【017話】天地ミカ
*****天地邸 ミカの部屋*****
階段も広くゆるやかな段差でマキの自宅にある階段とはかけ離れていた。2階に到着すると広い廊下があり、数か所にドアが見える。
その中でも和風な建物には似合わないドアの前でミカが立ち止っていた。
「マキちゃんここがわたしのお部屋よ。お友達を招き入れるのは初めてだから、ちょっと緊張しちゃうけど、どうぞ。」
照れ臭そうに顔を赤くしマキにそう告げるミカ。
部屋のドアを開けマキに入るように促すとマキは部屋に足を踏み入れる。
「ミカちゃん、ここって部屋?部屋なんだよね?」
マキは少し動揺しながら再確認した。
マキが動揺しているのは、分厚い鋼鉄でできたドア、見るからに防弾っぽい窓ガラス、壁もおそらく防音、耐火、耐震付きと思われ、部屋の中のはずなのに、中にはリビング、キッチン、寝室、トイレ、風呂まで揃っていたからだ。
(これって部屋じゃないよ。マンションじゃないか!)
「うんそうだよ。学園に入学したくらいから、自分の部屋をもらったのー」
「そ、そうなんだ、あははは。」
(いやいや、部屋じゃねーよこれ。)
「あっ、マキちゃんそんなことに立ってないで座って座ってー」
リビングで魂が抜けたように立っていたマキにミカが座るように声をかける。
マキは見るからに高級そうなソファーに座った。目の前にあるテーブルも大きく重量感もすごそうで、テレビはもはやテレビではない。映画館?と思わせるような巨大なスクリーン。こんなのはアニメやテレビでの架空の場所であり架空の存在だとしか思ってなかったマキは現実を見て逃避したくなった。
そしてミカが飲み物を持ってきて隣に座った。
「マキちゃんどうしたの?なんかいつもと違うね、ああっそっかーさっきの副社長さんの顔が怖かったからかな?あの人ああ見えて優しいんだよー」
「そ、そうなんだ、あははは」
(とりあえずそういうことにしておこう。あんなおっさんよりミカちゃんのが何千倍もこえーよ。)
「でね、マキちゃんにきてもらったのは、お話をたくさんしたくて、いつも2人で登下校してるのになかなかお話ができないでしょ。だからこうしてお招きしたの。前から何度もお招きしようとしてたんだけど、おうちに着いた途端、マキちゃんフラフラしながら帰っちゃうから。登下校に1時間かかるから疲れてるんだろうなって思って、なかなかいいずらかったの。」
(ミカちゃんもお話したかったのか。ちょっと嬉しいな。)ミカの話を聞いて嬉しそうなマキ。
「そういえば、お話する間もなくいつも家についちゃうもんね。ごめんね気を使わせてしまっちゃって。」
「ううん、いいの。今こうやってきてくれたわけだしー」
ミカはニコニコ上機嫌だ。
ミカは転生前の記憶は戻っているものの、普段の思考は人間としての思考が最優先されていて、転生前の記憶を思い出してあれこれ考えることがなかった。そのことをマキに話すとマキも同じ答えが返ってきた。
「なんつーか、この城間マキって名前のほうが今の自分って感じがして、魔女だった頃より充実した生活が送れているような気がするんだ。」
「うんうん、わかるよマキちゃんー。いまの私が本来の私なんじゃないのかと思っちゃうもんー」
意見が一致し、話もかなり盛り上がってきたのだが、この2人大きな勘違いをしていた。ミカは転生前は天界の大天使の娘で、天界のお嬢様。魔女マキはスーパー頭脳の持ち主でありとあらゆる術式を覚え、それを使いまくって騒ぎを巻き起こす問題児。どちらも転生後も変らない生活であった。お互いに転生前も友達がいなかったせいか、今のこの状況がとても嬉しいのであろう。
そして『ピンポーン!ピンポーン』とチャイムが鳴り響いた
(へ?ここって部屋よね…なんでチャイムが鳴る?そっか、お嬢様だから各部屋にチャイムが付いているのか。クラスの子達がいってるお嬢様はきっとみんな勘違いしてるんだ。今度クラスの子達にちゃんと教えてあげよっと。)と勘違いしているマキであった。
ミカはリビングの入り口にあるインターホンでなにかやりとりをしていた。そして部屋の鍵をボタンを押し開錠した。
すると3人ほどの黒服の男達が料理を持って入場。料理はキッチンにあるテーブルに並べられ、男達は出て行った。
「さあ、マキさんお食事にしましょ」
そういうとミカはマキをキッチンへと連れて行った。
高級料理が並ぶテーブル、見たこともない食器に料理、すっかり料理に見蕩れてボーっとしてしまったマキ。
「さあ、マキさん食べましょ。たくさん食べて体力つけてね。」
「うわぁぁぁ!すごーーーい!いただきまーす」
