキ。
ミカもユキもなぜこんなことが起きたのか、それに今のマキにどう声をかけたらいいか解らず、ただただ戸惑うばかりだった。
「これじゃ誰も生存者はいないね、一体何が起こったのかだけでも知りたい。」
マキは現実を受け止め、涙さえ流さない。
「そうね、これはただ事ではないわ。なにか思い当たる事はないの?他国が攻めてきたとか。」
ミサキは冷静にマキに問いかける。
「他の2国にはそんな力はないはずです。しかも【大魔女】がそれを許すはずがありませんから。」
ミサキも『魔法の世界』に来るのは初めてなので、それ以上は思いつかない。
「もしかしたら、わたしの世界と同じように、異世界から攻められた可能性はありませんかマキおねえさん。」
ユキも一生懸命考え、マキにそう伝えた。話し方もいつもとは違い、普通だった。
「かもしれない。まず手がかりとなるものはないか、少しさがしてくる。」
「私たちも手分けしていきましょう」
ミサキがミカ、ユキに伝え、3人でてがかりとなるものはないか探しにいった。
マキは真っ先に【大魔女】の神殿へ飛んでいった。もう死んでしまっているだろうと解っているのだが、行かずにはいられなかった。
神殿は見る影もなく破壊されていた。
あちこちに血と思われるような跡が残っていた。床に染み込んだ血の跡は黒くなってその上には砂埃が覆いかぶさり、破壊されてからの時の経過がうかがえた。
一方ミサキは焼き尽くされた場所に来ていた。おそらく森があったであろうと思われる。あちこちに炭と化した木が散乱していた。
「これはひどい…。きっとなにかしらの生物もいたはず。全て残らず焼き尽くしてしまっているわ。」
炭になってしまっているが、骨のようにも見える物が、あちこちに見える。
「誰かが歩いたような形跡さえないし、本当に無人と化してしまっているわ。」
マキの気持ちを思えば、なんとか手がかりだけでもと必死に探すミサキであった。
ミカもこの光景を見て、マキに掛ける言葉もなく、マキの気持ちを考えただけで涙が溢れてくる。しかしマキ本人は泣いていない。今は手がかりを探すことが自分にできることだと思いあちこち駆け回った。
ユキはすでに泣いており、泣きながらどうしたらいいかわからず、破壊され無残な町を歩いていた。
「こ、こんなの…誰もいきてられないよう…」
泣きながらそう呟くユキ。灰で道が埋まり、建物は全て焼け落ちさらに粉砕されている。まるで一軒づつ追い詰めるように破壊していったかのようにさえ思えた。
ユキはその時なにかを見つけた。灰に埋もれはしていたが焼けてはいない。なんだろうと息を吹きかけ、灰を落とす。
「こ、これってもしかして。。。」
見覚えのあるそれは、羽だった。そうミカと全く同じ天使の羽だったのだ。
羽を手に持ち眺めていると、神殿から町へとやってきたマキに見つかってしまう。
「ユキ、それは?」
「はい、ここに埋もれていました。」
マキはユキが持っていた羽を受け取った瞬間表情が変化する。
「そういうことか。」
と一言だけ呟いた。
そしてどこかへ行ってしまった。
その頃ミカも同じ物を見つけていた。
「こ、これは…まさかそんな。」
ミカは一瞬でその羽がなにを意味しているのかを悟った。
ユキもその後何枚もの羽を見つけ、ミサキもすでに見つけていた。
ミサキは近くにマキの姿が見えたので、声をかける。
「マキ、なにか心当たりあるの?」
当然羽についてである。
「いえ。」
「そう…どうするの?」
「許すわけにはいきません。」
「マキがしたいようにしないさい、私はそれに従うわ。その前に詳しくおしえてちょうだい。」
「ミサキねえさんを巻き込むわけには参りません。それに天界からは過去に何度か使者が訪れた事はありますが、それも平和的なことだったとしか聞かされておりませんでした、ですがこれは紛れもなく天界からの攻撃だと思います。」
