【001話】魔王編1
*****魔界*****
異世界には色々な世界が存在する。ここはそんな世界の一つ、魔界である。
とてつもなく広大な領土に魔物や魔族、さらに異世界から迷い込んだ者など様々な者達が住む世界。
空には赤い雲が浮かびその先は暗闇に覆われており、魔界の光源はこの赤い雲によって得られている。
この赤い雲が人間界で例えるならば太陽のような光の源である。
魔界に住む魔族達はそれぞれが魔力という不思議な能力を身に宿し、その魔力を使って様々なことができるのである。例えば長距離間の移動を瞬間的に可能にしたり、建物の構築、魔物の討伐や魔族間での争いにも魔力を用いる。
しかし魔力を持つ以外は見た目も人間と変わらず、生活自体も同じような暮らしをしている。なので当然魔族同士での地位や領土を巡っての争いも絶えず起こっていた。
小さな徒党の小競り合いから始まり、やがて大きな勢力が支配するようになり、さらにはその大きな勢力間での戦争が起きたりといったような事である。
数万年に渡り魔界を支配しようと強大な魔力を宿した魔族が争いを繰り広げてきた結果、遂に魔界全土を支配する初代魔王が誕生した。
だが、魔王になったところで、その座を狙おうとする魔族は後を絶たず、魔王以上の魔力を持つ魔族により初代魔王は滅ぼされ、新たな魔王が君臨する。しかしその座を狙おうとする魔族は後を絶たなかった。
*****魔王がいる大広間*****
今日も新たな挑戦者が魔王のところへやってきた。
かなりの数の魔族を倒し、魔力を存分に身に宿したどこかの勢力の将だろう、大勢の配下を従え魔王のいる大広間までやってきた。
その挑戦者は、かなり自身満々で我こそが魔王にふさわしいといわんばかりの顔をし、魔王に言い放った。
「魔王の座を奪いにきた勝負しろ!」
「いいぞ、いつでもこい」
魔王は座ったままめんどくさそうな表情でそう答えた。
座ったままの魔王の態度に業を煮やし、挑戦者は怒り狂って魔力を解き放った。
「魔王!覚悟しろ!」
その言葉を発してから一瞬にして挑戦者は消されてさしまった。ついでにその挑戦者の配下の者達も後から攻められるのはめんどくさいからという理由で消し去ってしまった。
こうして魔王の座を狙った挑戦者は配下共々大広間から姿を消した。
(もう何度目だろう…。こうやって目の前に現れた魔族の者を亡き者にするのは…。)
ため息をつきながら魔王は思い出す。
(前魔王にしても、先程の奴にしても、まったく手応えも無くあっけなく倒してしまえる…。)
(これ以上闘う事に意味があるのだろうか…。)
(この魔界を支配する限り避けられようのない戦いなのは理解してはいるが、【魔王の座を賭けた戦い】にしては相手との実力差がかけ離れ過ぎている。)
(一体どうすれば次から次へとやってくる自殺志願者達を止められるのだろうか…。)
この【魔王の座を賭けた戦い】には誰でも簡単に挑める。しかも魔王に挑戦するのは、単体でも複数でも構わない。挑戦者の魔力が魔王の魔力を上回りさえすれば勝てる戦いなのだ。
しかし灼熱に燃え上がる太陽が蟻を灰にするような実力差があるのにこれ以上闘う意味すらないような気がする魔王だった。
そこで、魔王は考えた【魔王の座を賭けた戦い】そのものを無くす事はできないものかと。
配下のミサがいつも傍にいるので尋ねてみた。
「なあ、ミサよ。この無謀な挑戦者達をなんとか止められる事はできないだろうか?」
「魔王様、何をおっしゃられるのですか、この闘いは魔王となられましたあなた様の宿命です。どんなに実力差があろうとなかろうとこの戦いは避けられません!それに…」
ミサは何か言いかけようとしたが、少し照れるようにして、うつむいてしまった。
「それに?なんだ?」
「それに…魔王様が闘っているお姿を拝見できるだけでミサは…そ、その…幸せにございます。」
ミサは魔王の目を見つめながらそうつぶやいた。
(幸せ?若干変な気もするが…まあいいか。)
「そ、そうか…。でもなミサよ、闘っているといっても、ほとんど動かず座ったままで終わってしまうのだが…」
「はい。その堂々とされたお姿のまま全て終わらせる事がさらにミサを幸せに…まるで相手がそこにいなかったかのようなそんなとてつもない強さに益々憧れます。」
ミサは瞳をキラキラとさせながらそう言い放った。
「魔王としての宿命にしてもだ、これ以上の闘いは無意味な気がするのだが…」
そう言い放つと、ミサの目の色が変わり…なぜか興奮した表情でミサは答える。
「無意味ではありません!無謀にも魔王様に挑んでくるカス共を消し去るお姿、さらに実力差を理解もできずに消えゆくボンクラ共の顔を見るとミサは、ミサは!」
今度はニヤニヤとあきらかにあぶない表情になっていた。
(なぜ興奮してるんだろう?ニヤついてるし…こんなのを配下に加えたのは失敗だったか)と魔王は少し反省した。
「わ、わかった。下がってよい。」
とりあえずミサに相談したのは間違いだったようだと思い、どうすればこんな無意味な闘いが無くなるか自分だけで考えてみることにした。
(そもそもなんでこれだけ倒した魔族達がいるのにも関わらず次から次へと無謀な挑戦者がやってくるのか?もしかしたら勝てる?とか思われているからだろうか。だとしたら…舐められているんだな。この魔王にはどんなことをしても敵わないと教えるほうが手っ取り早そうだな。)
「そうだ!そうしよう!」
結論は案外簡単にでた。
何かを思いついた魔王は実行に移す為にミサを呼び戻した。
「魔王様お呼び頂きミサ参上いたしました。何なりとお申し付け下さいませ。」
「ミサ、頼みがあるのだが…」
その言葉を聞くとミサは何故か服を脱ぎだした。
「お、おい!ミサ何をやっているのだ?」
頼みがあると言っただけで服を脱ごうとするミサに困惑し尋ねてみた。
「はい?頼みとおっしゃられましたので、やっとこの日が来たと…それに準備は常時整えておりますが、なにか?」
(この日?準備は常時整えている?何か勘違いをしているようだ…。困ったものだ。)
「ミサよ、頼みと言うのはその様なことではない。実は…」
ミサが服を脱ぎかけているのを止め、耳元で頼みを伝えた。
ミサは魔王が耳元で囁くように話すのでおもわず固まってしまい、話し終わるまで動けなかった。
「か、かしこまりました魔王様!そうなると…場所も考えなくてはなりませんね。用意が整いましたらご報告致します。しばらくお待ちを。」
そう言い残しニコニコしながらミサは魔王の部屋から出て行った。
出ていく姿を見てかなり不安になった魔王だったが、依頼してしまったししょうがないかとあきらめ、とりあえずミサからの報告を待つことにした。
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