【043話】竜討伐
いきなり空から現れた『火竜』に燃やされそうになっていたマキ。
だがマキは燃えずに凍っていた。
ユキが一瞬で、マキに襲い掛かっていた炎と、それに火竜と何故かマキまで凍らせたのである。
凍った『火竜』はユキの氷の槍で砕かれ討伐、ユキは見事に『火竜の鱗』を手に入れた。
一方のマキだが、不安定な状態で凍らされた為、そのまま川に落ちた。
『どっぱーん。』
そして流され沈んでいった。
ミカもユキも特に焦る事はなかった。凍ったまま川に落ち流されて行くマキを気にせず、将軍に先ほどゲットした『水流の水晶』や『火竜の鱗』について話を聞くため将軍に駆け寄った。
だが将軍は川に落ちてしまったマキの事が気になるみたいでそれどころではない。
「あ、あの、マキ様が流されておりますが、そ、そのよろしいのでしょうか?」
「いいですよぉ、ほっといても勝手にかえってきちゃぃますしぃ。」
「そうだよねー、将軍様、マキちゃんのことはどうでもいいですから、説明お願いします。」
「し、しかし。マキ様が。。。」
魔王の大切なお客様が川に流されてしまっているのだ。もう将軍は死をも覚悟していた。
そんな将軍の覚悟も無駄に終わった。
いつのまにか、びしょ濡れになったマキが将軍のすぐ後ろに立っていたのだ。
将軍は背中にただならぬ殺気を感じ、その場から飛び移る。
そしてマキの反撃が始まった。
無詠唱で発動された魔法で、ミカとユキは、2人揃ってスライムに変えられてしまった。
スライムになった2人を掴み、川へぽいっと投げ入れたのだ。
『ちゃぽーん。ぽちゃーん。』
すでに将軍は事態が把握できずにいた。先ほどまでのマキ達と入れ替わってしまったようだ。3人の行動にただ驚くばかりの将軍。
しばらくすると川から2人が飛び出してきた、天使ミカと女王ユウキの姿になっていた。元の姿に戻ることにより魔法が解ける事を知っていたのでマキは平気な顔をして2人を川に捨てたのだ。
「マキさん!なんてことするんですか!」
「ひどいマキちゃん。。。わたしまで。」
2人とも元の姿に戻っているため背が高くなり、マキのはるか上の目線から話しかけてくる。
「ひどいのはどっちだぁぁぁ!」
マキに怒鳴られ、反省する2人。
「ごめんなさいマキちゃん、ゆるしてー」
「マキさんなら、大丈夫って思ってたから。」
「それより、上から話かけるなぁぁぁ!元にもどれぇぇぇ!」
2人は女子高生に戻った。
「こっちが仮の姿なのに。。。元にもどれって。。。」
まだぼやくユキにマキが鉄拳制裁をしていた。
「と、とにかくご無事でなによりです。」
将軍はもう、この3人についていけなくなりそうだった。
(ミカ様とユキ様のあのお姿になられた瞬間、凄まじい能力が感じ取られた。やはりこの方々はただならぬ方たちであることには間違いなさそうだ。)ある程度の能力を持っていることはミサキから聞かされていたが、まさかこれほどの能力があるとは想像もしていなかった将軍。
ミカとユキはそれぞれ竜から出たアイテムを手に入れていた。
どちらもすごい高価な物らしい。
マキだけ持っていない。マキはスネた。
ミカもユキもスネたマキは何をするのかわからないので、将軍になんとならないのか聞いてみた。
「将軍様、他に強い魔物はいないのでしょうか?」
「このままじゃぁ。ユキが狩られちゃぃそぅなので、おねがぃしますぅ。」
「は、はい。竜はいることはいるのですが、『雷竜』といいましてとても危険な竜ですが、おすすめはできかねます。」
将軍はあまりおすすめできなかった、将軍でも恐ろしくて見るのも嫌になるほどの竜なのである。ましてやそれを小さなマキ一人で倒せる訳もでもないと見た目で判断していた。
「将軍様、その竜でかまいませんわ、是非ご案内を!」
「マキせんぱぃ、竜がまだいるらしいですよぉ」
「そうなんだ、じゃあ行こうよ早く。」
マキは喜んだ。そして3人は将軍の案内の元、『雷竜』探しへ向かったのである。
竜の棲家から海のような川を渡り、数千キロの所に『闇穴』という場所があり穴が空いているらしい。その穴の底は無く。穴のどこかに『雷竜』が生息していて、たまに魔界へと出てくるらしい。あまりにも危険な為、正確な情報がないとの事である。
「ミカせんぱぃ、ほんとに大丈夫なんですかぁ?少しヤバそうですよぉ」
「そうね、いざとなったら3人でやりましょう、なんとなりますわ」
(ミカさんてこんなに頼もしい方だったっけ?)ユキはミカの変化に驚いた。
魔力を使い空を飛ぶ乗り物で移動する3人と将軍。すでにかなりの距離を進んでいた。だがやっと海のような川を超えたばかりであった。
(どんだけ大きい川だったんだ。。。)マキは下を見てそう思った。
ここから『闇穴』まで数千キロはあるらしいので、3人は着くまでの間休憩した。
この乗り物『マンション』は先日乗った『屋敷』よりサイズは小さいが、設備は充実していた。
まだまだ時間がかかる為、川に落ちたので風呂に入り、食事を取ったりと、くつろいでいると、まもなく到着しますと告げられた。
移動の間、普通の女子高生が騒ぐみたいにギャーギャー騒いでいたので、おそらく将軍も疲れているだろうと思われる。若干やつれていた。