「巻き込むとかじゃなく、マキは私の家族よ、その家族をこんな悲しませた者を黙ってみてられるわけないでしょ。」
「ミサキねえさん。」
ミサキにそう言われ、我慢していた涙を堪えきれず思いっきり泣いた。泣きながら『泣くのはこれで最後』と心に決めたのである。
「ミサキ姉さん、お力お借りしてもよろしいでしょうか。私は天界の奴らを許せません。それに。。。」
それにミカちゃんの事も。と言い掛けたが声にはださなかった。
「あなたの望むままにやりなさい。」
ミサキはそれしか言わなかった。天界の仕業であるのは確信していたが、ミカが天界の天使であることも当然しっている。しかしその事には一切触れない。
そしてユキ、ミカがやってきた。
もうミカは言葉どころか、どうしていいのか解らない。
マキはミカを睨みつける。先ほど声には出さなかった言葉がミカを見た瞬間、言葉にしてしまう。
「絶対に許さない、お前の一族はわたしが滅ぼす。同じ思いをするがいい。」
マキは心の中では解っているのだ、マキちゃんは関係ないのに何故こんなことを言ってしまうのか。自分の醜さに腹が立っていた。
(なんて事を言ったんだ。ミカちゃんはなにも悪くないのに。)
ミカから視線を逸らし、ミサキに告げる。
「ミサキねえさん、一緒についてきてください。」
ユキはミカの事もあり、着いて行くとも言えず黙り込んで泣いていた。
ミサキはミカの様子を見ていた。
ミカは天界を滅ぼすと宣言されてしまったのだ。だが、ミカがマキの立場なら同じ事をきっと思い、そして言ってしまうだろう。もはやミカにとっては、天界とか人間界とか関係なく、マキが自分にとって一番の存在なのだ。
当然マキもそれは同じ、だがもう天界を滅ぼすと言ってしまった以上後には引けずミカを視界に入れない。
だがミカが、マキに向かい話しかける。
「マキちゃん、今すぐ私を殺しなさい。そして天界を滅ぼしてきなさい。」
突然のミカの発言に、マキはミカを再び睨みつける。ミカは本気だ、本気でマキに殺されるつもりでいることが判る。
ミカに殺しなさいと言われてもできるはずもなく、ただ涙を我慢し睨みつけるだけだった。
そしてミカが再びマキに向かい言い放つ。
「私を殺すことができないであれば、私を天界に連れて行きなさい。私が天界を滅ぼすから。」
天使であるミカが自ら同じ仲間である天使を滅ぼすと言い出したのだ。もうマキにはミカに対して謝罪するやしないの問題ではなくなってしまった。自分のためにここまで言える大事な親友を裏切るような酷い言葉を浴びせた自分を悔やんでも悔やみきれないのだ。
「マキ、もう解っているのでしょ」
マキの心中を察したミサキがマキにそう告げる。
マキは今すぐにでも泣き出しそうだった。
「ミカちゃん、ごめんなさい。わたしは本当に醜く最低な女です。」
「そんなことはありません、共に天界に参りましょう。そしてわたしの大事な人の世界を破壊した天界のものを共に滅ぼしましょう。」
「わ、わたしも…一緒に、一緒にいきます、マキ姉様、お願いします。」
ユキも泣きながらそうマキにお願いした。
「ミカちゃん、それにユキ。本当にありがとう。でも冷静に考えると、本当に天界から攻撃を受け滅んでしまったのかはわからないので、これ以上はもう。」
「マキちゃん、事実確認する為にも一度天界へいきましょう。」
「うんうん、そうだよ。マキちゃんにこんな辛い思いをさせた犯人を突き止めないとなにも終わらないもん。」
「マキ姉様、ユキも微力ながらお手伝いしますので、まずは犯人を捜しましょう。」
「み、みんな。。」
マキは大泣きした。
そして4人は手がかりとなる羽をたよりに天界へと行く事となった。




