【033話】救世主マキ
マキの残る作業は、この時間ごと凍った世界を解凍することだけだった。
(やっとこの世界も元に戻るんだ。)
封印を終え、アイスキャッスルに戻ってきたマキは、この半年間の出来事を振り返る。
「マキさん、最後の解凍はこちらで行っていただけませんか。」
感傷に浸っていると突然ユウキから声をかけられ、解凍魔法を行使する場所を案内される。
その場所は城から街が見渡せる一番目立つ場所だった。しかも何百万という兵士達がこれから行使される魔法とマキの姿を一目見ようと集まってきているのである。
(あとは解凍するだけなのに。なんでこんなにたくさん集まってるんだ。)
マキの後ろには女王ユウキが笑顔で控え、その後方には地位の高い者達が勢揃いしている。
「マキさん、宜しくお願いします。」
ユウキに促され、仕方なくその場所で魔法を行使するマキ。
無詠唱で発動された魔法は広大で美しく、その場にいた全員が魔法やそれを行使するマキの姿に魅了されていた。
魔法が収まり、凍った市民も元に戻り、世界全てが動きだした瞬間、集まった兵士達から声が聞こえる。
『救世主マキ様!ばんざーい!』
『救世主マキ様!ばんざーい!』
『救世主マキ様!ばんざーい!』
『救世主マキ様!ばんざーい!』
『救世主マキ様!ばんざーい!』
その歓声は、氷の世界全土に響き渡るほど凄まじく、兵士達の喜びがどれほどのものだったのかが伝わってくる。
「解凍しただけなのに…なにこの騒ぎ。もう外に出られないじゃないか!」マキは後ろにいたユウキにそう言った。
「でも、事実ですし…マキさんのおかげでこの世界が元に戻ったわけですから…その。」
感謝の意味もあり、みんなに事実を知ってほしかったからでもある為、と説明するユウキ。
「つーか、ほんとよかったよ。これでこの世界も平和な日々に戻れるね」
「これも全てマキさんのおかげです。これで思い残すこともなくなりましたし。」
意味深な言い方をするユウキ
「それってどうゆう意味?まさか思い残すことはないので『わたしはもう死にます』とかなら怒るよ!」
「あははは、マキさんそんなわけありませんよ、わたしはマキさんにこの命、肉体、精神全てをあなたのために捧げることを決意しました。」
ユウキは真剣だった。世界を救ってくれたマキにこの先なにがあっても付いていく覚悟を決めたのだ!
「いや、そこまでしなくていいから。」
マキとしてはかわいい後輩のためにやったことで、対して何もした実感もなかったので大げさ過ぎる!とユウキに言った。
「マキさんこちらの世界にいらしてから、一度も食事をされてませんよね?今夜はパーティーを開催致します、料理もこの世界最高の物を用意致しますので楽しみにしていてください。」
「うはーマジ!やったぁぁぁぁ!」
食い物には弱いマキであった。
そして、パーティーが開かれた。
【救世主マキ様を労う会】であった。
パーティーには大勢の隊長や重鎮達が集まった。立食形式で料理があちこちに立ち並び、自由にあちこち行けるように配慮されていた。
この世界では女王陛下は始めとし、それぞれの地位により席が決まっており、このような形式で執り行われるパーティーは存在しないのだ。だが、そんな事をしてもマキが喜ぶわけがないのを解っていたユウキが今回このような形式でパーティーを開催した。
そのおかげで、出席者も気軽にマキに話しかける事ができ、マキは大勢の人に囲まれている。
マキは背が低い。この世界の人たちはみんな背が高い。いろんな人がマキを取り囲み話しかけてくる。だが、みんな膝を付き目線を合わせてくれる。上から見下ろすような事は絶対にしないのだ。
「マキ様、魔法というのは誰にでもできるのでしょうか?」
「マキ様はほんと美しい、まさに救世主様です。」
「あの魔法を行使されていたお姿、いまでも目に焼きついております。」
「救世主様、凄い魔法を使用なされるのになんてかわいらしいのでしょうか。」
などなど、べた褒めに遭っていた。
一応魔法でドレスみたいな格好をしているマキ、小さい為、人形にしか見えないのだが、それがここにいる人たちにはたまらなくかわいく映る。
その後、壇上へ招かれ、一言お言葉をと薦められる。
いつも通り、正直に話すマキ。だがユウキの女王としての立場も考慮し、何箇所かは改ざんして話す。
聞いていた人々は皆泣き出し、感動の拍手が舞い起こる。やはりマキは魔術もさることながら話術にも長けているようだ。生徒会選挙と全く同じ状況になってしまった。
女王ユウキも感動し泣いていた。
そしていよいよマキの楽しみにしていた食事だ!