小さな女の子2人では食べきれないほどの量があるにもかかわらず、数十分後にはキレイに平らげてしまっていた。ミカは少食なので、マキがほとんど食べてしまった。
おなかがいっぱいになり、大満足のマキ、みるからに笑顔でミカも一安心した。マキはこの家にきてから驚くばかりで一度も笑う暇さえなかったのだ。
そしてリビングに戻り、食後の紅茶を飲み、そろそろ時間も遅いので帰ろうかなと考えていた時、ミカが話しかける。
「マキさん今日はお越しくださった記念に泊まっていってくださいませんか?」
「え?いいの?嬉しいなーミカちゃんとお泊りだーわーい」
マキは素直に喜んだ。
それを見たミカはマキがかわいくてしょうがなかった。きっとミサキも同じような気持ちだったのかとふと思った。
「そういえばさー ミサキ生徒会長とこもお嬢様なんだよね?やっぱミカちゃんとこと同じくらいのおうちに住んでるの?」
「マキちゃん、お姉様なんてわたしの家と比べ物にならないわよー。それにお姉様こそが本当のお嬢様だわ。」
マキはこれ以上聞くのをやめることにした。転生前に培ったものは転生後も継続して得られるような気がしたからだ。
その後、2人は一緒に入浴し、服を借り、寝室へと向かった。
大きなベットが中央に、少女マンガにでてくる宮殿の寝室のような光景だった。
寝室にもソファーとテーブルがあり、そこに座りまたお話をする。マキはミカの転生前の生活に興味があったので聞いてみた。
「ミカちゃんて天界に住んでたときってどんな生活してたの?」
ミサキには怖くて聞けないが、今のミカになら普通に聞けた。
「うーん、そうね。ずっとお祈りを捧げてたかな。みなさんが争いもなく幸せな日々を送れますようにって…。少なくともこの5千年くらいはそうだったかも…」
「はい?いまなんて?いまなんてオッシャイマシタ…ゴセンネン?それって1年が5000回ってことですよね?」
「マキちゃんて面白いねー。そうだよー5千年くらいはそういった生活だったよー。生まれてから数千年間は天界についてのお勉強に費やしてたからー。残りの数千年はって、年がバレちゃうじゃない!もうおしまいねーあはっ」
(えええええええ…ココ最近の5千年と生まれてからの2千年さらに残りの数千年で、数千年?は?へ?ほ?ケタが違うんですけど…)
「わたしはそんな感じだけどマキちゃんは?」
「わ、わ、わ、わたしなんて…ミカちゃ…いや、ミカ様にお比べ致しましたら千年程のただの子供みたいな者でございます。。。ミカ様は長い年月を天界で過ごされた上にさらに転生して修行されるなんて…わたしなどゴミ以下の存在でございます」
自分の未熟さ、さらに生きてきた時間の長さ、全てにおいてケタ違いなミカにマキはどうしていいのかわからなくなってしまった。
「マキちゃん、これ以上この話題はやめたほうがいいねー。この世界では同じ学年なんだからもう普通にしてよ。お願いね」
「は、はい…いや、う、うんわかったミカちゃん」
ミカが数千歳ならその上を遥かに行くミサキは…思考が停止しそうなので考えるのをやめたマキだった。
ミカはそんなマキもかわいいと、少し危ない考えが芽生えだしていた。
どうもマキのことがミサキとは違った意味でかわいくて仕方ないらしい。
だが、どうもマキとの間に距離がある。さらに先ほどの会話でもっと距離が開いたような気がしたミカは、以前ミサキから教わった距離を縮める方法を実行することにした。
マキをベットに誘い…
そして、電気が消す。
静まり返った寝室にはミカとマキの息遣いだけが聞こえる。
ーーー省略ーーー
朝方までベッドは揺れ続け、真っ暗な部屋からは2人の喘ぐ声が響き渡っていた。(百合モード)
『ジリリリリーン…ジリリリリーン』目覚ましの音が鳴り響く!
マキは目を覚ました。朝方までの出来事が嘘だったかのような大きな窓から刺し込む陽の光。だが朝方までのアレは現実だったことにすぐ気が付いた。
マキは…裸だった…。昨日の食事のおかげだろうか、疲れはさほど残っていなかった。
「マキちゃんおはよー。朝食できてるよー。早く着替えてこっちおいでー着替えはベットにおいてあるからね」
ミカはすでに起きて、制服に着替え、朝食まで作っていたのだ。
マキは朝方までのアレを思い出すと恥ずかしくなり、真っ赤な顔をしながら慌てて着替えだした。
「ミ、ミカちゃん…あの…お、おはよ。。。」
もう鬼畜のマキの姿は見る影もなくなっていた。
ミカは見事にマキとの距離を縮めてしまったのであった。
朝食を食べ終わり2人揃って家をでた。
そして仲良く手を繋いで学校へ向かった。