*****闇穴*****
闇穴と呼ばれる場所にたどり着いた。
落ちたらシャレにならないだろう。それくらい恐ろしいほど深そうな穴だ。
直径1000メートルの円形状の穴がぽっかりと開いているのだ。
魔界の間では底がないともいわれている。実際確かめようもないのでなんともいえないのだが。このような穴が魔界には数箇所あるらしい。
「それで、ここで何をしろと?」
マキがキレていた。
「マキちゃんここに『雷竜』がいるんだってー」
「それは聞いたからしってるよ、どうやって探すの!」
この底なしの穴を前にしてどうしろと言うのか、マキはそれが聞きたかった。
「どうしましょう、そのうち出てくるかもしれませんよ」
「雷竜が出てくるのは100年に一度と言われております」
「そんなに待てないわ!」
何故か将軍にまでキレるマキであった。
「将軍様、『雷竜』はこの穴の中にいることは間違いないんですか?」
ミカが尋ねる。
「はい!それは間違いございません。ですが…たとえ見つかったと致しましても倒せる保証はございませんが。」
マキには到底無理だろうと判断していた。かといってミカやユキでも倒せるかどうか解らなかった。
「とりあえず探してみる!」
マキはそう言って、魔法で作り上げた丸い空飛ぶ魔法陣に乗り込んで、穴の中へ消えていった。
「マキちゃんがんばってえ。」
「マキせんぱぃ、しなないでねぇ。」
「マ、マキ様!…まさか、本当に穴に入られるとは。。。私はもう。。。」
将軍は再び死を覚悟していた。魔王様の友を危ないところへ案内してしまい、勝てるはずのない最重要危険魔物のよりによってあの『雷竜』を探しにきてしまったのだ。
血の気が引いた将軍に気がついたミカは声をかける。
「将軍様、大丈夫ですよ。マキちゃんはああ見えてめちゃくちゃ強いんですよ。」
将軍を安心させようとかけた言葉だったが、将軍にはマキが強いなどとは全く感じていなかった。
しばらくすると穴から光が見えてきた。
さらに『バリバリ!ドカーン』と放電?のような光と爆発するような音が入り混じっている。
そしてその音は次第に大きくなり、闇穴からマキが出てきた。
「みんな遠くに離れて!はやくー!」
将軍とミカ、ユキは慌てて乗り物『マンション』へ乗り込み、すぐに離れた場所に避難する。
そこから見えたものは、闇穴から出てきた直径約100メートルくらいある太さの竜、そう『雷竜』が姿を現したのである。
その竜が放電しながら、全長10キロにも及ぶ姿を現し、空を舞っていた。それを目の当たりにした将軍は放心状態だった。
さすがにミカもユキも言葉を失ってしまう。なぜなら自分達が討伐した竜とはスケールが桁外れだったからだ。
「ま、まさかあんなに大きな竜だったなんて。」
「マ、マキせんぱぃ。。。あの大きさはぁヤバイですぅよ。」
ミカやユキが心配する中、マキは魔法を屈指し、放電を防ぎながら攻撃をした。
その戦う姿を見て、少し安心するミカ。
(やっぱりマキちゃんはすごいわ、ぜんぜん余裕で戦ってるし。)ミカはそう思った。ユキはすでに泣きそうになっていて、将軍はさっきと同じく放心状態継続中だった。
しばらく雷竜との攻防を繰り広げていたマキだったが、どうやら雷竜がどれほどの強さかを確かめていたようだった。
雷竜の強さを悟ったのか、強力な魔法を行使するため、いつもの無詠唱ではなく、魔法術式を詠唱し巨大な魔方陣を雷竜の周辺に構築していた。
「あれ、ヤバそうですよぉ、もっと離れたほうがよさそうですぅ。」
「そ、そうね、将軍様、もっと離れてもらえますか?」
「は、はいかしこまりました。」
乗り物を移動させ、かなりの距離を取り戦況を黙って見つめる。
竜の周辺には魔方陣が敷き詰められ、やがて竜を完全に魔方陣の中に封じ込めた。その瞬間、魔法が発動し、半径数千メートルに及ぶ大爆発が起こった。爆発した煙が消える頃『雷竜』はすでに粉々に砕け散っていた。
それを見ていた将軍とミカとユキ。言葉が出なかった。
しばらくすると、何事もなかったかのような表情で、マキが魔方陣に包まれたまま空を飛びこちらへ向かってきた。
「たっだいまぁぁぁ。」
「おかえりぃ、やったぁたおしちゃったねぇマキせんぱぃ。」
「マキちゃんすごいわ。」
マキはたいしたことなかったと思っていた。最強魔法である『魔法:デスホール』を使うまでもなかったのだ。
それを使っていたら竜は消滅し、アイテムが手に入らない恐れがある為、あえて使わなかった。
そしてマキもアイテム『雷竜の欠片』を手に入れたのである。
マキも乗り物『マンション』に乗り込み、手に入れたアイテムを嬉しそうに見せびらかしていた。
20万の魔界都市を束ねる将軍でさえ、この3人には恐怖していた。
「よ、よくぞご無事でございました。まさかあの『雷竜』をあのように簡単に倒されるとは…。」それ以上は何もいえなかった将軍であった。
そして狩りを終え、ミサキの元へ帰ることになった。
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