「やっと食べれるー!」
豪華に並べられた食べ物の数々、色鮮やかではあるが、見たこともない食べ物ばかりだった。でもおいしそうだ。
だが…全て冷たいのである。
マキはここが氷の世界だということを料理を見た瞬間忘れてしまっていた。
味は最高なのだが、全てにおいて冷たいのである。
「うううう…おいしいのに…冷たいよぉ。。。」
小さな声で呟き、涙を流しながら食べるマキ、頭にツーンと激痛が走り、頭を押さえながらまた涙を流し、それでも食欲がマキを暴走させ、食べまくる。
(なにこの料理、冷たいのにおいしい。いくらでも食べられるくらい食欲が止まらなくなるんだけど冷たい。。)
おいしいけど、冷たい。頭もツーンとする。けどおいしい。これだけの料理を用意され、冷たいなどとは口が裂けても言えず、涙は流れたままだった。
そんなマキの姿を見た出席者は。
「やはり、マキ様我々の用意したもので感動してくださっている。」
「マキ様、涙を流されて…よほど辛い闘いだったのですね。。」
もらい泣きする人、感動する人さまざまだった。が、すべて勘違いである。
(ユウキめおぼえてやがれ…あっち戻ったら温かい食べ物ばかり食わせてやる!)と、全く違うことを思っていたのは誰も知らない。
そしてパーティーは無事終わった。
その後マキはこの城にある最高の部屋に通された。
マキの為に3人ほどのメイドが就く。
「マキ様のお世話をさせていただけて光栄です。なんなりとお申し付けくださいませ。」
「あっ、はい。でも今のところなにもないので、休んでてください。」
そう返すマキであった。
ここで生活すると、お腹がヤバそう、と思ったマキは、用事も済んだしあとは戻るだけと、考えていたが、ユウキはどうすのだろう…。
(この世界は元に戻ったわけだし、ユウキはこの世界の女王様。やはり連れて帰るわけにはいかないだろう。とりあえず今日は寝て明日帰ろうっと。)
寝室も冷凍庫並みの寒さで、しかもベッドは氷で作られていた。
(部屋だけかと思ったらベットまで氷だったとは。)
マキは魔法を自分にかけて、凍死してしまわないようにしてその日は眠りに付いた。
そして翌日。
目を覚ますと女王ユウキが傍にいた。
「お目覚めですか、マキさん。おはようございます。」
「ああ、おはよ、ふぁーあーあ」
あくびをしながらあいさつするマキ。
「ああ、そうだわたし今日戻るから、ユウキはここで女王様として頑張って、また遊びにもくるから。」
簡単に言い放つマキ。
「マキさん、その事でわたしは来ました。昨日お話した通り、マキさんから離れる気はありません。マキさんが帰るのならばわたしも帰ります。」ユウキはそう言い返した。
「ダメだろ、それじゃこの世界はどうするの?あんなにみんなユウキの事慕ってくれてるのに。」
「それなら心配ございません、定期的にマキさんが連れてきてくださればなんの問題もありませんから。」
「それで済むのなら別にいいけど、定期的ってどれくらいの間隔?」
「年に一度で十分です。女王は年に一度しかやることありませんし…。その時にマキさんが一緒なら尚更都合がいいですし。」
「ユウキがいいならそうするよ。じゃあ準備ができたらまたきてね。」
「はい、わかりました。」
そう返事をすると、ユウキは部屋を後にした。
ユウキはその後の処理として悪いことを企てる者は全て処刑したらしい、姉も処刑したと聞かされた。
1時間後、ユウキが戻ってきた。
「お待たせしました。いつでも大丈夫ですマキさん。」
「ちゃんと説明してきたの?いなくなって騒ぎになったらえらいことだからな。」
「はい、大丈夫です。」
「はいよ、じゃあいくか!」
マキとユウキは部屋から消えた。
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